第42話 評議会の審判、全配信が裁かれる日
評議会の審査室は、思っていたより小さかった。
石造りの部屋に、半円形に並んだ七つの椅子。
そこに七人の評議員が座っている。
年齢は様々だ。六十代の老人、四十代の女性、三十代の男、白髪の元商人らしき人物。
昨日対応した四十代の女性も、その一人だった。
俺は部屋の中央に立った。
随行者は入れない。俺一人だ。
「神酒秀直殿。本日は公国評議会の審査にお越しいただき、ありがとうございます」
中央の老人が口を開いた。
「我々は、あなたの連邦入国以来の全配信記録を精査しました。本日は、その結果についていくつかお聞きします」
「どうぞ」
「まず一点。あなたは連邦、共和国、帝国、皇国において、それぞれ現地の権力構造に批判的とも取れる配信を行っています。これは意図的なものですか」
「意図的ではない。見たものを記録した結果、そうなった」
「見たものを記録する、とは?」
「俺のスキルは記録と配信です。見たものを流す。聞いたことを届ける。内容を選別する基準は一つ、本物かどうかだけです」
老人がうなずいた。
《コメント:審査始まった》
《コメント:緊張する》
二番目の評議員が口を開いた。四十代の男だった。
「共和国での配信について聞きます。ナローア組織との接触、ダリウス氏の記録の配信。これによって共和国政府との間に軋轢が生じましたが、あなたはそれを予測していましたか」
「していた」
「それでも配信した理由は」
「記録する、と約束したからです。ナローアのダリウスに。そして、俺の視聴者に」
「約束を守るために、リスクを取ったと」
「そうです」
「……帝国でも同じですか。グレゴール氏の記録を、帝国の情報管理規定の範囲内でギリギリまで配信した」
「同じです」
「皇国では、情報管理規定の警告を受けながら、その翌日に広場での配信を強行した」
「強行ではありません。絶対君主の許可を得た上でやりました」
「……許可を取った」
「取れると思ったから、直接交渉しました」
評議員たちが、互いに目を合わせた。
《コメント:秀直の答えが全部、記録通りだ》
《コメント:この人たち、全部見てたんだな》
《コメント:緊張するけど、秀直なら大丈夫》
三番目の評議員、白髪の老人が続いた。
「あなたのパーティについて聞きます。ソフィア、シャルロッタ、ミリアム、ティアナ、クリスティーナ。五名全員が、あなたとの出会いを経て加入しています。各国で拾い上げてきたとも言えますが……これは意図的な行動ですか」
俺は少し考えた。
「……意図していませんでした。たまたまそこにいて、通り過ぎなかっただけです」
「たまたま?」
「連邦で言葉にしたことがあります。次は通り過ぎない、と。それが癖になっただけかもしれません」
「……癖」
老人が小さく笑った。
「面白い表現だ」
四番目の評議員、四十代の女性が口を開いた。
「あなたの配信スタイルについて聞きます。顔を映さない、名前を出さない、許可なく人物を撮影しない。この原則は配信開始当初から一貫していますが、なぜですか」
「記録は、記録された者のためにあるべきだと思うからです。俺のために誰かを使うつもりはない」
「……記録は記録された者のため」
「はい」
「逆に言えば、あなた自身は記録されることを厭わない」
「俺の配信は全部公開しています。隠すものがない」
「……なぜ隠すものがないと言い切れますか」
俺は少し笑った。
「視聴者が全部見てるからです。二万五千人が。その人たちが証人です」
《コメント:俺たちが証人と言ってくれた》
《コメント:泣いてる》
《コメント:全部見てきた》
質疑が続いた。
連邦でのC ランク昇格の経緯。
共和国での義勇兵試練の詳細。
帝国での皇帝との会話の内容。
皇国での絶対君主との交渉の詳細。
全て、配信記録に基づいた質問だった。
俺は配信した通りに答えた。
嘘をつく理由がなかった。
一時間が経った。
中央の老人が、書類を静かに閉じた。
「最後に一つ」
「どうぞ」
「あなたは五大国を回ることで、何を得ようとしていますか。勲章ではなく、その先に何がありますか」
俺はこの質問が来ることを、どこかで予感していた。
「示教国に行きたいと思っています」
「理由は」
「鎖国しているあの国に、何かが起きている。その前に、俺はそこへ行って記録したい。光の英雄かどうかは分かりません。ただ、五大国を回った者だけが届けられる場所があるなら、届けたいものがあります」
「……何を届けたいのですか」
「外の声です。世界中の人間が、あの国のことを知りたがっている。その声を届けたい」
老人がゆっくりとうなずいた。
「……分かりました。審査官は別室で協議します。しばらくお待ちください」
廊下のベンチで待った。
十分。二十分。
配信ウィンドウのコメントが流れていく。
《コメント:どうなる》
《コメント:絶対合格だよ》
《コメント:待ってる》
扉が開いた。
中央の老人が出てきた。
「神酒秀直殿」
「はい」
「評議会の審査結果をお伝えします」
老人が、わずかに表情を緩めた。
「全会一致で、合格と判断しました」
《コメント:きたーーーー!!!!》
《コメント:やった!!!》
《コメント:全会一致!!》
「それと、一つ付け加えます」と老人が続けた。
「我々も、あなたの配信の視聴者でした。連邦の第一話から。……商人というのは、良い物を見つけたら離さないものでして」
《コメント:評議会リスナーだったwww》
《コメント:だよな、全部見てたもんな》
《コメント:公国らしい》
俺は少し笑った。
「……ありがとうございます」
「信用の証は、後ほどお渡しします。……神酒殿、示教国へ急いでください。あの国から届く情報が、ここ数日で変わっています」
「変わった?」
老人の顔が、わずかに曇った。
「巡礼者が誰一人、戻ってこない。ただの鎖国ではない何かが、あの国で起きているかもしれません」
──その言葉が、俺の背中を押した。
少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。




