心走って、空回る
「ぜんっぜん決まらへん?!なんでぇ?!昨日から考えてたのにぃ!!」
タンスの中身を全部調べて、片っ端からセンパイの好きそうな服を探して、考えて……考えれば考えるほど不安になって……
「へっ?!もうこんな時間?!嘘やろ?!あっ!バッグどうしよ?!考えてへんかった?!」
刻々と過ぎていく時間が手足をこんがらせて……気がつけば約束の時間は残りわずか……
それでも……センパイには少しでも可愛いって思ってほしいから……好きって伝えたいから……
だから必死に考えて……
「これ!これに決めた!!行ってきます!!」
「おぉ、秋葉気ぃつけや?お兄ちゃんが着いてったろか?」
「アホ!!なつにぃだけは絶対来んといて!!来たら一生恨むから!!あぁもう時間が?!行ってきます」
最後……ドアを閉める直前。なつにぃのしょんぼりとした顔が見えた気がしたけど……うちの知ったことやない!!
センパイ……怒ってるやろなぁ……
◇◇◇
「遅い……」
この日。僕たちはデートをする。
…………はずだったのだが。
待ち合わせの駅について三十分。時間通りに来たはずなのだがいくら待っても二宮の姿は見えない。
後もう三十分経っても来ないなら帰ってしまおうか。
「センパーイ!!お待たせー!」
「遅い。せめて連絡の一つでも寄越せ。危うく帰るところだったぞ」
「遅れちゃったんはほんまにごめん!服選びに時間かかっちゃって……でも初めて会ったら頃のセンパイならまだしも……今のセンパイやったら待ってくれるやろ?」
心の中を見透かされたようで……ばつが悪くなってそっぽを向く。
「……いいから行くぞ。」
「待って!」
その場から逃げたくて進めようとした足を二宮は呼び止める。
「今日のうちの格好……結構頑張ったんやけど……さ……どう?」
上目遣いでそんな事を聞いてくる二宮に僕は、自分なりに正直に答える。
「……似合ってる……と思う……」
「えぇ~、目反らしながら言われてもなぁ〜?」
「うるさいっ!とにかくもう行くぞ!」
あぁ……顔が熱い……横目に過ぎる周りの景色が一段と速い。
僕は今どんな顔をしているんだろう?そんな余裕すら今の僕にはない。
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。
過ぎる景色は段々と速く、横目に映るショーケースから二宮の姿がない。
気がつけば、僕は映画館に着いていた。
「えっとチケットは……」
そこまでしてようやく気がつく。チケットは二宮が持っていたんだった。
「後でなんて言われるかなぁ……」
この後のことを考えると、重たい息が、自然と口からこぼれた。
◇◇◇
「それで〜?チケットもないのになんでセンパイは先行っちゃうんかなぁ?」
チケットも持たず先に行った僕を二宮は煽りまくったていた。
「なぁ〜なぁ〜センパーイ?うちの服そんな可愛かったん?なぁ〜?なぁ〜?」
「……っ、言わない!」
「にへへ、今の秋葉ちゃんは機嫌がいいからそれで許したるわ」
上機嫌で先に行く二宮の背中を、必死に追いかける。
二宮の後ろ姿は明るくて、僕には遠く思える。
◇◇◇
館内は薄暗く、スクリーンからの光だけが僕らを照らす。
映画の内容としてはよくある恋愛物。
正直こう言うのは結構苦手だ
自分と主人公を比べてしまって惨めになるから……
ふと、隣を見ると二宮と一瞬だけ目が合った。
すぐに逸らされたから確信は持てないけど……
◇◇◇
「んー!凄かったー!特にラスト!!すっごい良かった!!」
「語彙力どっかいってんぞ〜」
場所は変わって、うちらは映画館に隣接されていたカフェに来ていた。
「そういうセンパイは?どこが良かった?」
「あー……僕も同じところかな……」
「……ほんまに?」
センパイは、鑑賞中、ずっと難しそうな顔をしとった。今も、うちの話に合わせているだけのように感じて……聞いてみる。
「……本当のところは僕はあんまりだった……かな……勿論作品としては良かったと思う。それは本当だ。だけど……どうしても僕と主人公を比べちゃってさ……」
センパイは少し遠い目をする。
「センパイ……ちゃんと見てたんや……」
「おい待て僕をなんだと思ってる?」
「恋愛鈍感マン?」
「よくそんな奴と恋愛映画を観ようと思ったな?」
「…………」
ちゃうんよー!!!
なんで?今のところ、いつもとぜんっぜん変わらへんのやけど?!!
うちなんでずっとセンパイのことからかってるん?今日は可愛い後輩でいようって思ってたのに……
センパイを前にして……ときめきを隠すようにいつもの癖が出る。
そんな自分が惨めに思えて、机につっぷせる。
アイスココア越しの景色は茶色く染められて……もうすぐで真っ暗になりそうな気がする。
「はぁ……」
「どうした?疲れたような顔だが……」
「ううん……今のうちちゃんと可愛い後輩になれてるんかなぁって……」
あれ?今うち、口滑らしちゃった?
「え、あ?!いや!!今のは違くて!!」
「……まぁ……可愛いとは思ってるよ」
「…………」
カランと、グラスに氷がぶつかる音がする。
昼に差し掛かった日差しが温かくて……心地よくて……
あれ?今……なんて……あれ?可愛いって……センパイから?
素直に言ってもらえるなんて思ってなくて……
あれ?うち、今どんな顔してるんやろ。
急に気温が上がった気がして一気にアイスココアを飲み干した。
「あっ、いや!!別にそういうわけじゃなくて……」
「あは……ふへへ……」
「あぁもう……もういい!早く行くぞ!」
頬が……痛い……




