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断罪後の悪役令嬢も、私は推している  作者: Manabit
第六章 王冠は誰の手を汚す

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第41話 王の署名

 ヴァルツェンからの返書は、私信では届かなかった。


 王家の私印で送った書状に対し、返ってきたのはヴァルツェン女伯の公印を押した正式文書だった。


 国王と領主。


 その形で返されたことを、アルベルトはしばらく見つめた。


 拒絶ではない。


 だが、かつての関係へ戻る余地を残す返し方でもなかった。


 当然だ。


 自分が求めたのは、北西部救済に必要な助言だった。


 ならば、返ってくるのは領主としての回答であるべきだ。


 アルベルトは封を切った。


 書状そのものは短かった。


 北西部の状況を憂慮すること。


 助言の依頼を受けること。


 ただし、救済策そのものの結論は示さないこと。


 添付した資料項目と報告様式をもとに、国王および各領主が自ら判断すべきこと。


 最後に、こう記されていた。


 提出資料を基にした決定は、国王陛下および各領主の責任において行われるべきものと存じます。


 柔らかくはない。


 だが、責めてもいない。


 逃げ道だけを塞いでいる。


 その書き方が、エレノアらしいと思った。


 いや。


 今の彼女を、自分はどれほど知っているのだろう。


 ヴァルツェンで何を考え、誰と話し、どのように領地を動かしているのか。


 王都にいた頃の記憶だけで、彼女らしいと決めつけることもまた、失礼なのかもしれない。


 アルベルトは添付資料を開いた。


 最初に目に入ったのは、空欄の多い表だった。


 村別人口。


 現在備蓄量。


 食用。


 種用。


 飼料用。


 病人用。


 次の収穫までに必要な最低残存量。


 放出可能量。


 輸送可能量。


 街道状況。


 荷車数。


 護衛人数。


 受入可能人数。


 井戸の供給量。


 宿泊場所。


 隔離場所。


 受入停止基準。


 中継地。


 再移送先。


 配布責任者。


 報告の戻し先。


 決定者名。


 決定者名。


 その欄だけを、アルベルトはもう一度見た。


 誰が決めたか。


 誰が備蓄を放出したか。


 誰が受入人数を決めたか。


 誰が停止を命じたか。


 誰が移送先を変更したか。


 そこまで残す。


 責任追及のためだけではない。


 次に直すために。


 クラウスがヴァルツェンから持ち帰った言葉を思い出す。


 決めなかった者の名は、どこにも残らない。


 アルベルトは資料を閉じず、そのまま会議室へ運ばせた。


 北西部救済会議には、財務局、軍務局、教会、王妃宮、街道管理局、そして対象となる三領の代理人が集められた。


 机の中央には、大きな地図が広げられている。


 北西部の三領。


 リーデン領。


 ハルツ領。


 モラン領。


 その周辺に、太い線と細い線で街道が引かれている。


 崩落箇所。


 通行不能の橋。


 迂回路。


 臨時倉庫。


 すでに人が移動し始めた村。


 赤い印が増えている。


「まず、各領から提出された備蓄表を確認します」


 クラウスが言った。


 彼は王妃宮実務官として、今回は記録と整理を担当している。


 ヴァルツェンから戻った後、彼の報告は細かくなった。


 それだけでなく、問い方が変わった。


「リーデン領。総備蓄量は三千二百袋とあります」


 領代理人が頷く。


「はい。前年を下回りますが、領内必要量は確保しております」


「用途別内訳を」


「内訳?」


「食用、種用、飼料用、病人用です」


 代理人は手元の書類をめくった。


「そこまでは、分けておりません」


「では、放出可能量は算出できません」


「総量から住民数を引けば」


「種籾を食べれば、次の収穫がありません」


