表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/25

第8話:装備と登録、そして白銀の誓約

 朝のヴェリシアの空は、どこまでも青かった。




 俺は財布を開いて、中身を確認した。




 金貨、ゼロ。


 銀貨、三枚。




 ソフィアの装備一式、武器、消耗品。


 昨日一日で、手持ちのほぼ全部を使い切った。




 後悔は、まだない。




 だが「今日の宿代と飯をどうするか」という現実は、きっちりと目の前にある。




「ご主人さまぁ、顔が難しいです」




 ソフィアが俺の顔を見て言った。




「財布の中身を計算してる」




「……わたしのせいですか」




「違う。俺が全部決めた」




「……でも」




「違う、と言った」




 ソフィアが口を閉じた。


 しばらく間があって、「……はい」と小さく返事をした。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 朝食を食べてから、ヴェリシアの冒険者ギルドへ向かった。




 連邦のギルドよりも規模が大きく、雑多だ。


 獣人、人間、エルフ系の冒険者が入り混じり、受付カウンターは常に混んでいる。


 ソフィアはカウンターの喧騒に少し身を縮めながら、俺の少し後ろをついて歩いた。




「新規登録と、パーティ登録を頼みます」




 受付の女性職員が書類を取り出し、こちらをちらりと見た。


 視線がソフィアで少し止まる。




「獣人の登録は初めてですか?」




「はい」




「わかりました。種族特性スキルの確認が必要です。こちらに手をかざしてください」




 ソフィアが恐る恐る手を伸ばすと、端末が光った。




 《冒険者登録:ソフィア=ユルゲンス》


 種族:獣人(犬属)


 クラス:レンジャー(仮認定)


 特性スキル:《野生の索敵》《俊足》《感覚強化》




「レンジャーで登録します。パーティ名は?」




 俺は少し考えてから、答えた。




「白銀の誓約はくぎんのせいやくで」




 ソフィアが、かすかに息をのんだ。




「パーティ登録完了です。こちらが証明証になります」




 二枚のカードが手渡された。




 俺のカードとソフィアのカード。


 同じパーティ名が刻まれている。




 ソフィアは自分のカードを、両手で受け取った。




「……その名前、好きです」




 声が少し震えていた。


 嬉しいのか、それとも「本当に自分のものになった」という実感が来たのか。


 おそらく両方だろう。




 《LIVE一部公開》


 《コメント》


 ► 「白銀の誓約……いい名前だ」


 ► 「ソフィアちゃんの反応で泣いた」


 ► 「このパーティ絶対強くなる」


 ► 「登録者数:2,441人↑」




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 登録を終えた後、掲示板で今日こなせる依頼を選んだ。




 薬草採取、スライム殻回収、市街地の見回り補助。


 どれも銀貨一~二枚程度の小口依頼だが、今の手持ちには切実だ。




「三件こなせば今日と明日は乗り切れる。行くか」




「はいっ、がんばります、ご主人さまぁ!」




 ソフィアの声に張りがあった。




 昨日まで壁際で膝を抱えていた子が、依頼票を持って「がんばります」と言っている。


 一日でここまで変わるものか、と思いながら、俺は内心でその変化を受け取っていた。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 昼過ぎ、ヴェリシア近郊の草原で素材回収をこなしながら、配信を続けた。




 《LIVE継続中》


 視聴者数:1,204人


「今日は三件同時進行です。銀貨を稼いで飯を食います」




 《コメント》


 ► 「現実的ですきw」


 ► 「生活感ある配信」


 ► 「でも二人だと心強そう」




 ソフィアは草むらを進みながら、俺の少し前を歩いた。


 犬耳が左右に微かに動き、索敵スキルが常時起動している。




「……スライム、います。右手、石の下」




「見えないけど信じる。右を頼む」




「はいっ」




 ソフィアが短弓を引き、矢を放つ。


 スライムが石の影から飛び出した瞬間を捉えた一射だった。




 俺が音撃魔法でとどめを刺す。




「……上手いな」




「索敵が得意なだけです。あとは……ご主人さまが来てくれるので」




「俺が来る前提で動くな」




「……でも、来てくれますよね」




 俺は少し黙ってから「来る」と答えた。




 ソフィアがしっぽを小さく振った。




 《コメント》


 ► 「「でも来てくれますよね」で死んだ」


 ► 「信頼感がすごい」


 ► 「この二人の連携天才じゃん」




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 三件の依頼を全てこなして、夕方にギルドへ戻った。




 報酬の銀貨五枚。




「今日の宿代と飯が出て、明日の分も少し残る」




「よかったです」とソフィアが言った。




「よかったじゃない。俺が計算ミスしただけだ」




「……でも、よかったです」




「……まあ、よかった」




 食堂で今日の稼ぎから夕食を取った。


 ソフィアはスープを両手で持って、ゆっくりと飲んだ。




 新しい装備が少し泥で汚れている。


 でも、彼女の顔は誇らしそうだった。




「また、明日も」




 俺が言うと、ソフィアが「はい、ご主人さまぁ♪」と答えた。




 語尾に、はじめて「♪」がついた気がした。




 《配信終了》


 本日の視聴者ピーク:2,801人


 登録者数:2,441人(+338↑)




「白銀の誓約、今日が本当の一日目です。


 見てくれた皆さん、ありがとうございました」




 ――この旅は、もうひとりじゃない。




 ――「白銀の誓約」という名前が、どこかの台帳に書き記された瞬間だった。








少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