泣きじゃくって、逃げる人
「大好きなんよ!」
やっと……言えた。
うちにできることは全部した!
もし……もしセンパイもうちのことが好きで、受け入れてくれたら何しよ?
もっと色んなところに一緒に行って……あ、でもセンパイは来年から受験生やしあんまり邪魔したらあかんよね……?
それでもたまになら一緒にいるくらい……
「ごめん……」
「へっ……?」
今……なんて……
“ごめん”って……
うち、今、フラれた……んかな……?そんな…理由ない……やって、センパイ……今日やって楽しそうに……
「ごめん、僕は君と付き合えない。」
心臓がバクバクって……涙を直接運んでくるみたい。公園の砂が段々、見えにくくなる。
「なんで……うち、駄目な子……やった……?」
「二宮は悪くないよ」
「じゃあ……なんでなんよ……」
精一杯、声だけでも泣いてないって嘘つかんと……
今は、センパイの話に集中せんと……
そう思ってたんに……センパイは立ち上がって、そのままうちから離れようとする。
そんなセンパイの裾を掴む。込められるだけ全力で。
「待ってよ……!!なんで……教えてや……」
「臆病で……ごめん……」
うちの手を振りほどいて、先輩の背中が離れていく。
追いかけたかったのに……足に、力が入らへん……
「うぅ……ぁああ゛あ゛!!」
行かんといてよ……お願いやから、戻ってきてよ……
◇◇◇
僕の足は、アスファルトを踏み蹴る速度を上げる。
逃げたかった。二宮から。僕から。
今日のデートを振り返るみたいに、二宮と歩いた道を走り抜ける。
街中に響くクリスマスの声。僕の気持ちとは反対に、街路樹は黄と白のライトに照らされる。
走って、走り疲れて、膝が悲鳴を上げる。
苦しい……息ができない……
深海に放り込まれたみたいに、目から、耳から、体の隅々を塩水が支配してるみたいで。
“助けて”と、声に出したいのに……出せない。
「あの……大丈夫ですか……?」
知らない人間が、僕の肩に触れようとする。
「……っ、!大丈夫ですから……!」
そんな手を振り払ってまた駆ける。
12月の夜風は嫌に冷たくて、荒れた息は白く凍る。
家に着いたのは、20時を回った頃。
「パパおかえり〜!デートどうだっ——」
「何でもない。母さんは?」
「えっと……今日飲み会だからまだ……」
「そうか」
「えっと……ご飯まだ食べてない?海、作ったんだけど……」
「ごめん、疲れたから、もう寝る。」
「あ、うん。おやすみ」
もう、疲れた。
狭いベッドで、力が出なくて、何日も、何日も、忘れたくて、ただひたすらに眠る。
◇◇◇
泣いて、泣いて、泣きながら帰って、家に着く頃にはもう涙は引っ込んでて、後四時間もしたら日付が変わる。
家の扉をゆっくりと開ける。
「秋葉ぁ!ずいぶん遅かったやないかぁ!大丈夫やった……か……」
扉を開けると、なつにぃが温かい顔で出迎えてくれて、うちの様子で察したみたいで、うちの体を思い切り抱きしめた。
「なつにぃ……うちね、頑張ったんよ……」
「うん、」
「服も、いっぱい考えて、映画とか……何やったら先輩も楽しめるかなって……」
「うん、」
「それで……勇気出して……告白したけど、駄目……やって……」
引っ込んだはずの涙が溢れて、なつにぃの胸の中でいっぱい泣いた。
それから、パパとママと、なつにぃと、温かいシチューを飲んで、今日だけ、みんなで、リビングで寝た。
◇◇◇
1月5日
あれから僕は、ただ無理やりにでも目を閉じた。
惰眠を貪れば日付だけが過ぎていき、気がつけば後少しで冬休みも終わる。
学校……行きたくないなぁ……
もう、あそこに居場所はない。だったら、無理に行く意味もないんじゃないだろうか……
ピロン
ぼんやりとそんなことを考えてる内にスマホから通知が鳴る。
確認してみると、二宮からのメールだった。
『今日の13時、いつもの場所に来てや。』
ただ、その一言だけ。
「ふた、みや?」
なんで。僕はあの日、二宮の告白を断った。僕らの関係は、それで終わったはずなんだ。なのに……
なんで……まだ……
「……チッ」
二宮がまだ僕を呼ぶのなら、僕は……今度こそ、ちゃんと終わらせよう。
制服に着替えて、外に出る。
久しぶりに浴びる日の光はうざったいほど明るくて、目を細める。
一歩、また一歩と歩いて、やがて、学校にたどり着く。靴を上履きに履き替えて、あの場所に向かう。
途中までは、どこにでもある学校の光景だ。わずかに集まる生徒の声、窓を叩く冬の風、遠くで鳴く鳥のさえずり。
けれど——あの角を曲がった途端に、世界は一変する。
ざわめきが遠のき、空気が一段静かになる。
足音だけがやけに響くこの階段。
屋上手前。人が来ず、なのにトイレのようなアンモニア臭も無い。孤独を満喫するにはぴったりな場所。
僕と二宮が初めて出会った場所。
階段を登った先に、あいつがいた。
「あ、ようやっと来たね」
「時間通りだよ」
二宮が自分の隣をトントンと叩く。
僕は、何も言わずに二宮の隣りに座る。人一人分の距離を空けて。
「不思議やよね〜、まだ冬休みやのに……」
「学校が自習のために開けてるんだろ」
「先輩……ムード壊さんといてよ〜……」
いつもの会話。なのに、どこかぎこちない。
いつもなら気にならない言葉の間も、今日はやけに長い。
互いに話すこともなくて、長い沈黙が僕らを襲う。
十分、十五分、そして、ようやく二宮が口を開く。
「先輩、うちね、あれから考えたんやけど……やっぱり納得はできんかったんよ。」
「そうか」
「やからね、お願い。先輩の口から聞かせて?なんであの時、うちをフッたのか。」
「……断る。」
「お願い。聞かせて。うちも、真剣なんよ」
「お前に話すことなんて、何もない……」
あぁ……駄目だ……このままじゃ、きっと、言いたくないことまで口を滑らす。
僕はその場を立って、階段を降りようとする。
「……っ、!」
瞬間、僕の片手を必死に掴む手がそこにあった。
「ほんとに話すこともないんやったら……そんな……苦しそうな顔、せんといてよ……」
振り払おうにも、両手で必死に掴まれていて、僕は仕方なく元の位置に座り直す。