 クラウスは静かに言った。


「飼料を食用へ回せば、家畜が死にます。病人用を一般配布すれば、施療院が不足します。総数だけでは判断できません」


 代理人は口を閉じた。


 アルベルトは、以前ならその場を和らげようとしただろう。


 責める意図はない。


 今後、内訳を整えればよい。


 そう言って、先へ進めたかもしれない。


 だが、進められない。


 内訳がなければ、人を受け入れられるか分からない。


「今日中に用途別内訳を再提出させよ」


 アルベルトが言うと、代理人が顔を上げた。


「陛下。しかし、領内すべての倉庫を確認するには」


「すべてでなくてよい。まず、主要倉庫と救済に使う予定の倉庫だけで構わない」


「それでも、時間が」


「人はすでに動いている」


 自分の声が思ったより冷たく響いた。


 だが、言い直さなかった。


「三日以内に、第一報を出せ」


「……承知いたしました」


 次はハルツ領。


 備蓄量は少ない。


 だが、街道は比較的生きている。


 モラン領は備蓄量が多い。


 しかし、橋が一つ崩れ、荷車が通れない。


 地図の上では隣り合っている。


 帳簿の上では、食料のある場所からない場所へ送ればよい。


 だが、道がなければ動かない。


「モラン領からリーデン領へ、山側の旧街道を使えないか」


 軍務局の官吏が提案した。


 街道管理局が首を振る。


「小荷なら可能です。ただし、荷車は通れません。馬か人足になります」


「では、馬で」


「一度に運べる量は限られます」


「何袋だ」


「一隊で二十。往復に四日」


 財務局が数字を書き込む。


「費用がかかりすぎます。南回りで荷車を使う方が」


「南回りは十日です」


 王妃宮の書記が言った。


「リーデン北部では、すでに食料が三日分を切った村があります」


 室内が静まった。


 三日。


 十日。


 数字が並ぶ。


 誰かが決めなければならない。


「馬輸送を先行させる」


 アルベルトが言った。


 財務局長が眉を寄せる。


「陛下、費用が」


「必要量すべてではない。三日分を切った村へ、まず五日分を送る」


「残りは」


「南回りの荷車で続ける」


「二重輸送となります」


「そうだ」


 不満が見えた。


 効率が悪い。


 金がかかる。


 それでも、人は十日待てない。


「費用は王室祝祭費から出す」


 室内の空気が変わった。


 財務局長が顔を上げる。


「祝祭費、でございますか」


「今年度分のうち、未執行のものを救済輸送へ回す」


「しかし、夏至祭と王妃殿下の巡幸祝賀が」


「縮小する」


「各商会との契約がすでに」


「違約金を含めて算出せよ」


「陛下」


 式典局の官吏が声を上げた。


「王室行事の縮小は、民心にも影響いたします。御成婚後、初の夏至祭でございます」


「空腹の民に、祝祭の規模を見せて何になる」


 言ってから、アルベルトは自分の言葉に驚いた。


 昔の自分なら、祝祭もまた民を励ますと考えただろう。


 今も、それが間違いだとは思わない。


 人には祝いが必要だ。


 希望も。


 だが、今は順番がある。


「祭りをなくすとは言っていない。縮小する。食料と輸送を優先する」


 式典局の官吏は、なおも言いたそうだった。


 しかし、黙った。


 リリアナはその場にいなかった。


 王妃宮からは代理が出ている。


 それでも、彼女なら反対しないと分かっていた。


 むしろ、自分の名を冠する巡幸祝賀を先に削るだろう。


 次に問題となったのは、受入先だった。


 流民を完全に止めることはできない。


 すでに街道を歩いている者がいる。


 幼児。


 老人。


 病人。


 農具だけを背負った家族。


 家畜を連れた者。


 受け入れる場所が必要だ。


「中央教会の巡礼宿を開放します」


 教会代表が言った。


「百五十名程度まで」


「井戸は」


 クラウスが問う。


「井戸?」


