終わりかかって、話すこと
映画館に入る前まではまだ低かった太陽は気がつけば頭のてっぺんまで昇っていた。
……と言うのに、僕たちは昼ごはんを食べあぐねていた。
「ど……どこも並びすぎちゃう?」
「だな……土曜日の昼時舐めてたわ……さっきのカフェで食べればよかったな……」
さっきはカフェラテを頼んだくらいで他には何も頼んでなかったが、ちらりと見たメニューにはサンドイッチやパスタもあった気がする。
「センパイ慌てて出ちゃったもんね〜」
「うるさい……」
二宮から目を逸らしながら入れそうな店を探す。
「あ……あの店、あそこならどうだ?」
目線の先にはガヤガヤと賑わう町並みで、そこだけが音を吸われたかのように静かだった。
その雰囲気が、少しだけ、あの屋上手前の階段を思わせる。
「人おらへんけど……開いてるんかな?」
「まぁ……行ってみなきゃ分からないだろ。少しお腹痛いし、とりあえず行ってみよう」
期待半分、不安半分で僕たちはその店に入ることにした。
「あぁ……いらっしゃい……お好きな席へお座りください……」
しわがれた声に出迎えられて、一番近かったテーブル席に腰掛けた。
「メニューは……っと、あった。二宮はどうする?僕のせいで昼食が遅れたし、ここは奢るよ」
「いやいやいや!!流石に申し訳ないし……うちも払うよ?」
「いいんだよ……って言ってもお前は遠慮するか……なら、またこうして行く機会があったらその時は逆に奢ってくれ」
二宮はうーん、うーんと唸って諦めたような顔をする。
「うん……やったらここは甘えさせてもらう……けど!!次はうちが払うから!!」
「はいはい」
そうして、他愛のない雑談を繰り返しながら何を頼むかを決めた。
「すまん、僕ちょっとトイレに行ってくるから注文は任せた」
「へっ?!あっ!待って!!」
何か聞こえた気がするが腹痛に意識を持っていかれていて、気にせずトイレに行くことにする。
トイレの洗面台の前でふと気になって時間を見た。
時刻は14:32
どうやらお店を見つけられずかなり時間が経っていたようだ。
今日が終わるまで……後、数時間。
僕と二宮の別れまでの時間。
……別れたくない。
ふと、そんなことを思ってしまった。
ほんといつからなんだろうなぁ。ここまで二宮を意識するようになったのは。
そんな甘い考えを振り払って僕は席へ戻る。
「あの……すみません……耳が遠いもので……もう少し〜……大きな声で言ってもらえますか……?」
僕が席へ戻ろうとすると、そんなしわがれた声が聞こえた。
「ア……ノ……ハン…テイショクト……ソノ……」
「ハンバーグ定食と、オムライス。一つづつお願いします」
「あぁ……はい、かしこまりました。すぐお作りしますので……少々お待ちください……」
そう言って店主が席から離れる。
「二宮……お前……」
「わかっとるんよぉ!!店員さんとすらまともに話せへんのはどうなんっていうのはぁ!!」
涙目混じりの二宮に詰め寄られる。
「でもセンパイやって悪いんやからね?!」
「ぼ……僕が?」
「センパイがうちを置いてトイレに行っちゃうんが悪いんよ!!と言うかなんでセンパイは平気なんよ!!」
「なんでって……僕は別に人と話すこと自体には怖くないから……」
「うー……!卑怯者ぉ!!」
二宮は頬を膨らませながらわざわざ僕の座ってる方まで回り込んで肩をポカポカと叩いてくる。
「ちょっ、やーめーろー、微妙に痛いんだけど?」
「センパイへの罰やからまだやもん!!」
僕たちがそうやって遊んでいると、店主がハンバーグ定食とオムライスを運んできて、ようやく二宮は僕から離れた。
「あむっ……ん~!おいひい〜!」
さっきまであんなに拗ねていたのに、もう今はキラキラとした瞳でハンバーグを頬張っていた。
「あ、センパ〜イ……そんなうちのこと見てもハンバーグはあげへんよ?」
「別にいいよ、それより頬にソースついてる」
「へぁっ?!どこどこどこ?!」
慌てて拭き取ろうとする手は全て見事に外していた。
「はぁ……仕方ない……ほら、こっち向け」
「……ん、」
拭いてもらうために僕に向けられたその顔になんとなく邪な感情が芽生えかけて……ソースと共に拭い取った。
「センパイ、ありがとね」
「……さっさと食べるぞ」
窓へと視線を送る直前、二宮の顔がニヤついていた気がしたが、気のせいだろう。
◇◇◇
冬の暮れは思いのほか早く、昼食を終え買い物を済ませた頃にはもう日は落ちる直前だった。
街路樹にきらびやかな明かりが灯る。
一度……決めたはずの決意は、この1日で薄れてしまっていて、僕はまた逃げようとする。
「そろそろさ……暗くなってきたし帰ろうか」
「うん……」
このまま帰れたら、僕たちの関係は変わらない。きっと、たまにメールして、もしかしたらもう一度どこかに遊びに行って、学校が始まればまたいつもの場所でいつも通りの日常を送る。
そう……なるはずだったのに……
「センパイ、ちょっとここで休まへん?」
「いや、暗いし……」
「お願い……」
その眼はいつになく真剣で、僕の袖を引っ張るその手は、ちょっとだけ、震えていた。
「わかった……」
僕らは……小さな街灯の明かりが一つだけ灯る公園のベンチに座る。




