第49話 仲間たちが来る
どのくらい待っただろう。
虹の橋のたもとに腰を下ろして、空を見ていた。
アルケディアの空は広い。
地上の空とは違う。どこかで圧力が取れたような、解放感がある。
風が心地いい。
「……こんな場所があったんだな」
配信ウィンドウを見た。
《視聴者数:31,203人》
まだ多くの人が見ている。
《コメント:仲間たちまだかな》
《コメント:秀直一人で座ってる》
《コメント:早く来てほしい》
俺も、早く来てほしかった。
「……一人でいるのが嫌になった」
つぶやいてから、少し驚いた。
転生した当初は、一人でいることが怖かった。
それがいつからか、仲間がいることが当たり前になった。
今は、一人でいる時間が、少し長く感じる。
「……変わったな、俺も」
《コメント:秀直が変わった》
《コメント:連邦の頃と全然違う》
《コメント:でも根っこは変わってないよ》
「根っこは変わってないか。……そうだといいが」
光が差した。
虹の橋の途中が、明るくなった。
人影が現れた。
「ご主人さまぁ……!!」
ソフィアが走ってきた。
銀の耳が風を受けてぴんと立って、顔が笑っていた。
「ソフィア」
「着きましたぁ……!! 見てください、この空! この空気! ソフィアの耳に、たくさんの音が聞こえます!」
「どんな音だ」
「竜の声と、風の声と、水の声! 全部が歌ってます!」
後ろからシャルロッタが来た。
空を見上げて、口を押さえていた。
「……美しいですわ。こんな場所が、空の上に」
ティアナが来た。
「うちの知ってる歌が、全部ここから来てる気がする……!」
ミリアムが来た。
砂の上に立って、周囲をゆっくり見渡した。
「……処女だもん、って関係ないですが……ここ、本物ですね」
「本物だ」
「……来て良かったです。もん」
最後にクリスティーナが来た。
虹の橋の端に立って、足元を見て、空を見て、遠くのゼル=イスラを見た。
それから俺を見た。
「……師匠」
「なんだ」
「……記録、ここでも続けますか」
「もちろんだ」
「さすししょ……!!」
《コメント:全員揃った!!》
《コメント:ここまで来たな》
《コメント:泣いてる》
六人が虹の橋のたもとに集まった。
「……ご主人さまぁ、一人で待ってて、寂しくなかったですか?」
ソフィアが俺の隣に並んで聞いた。
「なかった、とは言えないな」
「……えっ、寂しかったんですか?」
「少し」
ソフィアが「にぱっ」という顔をした。
「ソフィア、来るのが遅くてすみません。でも、寂しいって言ってくれて嬉しいです」
「なんで嬉しいんだ」
「ソフィアのことを必要としてくれてるってことだから」
俺は何も言えなかった。
「……必要としてる」
「はい!」
《コメント:ソフィアちゃんの言葉が毎回刺さる》
《コメント:秀直、素直になったな》
「……行くか」
「はい!」
六人で歩き始めた。
ゼル=イスラへの道。
白い砂から、緑の草原へ変わっていく。
「広いですわね」とシャルロッタが地図を広げようとして「……地図がない。ここは地図がないですわ」と気づいた。
「地図を持ってない大陸は初めてですわっ」
「俺も初めてだ」
「どうするんですか」
「見たまま進む」
「……それが師匠のやり方ですか」とクリスティーナが言った。
「配信者のやり方だ。見たものを記録する」
「さすししょ」
「今は雰囲気が合ってる」
「えへへ……!」
遠くで竜が飛んでいた。
「……本物の竜だ」とシャルロッタが立ち止まった。
「でかいな」
「でかいですわっ! あんなものが飛んでいるとは……!」
ソフィアが「ご主人さまぁ、耳に声が届きました。この竜たち、攻撃してくる気はないです」と言った。
「分かるのか」
「なんとなく。悪意がないです。ただ、見ています」
《コメント:竜にも見られてる秀直》
《コメント:監視されてる人生》
「……よく見られる人生だな、俺は」
ミリアムが「慣れてる……もん」と言った。
「お前に言われると、そうだな」
「いつもリスナーさんが見てますからね……もん」
「それもそうだ」
《コメント:ミリアムちゃんの一言がたまに鋭い》
草原を歩きながら、ティアナがぽつりと言った。
「……お兄ちゃん」
「なんだ」
「うちのこと、引っ張り続けてくれてたね。孤児院を出てから、ずっと」
「引っ張った覚えはないが」
「うちが勝手についてきてる、ってことは分かってる。でも……連れてってくれてありがとう。ここまで」
俺は少し考えた。
「お前が来てくれたから、皇国の老婆の歌を覚えられた。それがなかったら、法王を少し楽にさせることもできなかった」
「……うちが役に立てたの?」
「役に立った」
ティアナが「えへへ」と笑った。
それから「だぁりん」と言った。
「それは止めろ」
「もうちょっとだけ!」
《コメント:ティアナちゃんぶれない》
《コメント:でもこういうティアナちゃんが好き》
ゼル=イスラの外縁が見えてきた。
石造りの建物。広場。竜の発着場。
遠目でも、地上の都市とは全く違う雰囲気が分かる。
「……行くか」
「行きますっ」とソフィアが言った。
「行きますわっ」とシャルロッタが言った。
「行きます……もん」とミリアムが言った。
「行くよ!」とティアナが言った。
「さすししょ……! 行きます、師匠」とクリスティーナが言った。
六人で、ゼル=イスラへ歩き出した。
──その姿を、遠い場所の何かが、静かに笑いながら見ていた。
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