「百五十名を受け入れた場合、一日の水量は足りますか」


「巡礼期には、それ以上を受け入れたこともあります」


「今は春です。冬明けの井戸水位は」


 教会代表は答えに詰まった。


「確認いたします」


「隔離場所は」


「礼拝堂の脇に小部屋が」


「何人入りますか」


「十名ほど」


「病人が十人を超えた場合は」


 また、沈黙。


 アルベルトは資料の受入停止基準を見る。


 井戸。


 隔離場所。


 食料。


 護衛。


 無制限に受け入れることは、慈悲ではない。


 途中で水が尽きれば、受け入れた者も、もともといた者も苦しむ。


「巡礼宿は百名までとする」


 教会代表が顔を上げた。


「陛下、まだ余裕があるように見えます」


「井戸と隔離場所の確認が済むまでは百名だ」


「門前で人を止めることになります」


「分かっている」


「聖堂が救いを拒んだと見られます」


 アルベルトの胸が痛んだ。


 門前。


 止められる人々。


 救いを求めて来た者へ、ここまでだと線を引く。


 嫌われる。


 冷たいと言われる。


 誰かが、その言葉を引き受けなければならない。


「停止命令は教会の判断ではない」


 アルベルトは言った。


「国王の命令とする」


 教会代表が黙る。


「百名を超えた者は、北側の旧兵舎へ移す。王都軍から衛生担当を出せ。井戸を二つ確認し、使えなければ給水車を回す」


 軍務局長が頷く。


「旧兵舎の収容人数は二百ほどです。ただし、寝具が足りません」


「王妃宮の布類備蓄を」


 王妃宮の代理が資料を確認する。


「防寒布はございます。ただ、夏季施療院用に確保している分が」


「全量は使わない。半数分を出し、不足は商会から買う」


 財務局長がまた数字を書く。


「支出が膨らみます」


「分かっている」


「財源が」


「祝祭費で足りなければ、王家直轄領の今年度修繕費を一部後ろへ回す」


「橋梁修繕が遅れます」


「優先順位を出せ。すべて止めるとは言っていない」


 次々に、何かを削る。


 何かを遅らせる。


 誰かへ負担を求める。


 理想だけを語っていた時には見えなかったことが、一つずつ目の前に出てくる。


 全員を救いたい。


 祝祭も守りたい。


 教会の信頼も損ねたくない。


 修繕も遅らせたくない。


 財務も崩したくない。


 だが、すべては取れない。


 選ぶしかない。


「次に、各領主の備蓄提出について」


 クラウスが言った。


「現時点で、二領が詳細報告を出しておりません」


「理由は」


「私有備蓄と領用備蓄の区分が曖昧であると」


 財務局長が低く言う。


「貴族家の備蓄は、領主家の私有財産でもあります」


「非常時でもか」


「法的には、すべてを王命で提出させるには議論が必要です」


「すべてを求めてはいない」


 アルベルトは資料をめくる。


「領民救済に放出可能な量を報告させる」


「それでも、私有財産への干渉と受け取られます」


 まただ。


 反発。


 特権。


 王が踏み込まなければ、守られる領域。


 しかし、領民はその領主の統治下にいる。


「報告を拒む領主には、今年度の王都納付に関する優遇を停止する」


 財務局長が顔を上げた。


「免税特例を、ですか」


「一時停止だ。報告を出し、放出不可能な理由を示した領主は除く」


「貴族院が強く反発します」


「分かっている」


「陛下。救済に協力しない領主という印象を与えれば、名誉にも関わります」


「ならば、協力できない理由を出せばよい」


 アルベルトの声が低くなる。


「本当に余裕がないなら、王都が補助を考える。余裕があるのに隠すなら、優遇を維持する理由はない」


「ヴァルツェン女伯の意見ですか」


 誰かが言った。


 室内の空気が止まる。


 問いを発したのは、対象三領のうち一つの代理人だった。


 悪意を隠しきれていない。


 冷血伯に王が影響されている。


 そう言いたいのだろう。


 アルベルトは、その男を見た。


「違う」


