第11話 奪還戦、少女たちの咆哮
廃墟の内部に踏み込んでから、十分が経っていた。
ミリアムを確保して地下通路に向かっている途中、増援が来た。
「前から三人、後ろからも来ます!」
ソフィアの声が緊張で高くなった。
廃墟の廊下は狭い。
前後を挟まれたら逃げ場がない。
「後ろを頼む。俺が前を抑える」
「わかりました!」
ミリアムが「……わたしも」と言った。
「無理するな、まだ護符効果が残ってる」
「動けます。足首だけです」
「肩を貸す。動きながら戦う」
前から来た三人が、刃を構えて走ってくる。
廊下が狭い分、こちらにも有利だ。
横に広がれない。一列でしか来られない。
俺は錫杖の石突きを床に叩きつけた。
「打音・破陣ッ!」
七環が共鳴する。
爆発的な衝撃波が廊下を走り、先頭の一人が吹き飛んだ。
残り二人がひるんだ一瞬、ミリアムが動いた。
「はぁっ!」
護符の影響で魔力は使えない。
でも、体の動きは止まっていなかった。
レイピアで二人目の剣を弾き、盾で三人目の顔面を打つ。
速い。
Dランクの動きじゃない。
「……せんぱい、後ろ!」
叫んだ瞬間、ソフィアの矢が俺の耳をかすめた。
振り向くと、背後から来た男が矢を受けて壁に倒れていた。
「ご主人さま、今のは危なかったです」
「お前の矢も危なかった」
「外しませんでした」
「……信頼してるよ」
ソフィアの耳が一瞬ぴんと立った。
《コメント》
► 「連携!!!」
► 「ソフィアちゃんの矢すごい」
► 「ミリアムさんも動いてる」
► 「このパーティ最強じゃん」
倒れた男たちを越えて、廊下を走った。
前の障害は排除した。
でも、後ろからまだ足音が追ってくる。
「増援、四人! 速い!」
「ソフィア、お前が殿を」
「わかりました。でも」
「でも?」
「みんなで帰りますよね」
「帰る」
ソフィアがしっぽを大きく振った。
「なら、いきます!」
ソフィアが反転した。
追ってくる四人に向かって、一人で走る。
「ソフィア!」
「大丈夫です! ご主人さまは走ってください!」
銀髪が廊下の暗闇に揺れた。
ソフィアは追手の間をすり抜けるように動き、矢を放ち、双剣で道をこじ開けた。
犬耳が前後左右に動き、全方位の気配を捉えている。
奴隷時代に身につけた逃走の技術が、今は戦いの技術として機能していた。
「ご主人さまぁ、今です!」
地下通路の入口が見えた。
俺はミリアムの体を支えながら石の段を降りた。
ソフィアが最後に飛び込んで、扉を閉める。
追手が扉を叩く音が、くぐもって聞こえた。
「……走れますか」
「走れます」とミリアムが言った。
三人で暗い通路を走った。
廃井戸から外に出ると、朝の光が差し込んでいた。
夜明けの冷たい空気が肺に入ってきた。
三人とも、しばらく動けなかった。
草の上に腰を下ろして、息を整える。
ソフィアが肩の力を抜いて「……助かりました、ご主人さまぁ」と言った。
「お前が助けた部分の方が多い」
「そうですか?」
「ソフィアの矢がなかったら後ろからやられてた」
「……役に立てました」
小さな声だったが、誇らしさが滲んでいた。
ミリアムが俺の横で草の上に座ったまま、足首を押さえていた。
「……ごめんなさい、せんぱい」
「謝るな」
「でも、迷惑かけました。また助けてもらって……あたし、いつも」
「ミリアム」
「……はい」
「仲間を助けることを迷惑とは言わない」
ミリアムが下を向いた。
「……そんな、仲間って、わけじゃ」
「お前が思ってなくても、こっちは仲間だと思ってる」
沈黙。
ミリアムの頭のピンが、少しだけ揺れた。
「……せんぱいって、なんで、そういうこと言えるんですか」
「三十三年間、誰にも言えなかった分の練習」
ミリアムが顔を上げて、俺を見た。
なんとも言えない顔をしていた。
泣きそうなのか、呆れているのか、怒っているのか。
全部が混ざったような顔だ。
「……ばかみたいです」
「俺が?」
「……はい。でも」
ミリアムが口を閉じた。
その背中に、俺の目にだけ見える淡い紋様が浮かんでいた。
さっきより、少し濃くなっている。
《SYSTEM》
《デスティニー結合度:25%》
《運命紋章① より鮮明に点灯》
林道を引き返し、ゼルティアに戻ったのは昼前だった。
ギルドに入ると、受付嬢が走って来た。
「無事でよかった……! ミリアムさんも!」
「おかげさまで」
「怪我の確認をします。医務室へ」
ミリアムが医務室に連れて行かれた。
入り口でこちらを振り返り、「……また、せんぱい」と言った。
「また、な」
「……次は、迷惑かけません」
「かけても来る」
ミリアムが何か言いかけて、結局「……ばかです」とだけ言った。
扉が閉まった。
ソフィアが俺の横に立って、医務室の扉を見ていた。
「……ミリアムさん、あとで仲間になりますか?」
「まだわからない」
「なってほしいです」
「なんで?」
ソフィアがしっぽを揺らした。
「……一人より二人より、多い方が帰れる確率が上がります」
「……そうだな」
「ソフィアの計算です」
――その計算を、どこかで誰かが面白そうに聞いていた。
「頼りになる計算だ」
ソフィアがかすかに笑った。
《コメント》
► 「ミリアム生存確認で泣いた」
► 「ソフィアの計算が尊い」
► 「このパーティ絶対大きくなれ」
► 「登録者数:4,891人↑」
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