第2話:ギルド登録と初投稿
ゼルティアの城門前は、朝から大混雑だった。
隊商の荷馬車が列をなし、農夫、旅人、商人、傭兵らしき連中が入り乱れている。
門番が一人ずつ身元確認をするらしく、行列はほとんど動かない。
俺は最後尾に並びながら、街を眺めた。
段丘都市だ。
城壁の内側が階段状の地形になっており、上へ行くほど格式の高い区画になっているらしい。
一番上の塔には緑の旗が揺れていて、たぶんあれが連邦政府の庁舎か何かだろう。
城門が近づくにつれ、食べ物の香りが濃くなってきた。
焼きたてのパン、スパイスを効かせた肉、なにか甘いものを煮ているような匂い。
胃が鳴った。昨日の干し肉一枚が今朝の全食糧だったので、当然といえば当然だ。
「次の方ー」
門番に呼ばれ、前に進む。
「旅人? 商人? 冒険者?」
「冒険者を目指してます。ギルドに登録したいんですが」
「ギルドへの道案内が必要か?」
「大通りをまっすぐ行けば着くと聞いたんで、大丈夫です」
「通れ。次」
あっさりしたものだった。
《コメント》
► 「入城できた!」
► 「城門前の混雑、異世界っぽい」
► 「メシ配信してくれ腹減った」
「わかる、俺も腹減ってます」
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大通りは活気に満ちていた。
石畳の両脇に店が並び、呼び込みの声が重なり合う。
鍛冶屋の金属を打つ音、薬屋の店先に吊るされた乾燥ハーブの香り、露天で売られている見知らぬ果物。
頭上には洗濯物が何本もの紐に渡されていて、風が吹くたびにはためいている。
「これはコンテンツになる……」
思わず呟いた。
「この通り、全部映したい。ただ歩くだけで異世界観光動画が撮れる」
配信ウィンドウを広角モードに切り替え、通りの景観を捉えながら歩く。
《コメント》
► 「これ普通に綺麗」
► 「ファンタジー感ある」
► 「果物何あれ、食べてほしい」
視聴者が少しずつ増えている。
登録者数:11人。
「ありがとうございます、登録してくれた方」
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冒険者ギルドは、大通りの中ほどにある三階建ての石造りの建物だった。
入口の上に剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられており、扉は常に開け放たれている。
中に入ると、天井の高い広間が広がっていた。
左奥には依頼の掲示板、右側にはカウンター、奥には食堂らしきスペース。
武装した冒険者たちが依頼を選んだり、食事をとったりしている。
カウンターに並んで順番を待つ。
俺の番になると、受付嬢が書類を取り出した。
栗色の髪を後ろで束ねた、俺と同年代くらいの女性だ。
「登録希望ですか?」
「はい。冒険者として」
「職業を確認します。……旅芸人、ですか」
彼女のペンが止まった。
目が書類と俺を三往復した。
「……旅芸人」
「はい」
「当ギルドへの登録は、どのような職業でも規則上は可能です。ただ、旅芸人での申請は……私が担当になってから初めてですね」
「珍しいですか?」
「珍しいです」
淡々と、でも正直に言った。
「武器は?」
「錫杖です。正式名称は虹環のスティラーヴェ。演奏・棒術・魔法伝達の兼用です」
彼女は「棒術で登録しますね」と書類に記入した。
「特典スキルの確認をします。…………《インフィニット・ストリーム》《レビュー能力》《サブスクリプション召喚》……」
読み上げるたびにペンが止まる。
「これらは……どういったスキルですか?」
「配信系です。映像を世界に送ったり、視聴者が増えるとアイテムが手に入ったりします」
「…………」
彼女は三秒ほど沈黙してから、「登録できます」と言った。
「ありがとうございます」
「未開放スキルも確認します。《物流召喚アプリ》《視聴者干渉》……全部配信関係、ですね」
「今は使えないですが、条件が揃うと解放されるそうです」
「……そうですか」
もう何も言わなかった。
プロだな、と思った。
理解できなくても書類を通す。それが仕事だ。
《コメント》
► 「受付嬢さんの堪え具合がうまいw」
► 「プロの塩対応」
► 「これ普通に困惑してるよね」
「ギルドカードです。最初はEランク、若葉等級からの出発になります。まず薬草採取や小型魔物の駆除から始めてください」
「わかりました」
「……頑張ってください」
最後だけ、少し柔らかい声だった。
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掲示板で「薬草採取・初心者向け」の依頼を受け、街の南門から森へ向かった。
採取自体は地味な作業だ。
指定の薬草を探し、根を傷つけないよう丁寧に引き抜いて、専用の袋に入れる。
それを繰り返すだけ。
ただ、実況しながらやると話が変わる。
「これがニルヴェ草ですね。葉の形がハート型で、裏が白い。見た目がかわいいので採取してて楽しいです。臭いはちょっと独特ですが……」
《コメント》
► 「採取実況ありなんだ」
► 「意外と面白い」
► 「作業用BGMにしてる」
► 「臭いって言い方が正直すぎるw」
地味な依頼が、配信の素材になる。
そういうことか、と俺は思った。
異世界のどんな日常も、画面越しには非日常だ。
途中で野ネズミの群れに絡まれたが、第1話の経験が活きて余裕を持って対処できた。
一話目の焦りと比べると、体が動き方を覚え始めている実感がある。
《コメント》
► 「成長してる!」
► 「前より動きが落ち着いた」
► 「ネズミより怖い敵が来たらどうすんの」
「来たら全力で逃げます」
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ギルドに戻り、採取物を納品する。
受付嬢が確認して、銅貨を数枚手渡してくれた。
「依頼達成、確認しました。これが報酬です」
「ありがとうございます。これ、一食分くらいですか?」
「食堂なら昼食が一回食べられます」
「助かります」
食堂でスープとパンを頼んだ。
具は根菜と豆で、塩気が強くてうまかった。
三十三年間、コンビニ飯とデスク飯で生きてきた体に、熱い汁物が染みた。
「……うまい」
《コメント》
► 「食レポしてくれ」
► 「美味しそう」
► 「初めての異世界飯」
「スープは根菜がたくさん入ってて、こっちの大根みたいな野菜が特に好みです。パンは硬め。日本のふわふわ食パンは夢のまた夢ですね」
《コメント》
► 「食パン恋しい気持ちわかるw」
► 「異世界の飯比較してほしい」
► 「登録した」
登録者数:47人。
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宿を取り、部屋に戻ってから配信の「編集作業」に入った。
《インフィニット・ストリーム》の編集機能を起動すると、今日一日の録画データが表示される。
入城シーン、ギルド登録、採取作業、戦闘、食事。
切り抜きたい場面に印をつけ、BGMをつけて、サムネイルを選ぶ。
「城門入城からギルド登録まで、連続で繋いで……タイトルは『異世界転生一日目、冒険者ギルドに登録してきた』でいいか」
《システム:編集完了》
《投稿処理中……》
《投稿完了》
「……出た。初投稿」
部屋の窓から夜の街を眺めながら、俺は待った。
三分後。
《通知:コメントが届きました》
「こんな配信チャンネルあったのか。面白い」
一件目のコメントだった。
「……」
俺はしばらく、その一行を見つめた。
誰かが、この世界で俺の動画を見てくれた。
見知らぬ誰かが、「面白い」と思ってくれた。
それだけのことが、胸の奥でじわりと広がっていった。
「……よし。明日も撮ろう」
《本日の投稿結果》
再生数:23 高評価:7 コメント:3
登録者数:52人(+41↑)
「俺の声が、この世界に届き始めてる」
――それを、どこかで誰かが書き留めた。
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