 はっきり答えた。


「ヴァルツェン女伯が送ったのは、判断に必要な資料項目だ」


 机の上の表を指す。


「どの備蓄を数えるべきか。どの道が使えるか。どこで受入を止めるか。誰が決めたか。それだけだ」


「では、この処置は」


「私の決定だ」


 静かな声だった。


 だが、会議室の隅まで届いた。


「免税特例の一時停止も。祝祭費の転用も。巡礼宿の受入上限も。馬輸送の先行も。すべて、国王である私が決める」


 誰もすぐには口を開かなかった。


 アルベルトは続けた。


「失敗した場合も、ヴァルツェン女伯の責任ではない」


 言葉にした瞬間、胸の奥が重くなる。


 これまで、自分は何度、似たような責任を彼女へ寄せてきたのだろう。


 命令書には自分の名がある。


 だが、反発を受ける説明は彼女に任せた。


 今度は違う。


 そうしなければならない。


「議事録へ残せ」


 老書記官が筆を取る。


「北西部救済策の決定責任者は、国王アルベルト」


 自分の名が書かれる。


 決定者名。


 ヴァルツェンから送られた欄が、ここで埋まる。


 会議は夕刻まで続いた。


 受入人数。


 輸送量。


 護衛隊。


 仮設中継所。


 病人の隔離。


 備蓄提出期限。


 停止基準。


 再移送先。


 すべてを決めたわけではない。


 現場で変わることもある。


 だから、改変時の報告も命じた。


 誰が。


 何を見て。


 どこを変えたか。


 決定者名を残す。


 最後に、老書記官が命令書の草案を読み上げた。


 北西部緊急救済令。


 第一。


 リーデン領北部の指定村へ、モラン領備蓄から五日分の食料を馬輸送する。


 第二。


 南回り荷車隊を同時に編成し、追加十日分を輸送する。


 第三。


 中央教会巡礼宿の受入上限を百名とする。超過者は旧兵舎へ移送する。


 第四。


 感染症の疑いがある者は、一般宿泊区と分離する。


 第五。


 各領主は用途別備蓄量、最低残存量、放出可能量、輸送可能量を三日以内に報告する。


 第六。


 報告を拒む領主については、王都納付に関する特例措置を一時停止する。


 第七。


 救済費用は王室祝祭費、王妃巡幸祝賀費、王家直轄領修繕費の一部を組み替えて充当する。


 第八。


 受入停止、移送先変更、備蓄放出量変更を行った者は、その理由と決定者名を記録する。


 アルベルトは聞いていた。


 一つ一つが、誰かの不満になる。


 商会。


 教会。


 貴族。


 式典局。


 街道修繕を待つ直轄領。


 そして、門前で止められる流民。


 完璧な救済ではない。


 救えない者が出る可能性もある。


 だが、何も決めなければ、もっと多くが倒れる。


「異議は」


 誰も手を上げなかった。


 納得したからではない。


 王が決めたからだ。


 その事実を、アルベルトは以前より重く感じた。


「清書を」


 老書記官が草案を受け取る。


「本日中に布告いたしますか」


「いや」


 アルベルトは言った。


 室内に、わずかな戸惑いが走る。


 また保留するのか。


 そう思われたのだろう。


「今、ここで清書せよ」


「陛下」


「私が確認する」


 王の机へ戻さない。


 別の会議へ回さない。


 誰かの意見書を待たない。


 老書記官は、すぐに新しい紙を用意した。


 その場で清書が始まる。


 筆の音だけが響いた。


 待つ間、アルベルトは地図を見ていた。


 北西部の村々。


 歩く人々。


 残り三日分の食料。


 壊れた橋。


 王都の祝祭布。


 すべてが同じ地図の外にある。


 しばらくして、清書が終わった。


 老書記官が差し出す。


 アルベルトは最初から最後まで読む。


 逃げ道を探すためではない。


 自分が何を決めたのか、確認するために。


 最後の欄。


 決定者。


 国王アルベルト・レオンハルト・アーデル。


 筆を取る。


 署名する。


 王璽を押す。


