吐いて潰して、離れてよ
「ねぇ先輩……」
「何なんだよ……お前……フッた人間にこうやって詰め寄って、虚しくならないのかよ」
離してくれ。
ただ、それだけを願って……
「わかってるだろ?これ以上僕と関わっても傷つくだけだ。」
「先輩……」
「大体、付き合うって……馬鹿なんじゃないか?人間関係なんて、些細なことですぐに壊れる。壊れて傷つくくらいなら初めからない方がいいじゃないか。」
「先輩……」
「失って傷ついて、何回繰り返すつもりだよ……」
「先輩……」
「そんな中途半端なやつなんてこの世からさっさと……!!」
「先輩っ!!」
肩をつかまれて、僕らは向き合った。
「誰に……言ってるん……?」
「誰にって……そりゃ、お前に……向かって……」
違う。二宮じゃない。
じゃあ、誰に?そんなの……決まってる。
「先輩、ここには、うちしかおらん、ふたりぼっちなんよ。ふたりごと……呟くだけでええから……」
「何……だよ……それ……卑怯だろ……」
「先輩の、おさがりやよ」
「……なん、だよ」
二宮の手から伝わる体温は、泣きそうなほど温かくて、ずっと凍りついた時間が、ゆっくりと、音を立てて溶けていく。
「全部なんて、贅沢は言わへんから、さ、先輩、うちを頼ってよ」
もう、駄目だ……
だから、一人で居たかったのに、なんで、どうして、諦めてくれなかった?
嫌いに……なってくれなかった?
「空が生まれたばかりの頃、初めて補助輪を外して自転車に乗ったんだ。産まれたばかりの空を抱かせて貰いながら、気球を見に連れて行って貰った。果樹園に連れて行ってくれた。僕は……父さんが好きだったんだ……」
二宮、ほんの一瞬だけ、そこに逃げてもいいのか?
「うん、」
ただの相槌が、許されたみたいで、僕の心は安心感を覚えられた。
「厳しかったけど……力が強くて、僕たち兄弟を肩に乗せてくれて……」
——「たかぁーーい!!パパすごい!!」
「見たことないほどの高い景色を3人で笑った。母さんが作ったおにぎりを食べる時間が、ずっと続くって、子どもながらに思ったよ」
だけど、
そう、一言を置いて、言うか迷い続けたものを吐き出した。
「海が生まれて、少しして、父さんと母さんの喧嘩が増えた。家にいても、二人が怒鳴りあうから、当時、唯一の親友の家に入り浸ってた、そして、5歳の頃、2人は、離婚した」
——「パパどこいくの?」
——「……っ、陸、空と海と……ママのこと、頼んだぞ。パパ、ずっと応援してるから」
——「……?わかった!!」
「それから、程なくして僕たちは引っ越した。最後に、親友だった奴と話したっけなぁ……」
——「りっくん!!またね……!!」
——「ケンちゃん……てがみかくから!!わすれないから!!」
「引っ越してからは散々だったよ……母さんはずっと仕事で家にいないし、帰ってきても疲れてすぐに寝る……あとから聞いたけど、うつ病だったらしい。まぁ、それなら仕方ないよな?」
——「マ……っ、母さん。今日学校でね……」
——「ごめん、ママ疲れてるから。また後でね。……なんで私ばっかり。」
「だから、空と海の面倒は少しだけ、手伝ってた」
——「ほら、空、海。お風呂行くよ」
——「いーやーだー!!!」
——「お願いだから……言うことくらい聞いてくれよ……!!」
「すぐ喧嘩ばかりして……でも、二人だって心細いから……それにさ、その時は僕一人だけじゃなかったんだよ。父さんも月に一度くらい会いに来てくれたし、親友との手紙もあった……けど、父さんも次第に来る頻度が減って、手紙も……ある時から来なくなって……」
——「じゃあな。陸。またな」
——「次は、いつ来てくれる?」
——「……っ、いつだろうなぁ?パパも忙しいから……でも、いつかまた来るよ」
「それでも母さんに頼るわけには行かないだろ?それに……海は生まれてすぐに父さんと離れたんだ。きっと、僕より辛いだろうから……」
——「きょうね、パパのおかおをかきましょうって、いわれて……なにもかけなかったの。ねぇ、どうしてうみにはパパがいないの?」
——「そんなのっ!!……ここにいるだろ。海の目の前に……僕が、パパになるから。な?」
——「……うん!!ありがと!!パパ!!」
「傷ついた家族は、時間が治してくれた。けど、僕だけは……置いていかれた。気がついたら、僕の周りに人なんて一人もいなくて……周りの父親の話が聞こえる度に、苛つくことが増えて……」
——「今日さぁうちのパパがさぁ……」
——静かにしてくれ……
——「おれんちの父ちゃん厳しくてさぁ……」
——頼むから……
「だから、ここに居着くようになったんだ。何も聞こえない、ここに……」
息が、苦しい……
言葉を吐く度に、
僕が出てくるたびに、
涙が溢れるたびに、
心臓が締め付けられたように苦しくなる。
「一人は……寂しかったんだよ……」
僕は、僕も、一人は嫌いなんだ。
「だから……お前がここに来た時……思ったんだ。こいつなら、丁度いいって。僕と同じような気がしたから。僕は、二宮を利用しようとしてたんだよ……弱ったお前の、心につけ込んで、楽になりたかったんだ……」
——「あんまり、自分をそう悪く言うな」
——距離さえ間違えなければ……
——「自分の事を一番理解してるのは結局自分だけなんだ。」
——きっと、楽になれる
——「追い詰められてる時に自分まで敵に回られたらどうしようもないだろ」
——だから僕は、こいつを、利用する




