表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/56

第23話 ミリアムの過去と、デスティニーの意味

 パラディアに来て五日目。




 朝の配信で、俺は一度整理することにした。




 視聴者に向けて話すことで、自分でも考えが整理される。それが配信者の習慣だ。




 《LIVE開始》


「おはようございます。今日は少し話したいことがあります」


 #異世界配信 #共和国アーク #スキル解説


 視聴者数:2,441人 登録者:10,441人




「俺のスキルに《デスティニー観測》というのがあります。スキル一覧には最初から載っていましたが、発動条件も効果も長い間『不明』でした」




 《コメント》


 ► 「デスティニーって何度か出てきてたやつか」


 ► 「ミリアムのやつ?」


 ► 「気になってた」




「ミリアムという後輩がいます。今のパーティメンバーです。彼女と初めて会ったのは転生直後、連邦で冒険者をやってた頃です。その頃は後輩というだけで、特別な関係じゃなかった」




「でも彼女が盗賊団に攫われた時に助けた。その直後、このスキルが初めて動いた。ミリアムの背中に、俺にしか見えない紋様が浮かんだ。数字が出た。10%」




「その後、別の場面でも助けた。数字が25%になった。また別の場面で35%になった。今は35%です」




「わかってきたことを話します。この数字は、俺とミリアムの間に積み重なっている何かの量を示していると思います。助けるたびに上がる。でも、助けること以外でも上がるかもしれない。まだ全部は見えていない」