 乾いた音が、会議室に響いた。


「布告せよ」


「かしこまりました」


 命令書が運ばれていく。


 式典局の官吏は硬い顔をしている。


 教会代表も。


 領代理人も。


 それでも、誰もエレノアの名を口にしなかった。


 命令書のどこにも、彼女の名はない。


 それでよい。


 今回は、彼女の命令ではない。


 アルベルトの命令だ。


 会議が終わり、人々が退室していく。


 最後に残ったのは、クラウスと老書記官だった。


「クラウス」


「はい」


「ヴァルツェンへ、資料受領の礼を送る」


「正式な感謝状を?」


 アルベルトは少し考えた。


「まだ早い」


「では」


「救済の第一報が出てからだ」


 礼を急げば、それもまた自分を安心させるためになる気がした。


 資料を受け取った。


 決めた。


 だが、結果はまだ出ていない。


「今は、受領したことだけ伝えよ。資料を基に、国王の責任で決定したと」


「承知しました」


「救済令の写しも添えろ」


「女伯へ?」


「ああ」


 命令書を見せる。


 彼女の名を借りず、自分が決めたことを。


 それが今、送るべき返事だった。


 クラウスが退室した後、老書記官だけが残った。


 彼は机に置かれた草案をまとめている。


「何か」


 アルベルトが尋ねると、老書記官は手を止めた。


「失礼ながら、陛下」


「言え」


「本日の命令書は、以前のものとは少し違って見えました」


「何が違う」


 老書記官は、慎重に言葉を選んだ。


「訂正が多うございました」


 アルベルトは草案を見る。


 確かに、線が多い。


 最初の案では、受入人数が百五十だった。


 途中で百へ直した。


 輸送は南回りのみだった。


 馬輸送を追加した。


 費用欄も、二度書き換えた。


 免税特例停止の条件も修正した。


「見苦しいか」


「いいえ」


 老書記官は首を振った。


「陛下ご自身が、どこで迷い、何を選ばれたかが残っております」


 アルベルトは答えなかった。


「以前の王太子府文書は、整ったものが多うございました」


 その一言で、誰が整えていたのか分かった。


 エレノア。


 彼女が迷いと反発を処理した後の書類へ、自分は署名していた。


「本日の草案は、保管せよ」


「清書のみではなく?」


「草案もだ」


 老書記官が深く頭を下げた。


「承知いたしました」


 その夜、アルベルトは一人で執務室に残った。


 机には、ヴァルツェンから届いた資料の写しがある。


 最後の欄。


 決定者名。


 そこへ、自分の名を書いた。


 王だから。


 それだけのことだ。


 本来、最初からそうするべきだった。


 これでエレノアに近づけたとは思わない。


 許されるとも。


 過去の扱いが軽くなるとも。


 ただ、今日、彼女に決めさせなかった。


 彼女の資料を使った。


 だが、彼女の名の後ろには隠れなかった。


 それだけだった。


 窓の外では、布告を運ぶ騎馬の蹄が遠ざかっていく。


 北西部へ。


 教会へ。


 各領へ。


 王都の各局へ。


 明日には反発が届くだろう。


 祝祭を楽しみにしていた者。


 納付特例を失う貴族。


 帳簿を増やされる役人。


 受入上限を課された教会。


 誰もが、自分の理由を持っている。


 アルベルトは、それを聞かなければならない。


 だが、決定を誰かへ戻すつもりはなかった。


 机の端には、書きかけの謝罪文がある。


 エレノア。


 すまなかった。


 その先は、まだ空白だ。


 アルベルトは紙を開かなかった。


 今日書いたのは、謝罪ではない。


 救済令だった。


 署名欄には、自分の名がある。


 今は、それでよい。


 許されなくても。


 嫌われても。


 王の名で決めるべきことが、まだ残っていた。


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