第8話:装備と登録、そして白銀の誓約
朝のヴェリシアの空は、どこまでも青かった。
俺は財布を開いて、中身を確認した。
金貨、ゼロ。
銀貨、三枚。
ソフィアの装備一式、武器、消耗品。
昨日一日で、手持ちのほぼ全部を使い切った。
後悔は、まだない。
だが「今日の宿代と飯をどうするか」という現実は、きっちりと目の前にある。
「ご主人さまぁ、顔が難しいです」
ソフィアが俺の顔を見て言った。
「財布の中身を計算してる」
「……わたしのせいですか」
「違う。俺が全部決めた」
「……でも」
「違う、と言った」
ソフィアが口を閉じた。
しばらく間があって、「……はい」と小さく返事をした。
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朝食を食べてから、ヴェリシアの冒険者ギルドへ向かった。
連邦のギルドよりも規模が大きく、雑多だ。
獣人、人間、エルフ系の冒険者が入り混じり、受付カウンターは常に混んでいる。
ソフィアはカウンターの喧騒に少し身を縮めながら、俺の少し後ろをついて歩いた。
「新規登録と、パーティ登録を頼みます」
受付の女性職員が書類を取り出し、こちらをちらりと見た。
視線がソフィアで少し止まる。
「獣人の登録は初めてですか?」
「はい」
「わかりました。種族特性スキルの確認が必要です。こちらに手をかざしてください」
ソフィアが恐る恐る手を伸ばすと、端末が光った。
《冒険者登録:ソフィア=ユルゲンス》
種族:獣人(犬属)
クラス:レンジャー(仮認定)
特性スキル:《野生の索敵》《俊足》《感覚強化》
「レンジャーで登録します。パーティ名は?」
俺は少し考えてから、答えた。
「白銀の誓約で」
ソフィアが、かすかに息をのんだ。
「パーティ登録完了です。こちらが証明証になります」
二枚のカードが手渡された。
俺のカードとソフィアのカード。
同じパーティ名が刻まれている。
ソフィアは自分のカードを、両手で受け取った。
「……その名前、好きです」
声が少し震えていた。
嬉しいのか、それとも「本当に自分のものになった」という実感が来たのか。
おそらく両方だろう。
《LIVE一部公開》
《コメント》
► 「白銀の誓約……いい名前だ」
► 「ソフィアちゃんの反応で泣いた」
► 「このパーティ絶対強くなる」
► 「登録者数:2,441人↑」
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登録を終えた後、掲示板で今日こなせる依頼を選んだ。
薬草採取、スライム殻回収、市街地の見回り補助。
どれも銀貨一~二枚程度の小口依頼だが、今の手持ちには切実だ。
「三件こなせば今日と明日は乗り切れる。行くか」
「はいっ、がんばります、ご主人さまぁ!」
ソフィアの声に張りがあった。
昨日まで壁際で膝を抱えていた子が、依頼票を持って「がんばります」と言っている。
一日でここまで変わるものか、と思いながら、俺は内心でその変化を受け取っていた。
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昼過ぎ、ヴェリシア近郊の草原で素材回収をこなしながら、配信を続けた。
《LIVE継続中》
視聴者数:1,204人
「今日は三件同時進行です。銀貨を稼いで飯を食います」
《コメント》
► 「現実的ですきw」
► 「生活感ある配信」
► 「でも二人だと心強そう」
ソフィアは草むらを進みながら、俺の少し前を歩いた。
犬耳が左右に微かに動き、索敵スキルが常時起動している。
「……スライム、います。右手、石の下」
「見えないけど信じる。右を頼む」
「はいっ」
ソフィアが短弓を引き、矢を放つ。
スライムが石の影から飛び出した瞬間を捉えた一射だった。
俺が音撃魔法でとどめを刺す。
「……上手いな」
「索敵が得意なだけです。あとは……ご主人さまが来てくれるので」
「俺が来る前提で動くな」
「……でも、来てくれますよね」
俺は少し黙ってから「来る」と答えた。
ソフィアがしっぽを小さく振った。
《コメント》
► 「「でも来てくれますよね」で死んだ」
► 「信頼感がすごい」
► 「この二人の連携天才じゃん」
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三件の依頼を全てこなして、夕方にギルドへ戻った。
報酬の銀貨五枚。
「今日の宿代と飯が出て、明日の分も少し残る」
「よかったです」とソフィアが言った。
「よかったじゃない。俺が計算ミスしただけだ」
「……でも、よかったです」
「……まあ、よかった」
食堂で今日の稼ぎから夕食を取った。
ソフィアはスープを両手で持って、ゆっくりと飲んだ。
新しい装備が少し泥で汚れている。
でも、彼女の顔は誇らしそうだった。
「また、明日も」
俺が言うと、ソフィアが「はい、ご主人さまぁ♪」と答えた。
語尾に、はじめて「♪」がついた気がした。
《配信終了》
本日の視聴者ピーク:2,801人
登録者数:2,441人(+338↑)
「白銀の誓約、今日が本当の一日目です。
見てくれた皆さん、ありがとうございました」
――この旅は、もうひとりじゃない。
――「白銀の誓約」という名前が、どこかの台帳に書き記された瞬間だった。
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