頑張り続けた、嘘まこと。
「えあっ……」
一息遅れて、人といるという事に気がついた。
だけど、足が動かない。まだ、ここにいたいって思ってまう。
スズッと布が擦れる音がする。目の先の彼が壁に寄りかかる。
妙に空いた空間と彼を交互に見る。
見かねたのか、ため息を漏らしながらタンタンと自分の横を叩く。
隣に座れってことなんかな?
……あぁいやでも別に意味があるかも知れへんし、そもそもうちに言ってるわけやないかも知れへんし?
うちがあれこれと考えてる間に彼も限界を迎えたみたいで。
「あぁもう……隣に来いって伝えたつもりなんだけど?これでも結構緊張してるから早く来てくれ」
「えは、はい!!」
声に流されるままうちは彼の隣りに座る。
人1人分の距離を空けて。
「あの……本当お邪魔してすみません。うちは大丈夫やか……ですので、すぐどっか行きますから」
「……はぁ、泣きながらここに来て大丈夫は無理があるだろ。落ち着くまで好きにしたらいい」
そう言ってまたパンをかじる。この人、無理に関わろうとしてへんみたいで、それが今のうちには丁度良かった。
「ちょっとだけ、愚痴……言うてもいいですか?」
「あぁ」
「昔から、人と話すんが怖かって、何考えてるんやろう?とか嫌われたくないとか、そんなんばっか考えてたら何も話せんくなって……」
口が、止まらんかった。家族以外の人にこんなに話せたん初めてや。
「だからお兄ちゃんにもいっぱい……いっぱい、それでいっかって甘えてたし……それが、あかんかったんよね……」
気がついたら周りはボヤボヤになっとって……
言葉と一緒に、目から色々溢れてきて。
……あぁ、これあかんやつや。自分じゃもう抑えられへんやつや。
「パパとママ……うちのことで喧嘩しとったし、なんとかしようとしたんに今日も結局失敗したし……ごめんなさい、駄目な子で……ごめん……なさい……」
そっから先なんてもう、何も言えん。ただ泣いて、泣いて、色んなこと全部引っくるめて、謝るしか出来んくなっちゃって……
……?
そしたら、頭に優しい感触がして、少しして、撫でられてるんやって気がついた。
「あんまり、自分をそう悪く言うな」
「でも、うちが人と話せんから悪いんやもん……」
「自分の事を一番理解してるのは結局自分だけなんだ。追い詰められてる時に自分まで敵に回られたらどうしようもないだろ」
「でも——」
「はぁ、ならもう好きにしろ」
「っ……、」
見捨てられた。
なんでか、そんな言葉が頭を過った。別にこの人はさっき会ったばかりやし、そんなん思うのも筋違いやのに……助けてくれるって、そんな気がしてたんかな?
それで勝手に期待して、傷ついてって……
ほんまに、惨め……
「好きに傷ついて、好きに自分を刺し続けて、それで疲れたら、またここに来ればいい」
「……えっ?」
「ここなら僕しかいない。ふたりぼっちで、またこうやって、ふたりごとを呟けば、それでまた頑張れるんじゃないか?頑張るだけでも十分なんだよ。」
考えたこともなかった。
今までは変えるか、受け入れるか……どっちかしかないんやと思ってた。
ただ、頑張るだけでもいいんやって——
「お前は十分頑張ったよ。出会ったばかりの僕でもわかる。頑張った、頑張りすぎたんだ。だから、少しだけ、休憩していったらいい」
何かが、壊れた。
「そう……やよ……そうやよ、うちは頑張ったんよ!!今までも!!ずっと!!怖いのに!!苦しいのに!!パパとママに、なつにぃに安心してほしかったから!!やから……やから……」
気がつけば、うちの顔はその人の胸の中でグズグズになってて、その間、ずっと頭を撫で続けてくれてて、ただそれが、嬉しかった。
うちが収まった頃にはもう昼休みも終わってて、午後の授業が始まってしまっていた。
「ごめんなさい……うちのせいで……服も……」
「別に授業一つ抜けたところで困るものはない。今からでも腹痛だったとか言えば許してくれるだろ。服はまぁ、仕方ないよ」
「その、ありがとうございました……えっと……」
「一原陸。呼び方は先輩でいいよ。」
「えと……先輩……」
「どうした?」
「今日は……ほんまにありがとうございました。先輩がおらんかったらうち、多分……」
「別にかしこまる必要もない。僕も久々に人と話せて良かった。それじゃ。」
そう言って、ここを立ち去ろうとするその背中をうちの手は掴んでいた。
「どうした?あんまり遅くなると先生がうるさくなるんだが……」
「あ、いやえっと……うちの名前!!二宮秋葉言います!!えっと、また……ここに来てもええですか?」
「……好きにしたらいい」
今度こそ、先輩立ち去った。
今ここにおるんはうちだけ。
ひとりぼっち……やのに、隣で誰かが寄り添ってくれてるみたいで、包み込まれるような安心感があった。
「良し……また、頑張ろ!!」
午後の授業も終わって、空も赤みがかった頃。うちは帰路を走る。
早く、言いたかった。先輩のこと、ママに、パパに、なつにぃに。
「ただいま!!」
「あら、秋葉おかえり。……今日の学校、どう、やった?」
「今日ね、友達……できたんよ、いっぱい話して……それで……」
上から、なつにぃ降りてきて、みんなが心配そうにうちを見る。
やから……ずっと吐いてきた嘘を本当にする。
できる限りの笑顔で。
「すっごい!楽しかったんよ!!」
◇◇◇
静かな時間。うちらを照らす電球がカチンカチンと音を鳴らす。
「やっぱり、わんわんやったかも」
「どうした?急に」
「ううん、ちょっとだけ、昔のこと思い出しとったんよ」
もう、時間稼ぎもいらない。
あとちょっとだけ、頑張れ。うち。
「センパイ、あん時も言うてくれたよね?頑張るだけでもいいって……」
多分、いつものうちやったら顔から火が出そうなくらい真っ赤にしてたと思う。
けど、今は遊園地に来たみたいな高揚感があった。
「だからねセンパイ……うち、今から頑張るから」
さっきまで震えてた手が今はとっても静かにしてくれてる。
「センパイ。」
もう、止まれない。止まっちゃいけない。
「うちはずっと、ずっと先輩の事が……」
今日、この瞬間、うちは、先輩に
「大好きなんよ!」
告白した。