「100%になったら何が起きるかは、わかりません。でも、スキルの名前は『デスティニー』です。運命。その言葉が何を意味するかは――まだ答えが出ていない」




 《コメント》


 ► 「運命……」


 ► 「なんか怖いような楽しみなような」


 ► 「ミリアムさんはそれを知ってるの?」


 ► 「知らないんじゃないか」




「ミリアムは知りません。俺にしか見えないので」




「今日はその続きになるかもしれない日です。以上です」




 《LIVE一時停止》








 朝食を終えて、五人で情報収集に出た。




 目的はナローア拠点との接触だ。


 宿主から聞いた情報では、パラディア旧市街の東側に「壊れた鐘楼」がある。そこが接触ポイントだという。




 東区は市場が集まっている場所で、人通りが多い。


 人通りが多い方が、かえって監視が薄い場所もある。




 五人で歩いていると、ミリアムが俺の後ろをいつもより近い距離でついてきていた。




「……なんかいつもより近いぞ」




「……気のせいです」




「そうか」




「……昨日から五人になったから、ちょっと人が増えて、落ち着かないんです」




「ソフィアもティアナもシャルロッタも、お前の知り合いだろ」




「……知り合いと一緒に旅するの、慣れてないんです。一人でいることの方が多かったので」




 俺は少し考えてから「緑の牙のパーティは?」と聞いた。




「……あれは、わたしがリーダーだったので。バラバラになっちゃいましたけど」




「そうか」




「……先輩のパーティって、みんな対等な感じがして、なんか慣れないです」




「対等だ。お前も対等だ」




 ミリアムが少し黙った。




「……わたし、誰かと対等に並んで歩いたこと、あんまりないかもしれないです」




「今並んでる」




「……はい」




 ミリアムのくせ毛が、朝の風に揺れた。






 壊れた鐘楼を探して東区を歩いていた昼過ぎ、路地の奥で声がした。




「おい、待て」




 振り返ると、共和府の制服を着た男が二人立っていた。


 腰に剣。目に、何かを品定めするような光がある。




「冒険者証を見せろ」




「見せます」




 俺が証明書を出した。




 男が確認してから「お前たち、パラディアに何日いる」と聞いた。




「五日です。義勇兵の依頼状もあります」




「見せろ」




 依頼状を出した。




 男が確認した。目が、証明書から俺たちの顔を順番になめていった。




 ソフィアで止まった。




「亜人はいつから入城制限の対象だ。許可証はあるか」




「ギルドの依頼状にパーティ全員の入城許可が記載されています」




「ギルドの書類と共和府の制限は別だ。共和府発行の許可証が必要だ」




「そんな規定は入城時に聞きませんでした」




「三日前から追加された」




 俺は黙った。


 三日で後付けした規定だ。つまり、難癖をつけている。




 男の目がソフィアを見ていた。


 値踏みする目だった。




 ソフィアが俺の後ろで耳を伏せていた。




 その時、ミリアムが前に出た。




「……少し聞いていいですか」




 男がミリアムを見た。




「その規定、文書で示せますか」




「なんだと」




「三日前に追加された規定なら、公示文書があるはずです。共和府の規定は議会の承認を経て文書化されます。見せてもらえれば、すぐ従います」




 男の顔が変わった。




「……小賢しいことを言うな」




「事実を聞いているだけです」




「お前、どこの出だ」




「連邦の冒険者です。翠光章持ちです」




 ミリアムが翠光章を出した。




 男が舌打ちした。




 翠光章は連邦が発行した国際的な証明証だ。共和府が単独で無効にはできない。それをミリアムは知っていた。




「……行け」




 男が言い捨てて、路地を戻っていった。






 路地を出てから、ソフィアが「……ミリアムさん、ありがとうございます」と言った。




「……たまたまです」とミリアムが言った。




「たまたまじゃない」と俺は言った。「翠光章の効力を咄嗟に使える人間は少ない」




「……連邦で長く活動してたので、覚えてただけです」




「それが経験だ」




 ミリアムが左目のピンを指で直した。




「……ソフィアさんが怖い思いしてるの、見たくなかったので」




「……えっ」とソフィアが言った。




「……な、なんでもないです」




「……ミリアムさん」




「……なんですか」




「……ありがとうございます」




 ミリアムが顔を背けた。




 耳は赤かった。




 《コメント》


 ► 「ミリアム有能すぎる」


 ► 「ソフィアちゃんを守ったのか」


 ► 「このパーティの関係性がたまらない」








 鐘楼への道を再開して、しばらく経った頃だった。




 路地の曲がり角で、男が三人待ち構えていた。




 さっきの制服組とは違う。


 フードを深くかぶっている。手に縄を持っている一人が、ミリアムを見ていた。




「一人だけもらっていく。その女だ」




 俺が前に出た。




「理由は」




「共和府の命令だ。その女は昨日、市民集会に参加した疑いがある。連行して事情を聞く」




「昨日、彼女はずっと俺たちと一緒にいました」




「証人はお前たちだけか」




「そうだ」




「……信用できないな。抵抗するなら実力を使う」




 男たちが距離を詰めた。




 ミリアムが盾を構えた。




「……来いよ」




 低い声だった。




 でも、体の震えは止まっていなかった。怖いのは怖い。でも引かない、という顔だった。




 先頭の男が走った。




 ミリアムが横に跳んで盾で受け流した。そのままレイピアで手首を打った。




 男が「っ」と声を上げて縄を落とした。




 俺が「打音・烈波」で残り二人を壁に叩きつける。




 三秒で終わった。




 男たちが路地を逃げていった。




 ミリアムが盾を下ろした。




 左目のピンが、戦闘の振動で少しずれていた。




「……大丈夫か」




「……はい」




「うまかった」




「……先輩に言われると、なんか変な感じです」




「なぜ」




「……ずっと先輩に助けてもらってたから。わたしが先に動けたの、なんか、変な感じで」




 俺はミリアムのピンのずれに気づいた。




 言おうかと思ったが、やめた。


 本人が気づいて直す動作が、照れ隠しになっているのを知っていたから。




 ミリアムが自分でピンに触れた。




 指先でゆっくり直しながら、下を向いた。




「……先輩」




「なんだ」




「……わたし、故郷に村があります。小さい村です。両親は早くに死んで、一人で冒険者になりました。強くなりたかった。誰かに頼らずに生きたかった」




 俺は黙って聞いた。




「……でも、何度も助けてもらいました。先輩に。最初は恥ずかしかったです。また助けてもらった、って」




「今は?」




 ミリアムが顔を上げた。




 アンバーブラウンの瞳が、真っ直ぐ俺を見た。




「……今は、少し違います。助けてもらうことと、頼ることは、違うんだと思い始めました。今日みたいに、わたしが誰かを守れる場面もある。それがあってもいいなら……助けてもらうのも、恥ずかしくないかもしれない」




「そうだ」




「……先輩が言うと、すごく簡単そうですね」




「簡単じゃない。でも、正しい」




 ミリアムが「……ばかみたいです」と言った。




「どこが」




「……そういうことをすらって言えるとこが」




「三十三年間、誰にも言えなかった分だ」




「……またそれ言う」




「自分でも気に入ってる」




 ミリアムがくせ毛を指でいじりながら「……わたし、先輩と一緒にいてもいいですか」と言った。




「最初から一緒にいる」




「……正式に聞きたかったんです」




「いいぞ」




 ミリアムが「……ありがとうございます」と小さく言った。




 その背中に、俺の目にだけ見える紋様が灯った。




 前より、鮮やかだった。




 《SYSTEM》


 《デスティニー結合度:65%》


 《運命紋章③ 点灯(金色)》




 金色だった。




 桜色が金色に変わった。




 段階がある。そして、まだ終わっていない。




(100%の先に、何がある)






 夜、配信を再開した。




 《LIVE再開》


 視聴者数:2,103人




「今日の話をします。デスティニーの数字が65%になりました」




 《コメント》


 ► 「65になった!」


 ► 「金色になったの見えてた?」


 ► 「残り35%か」




「金色の紋章が増えました。段階があるんだと思います。100%まで、あと二段階くらいあるかもしれない」




「……一つ思ったことを話します」




 俺は少し間を置いた。




「デスティニー観測というスキルが、俺だけに見える紋様でミリアムの変化を教えてくれる。便利なシステムです。数字を見れば、縁が深まっているかどうかわかる」




「でも今日、ミリアムが話してくれたことは、システムの数字より前にあった話でした。助けることと頼ることの違いを、自分で考えて、自分で言葉にしていた。それは数字とは関係ない」




「数字は観測しているだけで、作り出しているわけじゃない。何かを積み重ねているのは、俺でも数字でもなく、ミリアム自身だ」




 《コメント》


 ► 「……」


 ► 「それ大事なこと言ってる」


 ► 「システムに人は収まらないってことか」


 ► 「ご主人さまって、こういうことを考えてるんだ」




「配信スキルも同じかもしれない。視聴者数は数字だ。でも、今日の市民広場で声を出せなかった人たちや、ティアナの歌を二千人が黙って聴いた瞬間は、数字の外にあった」




「……俺が好きなのは、たぶん数字じゃない。数字の外にある、ああいう瞬間だ」




 《配信終了》


 本日の視聴者ピーク:3,201人


 登録者数:10,803人(+362↑)




 《編集メモ》


「今日のタイトル:


『数字の外にあるもの』


 ……これにしよう」




 パラディアの夜が、静かに更けていった。






少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