↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/13

駄目な子だって、何度でも

「センパイ、ごめんね?こんな時間に」

「いいよ。別に」


あぁ……暑い……なんでやろ……心臓がうるさい。

言わなきゃ……あの二文字を。


——でも、ほんまに?


言わなければこの関係を続けられる。うちがちょっと我慢したら、それだけで明日も明後日もこのままでいられる。

それでいいんやない?

それで……


「静かだな……」

「うん……」

「本当は何かあるんだろ?……って聞くのは野暮か。話したくなったらまた言ってくれ」

「うん」


センパイの声。やっぱり落ち着くなぁ。

この声をもっといっぱい聞きたい。今までと一緒なんかじゃ満足できへんくなっちゃった。


うん。やっぱり逃げちゃ駄目やよね。この気持ちに蓋をしちゃったらきっと……うちは、後悔する。



本当に静かや。少し前までクリスマスの音が辺りいっぱいに鳴っていたのに、ざわめきは遠のいて、空気が一段静かになる。風音だけがやけに響くこの公園。

まるで……あの屋上手前の階段みたい。


「センパイ、うちらが初めて出会った日のこと覚えてる?」


最後の心の準備をしよう。


「覚えてるよ。だってあの時、二宮がわんわん泣いてたし」

「うっさい!!わんわんとは泣いてへんし!!」

「そうかぁ?じゃああれは何だったんだろうなぁ〜?」

「あれはその……えんえんとは泣いてたけど……」

「ふふっ、結局泣いてたんじゃないか」

「うー……」


うちにも色々あったんやから仕方ないやん……

苦しかったんやから……けど、それすら良かったと思える。だって、だからこそ、センパイと出会えたんやから。


◇◇◇


今より前の二宮秋葉《うち》の話。


昔から、うちには友達なんて出来ひんかった。

相手が何を考えているのか、嫌われているんじゃないかって。

まるで、得体のしれないナニカみたいに思えて、怖くて、その度に声が出なかった。

それやのに、一人やと寂しかった。

一人が怖い。なのに人が怖い。

怖くて、怖くて、なつにぃにしがみついた。


なつにぃは優しく頭を撫でてくれて、それから毎日


「秋葉ー!!お前はかわええ子やなぁ〜」

「あーきはー!ん〜!いつ触ってもさらさらの綺麗な髪や〜、ほんっまにお前は俺の自慢の妹やなぁ〜」


それこそ、うざいくらいにうちに好意を表してくれた。


それだけで良かった。なつにぃがおるから大丈夫やって。うちは一人じゃないって。 

そう思えとった……


けど、パパとママは違った。


「どこで育て方間違っちゃったんかなぁ……」


高校に入った頃。夕暮れ時のリビングからパパとママの声が聞こえた。


「まぁまぁ、秋葉やってまだ子供やし……もう少し様子見たっても……」

「そんな言ってもう高校生やで?!!分かってんの?!後3年もしたら大人になる!!やのに秋葉は……まだ人と話せへん……」

「そうやけど……秋葉やって頑張っとるやろ?儂らが急いだってしゃあないんやから秋葉のペースに合わせたらな。儂らがあーだこーだ言うてもしゃーないやろ……」


バンッと机に叩きつける音がした。

空気が、静まり返った。


「あんたはええよね……仕事で頭回しとったら子供の事なんて考えんくてええんやから……あたしは四六時中考えてるんよ!!ずっと子どもとおるのに……こんなんやったら……あたしが秋葉を駄目な子にしたみたいやん……」


ママの言葉にびっくりして、逃げようとした瞬間に床が軋む。


「……秋葉、帰っとったん?学校、どうやった?」


いつもの優しいママの声。やのに、怖くて、嘘をついた。


「うん……友達と……いっぱいお話して、楽しかった……よ……?」


自分でもわかるほど声は震えていて、ママもパパも嘘やってすぐに分かったみたいに——

——目が、暗く沈む。


泣きそうになって、涙だけは見せたらあかん気がして、部屋に逃げた。

うちはなつにぃがいるから大丈夫やった。

けど……ママたちにはまだ駄目な子やったみたい。


「駄目な子で……ごめんなさい……」


一人ぼっち、部屋の中で誰にも聞こえないように、バレないように、泣いて謝ってを繰り返した。



いくら泣いても時間は残酷なくらい過ぎていって、うちは今日も学校に行く。


「でさ〜」


学校の人たちはみんな怖い。けど、うちも変わらないと……早く……ママたちに安心して貰える子にならんと……


「あ……アノ……」

「ん?な~に〜?」


怖い。


声ってどうやって出すんやっけ?早く、次の言葉を……


「ん〜?どしたん?私らになんか用?」

「……っ、」


気がつけばうちの足はどこかに走り出していた。

どこかに逃げたかった。どこか、静かな所に。

走って、走って、逃げ出して。



不思議だった。そこは壁があるわけでもないのに、足を踏み入れた瞬間、すぅっと心が楽になった。

屋上手前の階段。

一段、また一段、登るたびに音がまた遠くなる。

吸い込まれるように登って、ほんのり西に傾いた陽光が顔いっぱいにかかる。

その瞬間、カシャリ。とプラスチックの軽い音が鳴る。その音の方を見ると。


格子窓の細い光の中に、彼がいた。


一定のリズムで、作業みたいにパンを食べるその姿は何を考えてるのか、何も考えてないのか……

消え入りそうなのに確かにそこにいる。


もうすでに涙は消えていて、うちの目には彼だけがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。