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離し合って、紡ぐこと

お弁当の一件から翌日。僕は今日もパンをかじっていた。クリームパンなのだから甘い——はずだが、なんだかいつもよりも甘ったるい……


昨日の卵焼きのせい……と思っておこう。




「なぁなぁ、うち、ふと疑問に思ったんやけど」




突然二宮はそんな前置きをおいて僕に問う。




「センパイって……スマホの存在知っとる?」


「お前は僕を原始人か何かと思っているのか?僕だってそれくらい知ってる……と言うか、なんでいきなりそんな事を聞くんだ?」


「やって、センパイがスマホ触っとるとこ見たことないし、持ってへんのちゃうかな〜って」


「そんな理由あるか」




そこで僕はポケットから自分のスマホを取り出す。




「こうして持ってるし、ちゃんと使ってる」


「ちゃんとって……例えば?」


「例えば……」




と口を開いたまま、言葉が続かなかった。




「まぁ……連絡取り合ったり……」


「誰と連絡するん?」


「それは……家族……とか……」


 


言いながら、自分でも苦しいと思った。




「ふ~ん?……そんで?他には?」


「まぁ後は、色々調べたり……とか……」




少しだけ語尾が弱くなる。




「……」




二宮は、じっとこちらを見ていた。


——かと思えば、急に弾ける様に笑う。




「自信なさすぎやろ!」


「そんなことはない……はず…」


「いや今のはあるって。めっちゃあったって〜」




くすっと笑いながら、僕の二の腕を突っついてくる。




「やったらさ」


「なんだよ」


「連絡とか、誰ともせえへんの?」


「さっきも言ったが——」


「家族となんてほとんどせぇへんのやからないようなもんやろ?」


「それ……は……そうだけど……」




何も言い返せない自分が情けない……




「そっか〜……じゃあセンパイは現状宝の持ち腐れってやつなんや〜」


「悪かったな……って、何の真似だ?」




隣を見ると二宮が自分のスマホを取り出していた。




「え~?かわいそーなセンパイのためにうちが構ってあげよかな~って」




二宮の口元はそのスマホで隠されてはいるが確実にあのニヤニヤとした顔をしているのだけはわかる。


だから僕はこいつの提案に素直に乗るのは癪に感じたので……少し、いじわるをすることにした。




「断る。」


「………へっ?」




まさか断られるとは思ってもなかったのか、口をパクパクとさせて驚いていた。




「断ると言ったんだ。僕にはそんな物必要がないからな」


「やっ…!でも…!ほら、こんな可愛え後輩のアドレスやよ?変に強がらずに素直に——」


「別にいらない。お前とはここを共有する“だけ”の仲なんだから持っていてもそれこそ宝の持ち腐れってやつだ」




さて……これで少しは大人しく——




「あは…あはは……そう……やよね……」




声のトーンが一つ明らかに落ちる。




「うち、ちょっと先(・)輩(・)に馴れ馴れしすぎたわ!もう……変なこと……なんもせぇへんから……」




平気そうな言葉を並べるが、その声は震えて涙を浮かべている。




——完全にやりすぎた…




「ごめん……ちょっと気分悪なったから……帰る」




そう言って一歩、また一歩。二宮は階段を降りる。


ここで行かせちゃいけない……きっとそれは、後悔するから……




「待って!!」




二宮の肩が一瞬跳ねて、顔だけをこちらに向ける。




「どうしたん?うちにまだなんか用でもあるん?」




その声は冷たくて、無理矢理上げられたトーンが不自然で…… 




「さっきは……」




“ごめん”


こんな時でさえその一言がどうしても言えなくて、そんな自分が……情けない。




「さっきの僕の言葉は本当だ」




二宮の顔から作り笑顔すら消えて、長い前髪のせいで余計に暗く見える。


自分でも最低だと思えるくらいには最低な言葉だ。それでも、僕は……これが一番だと思ったから。




「本当だけど……あの言葉は、前の僕の言葉だ」


「………」




二宮は何も言わない。ちゃんと聞いてくれてるのかもわからない。けど言いたいこと、言わなくちゃいけないことを……伝えたい。


 


「僕は一人が好きなわけじゃない……けど、ずっと一人だから慣れた……気がしてたんだ。でもそれは違う。二宮と出会って、友達といるのがこんなに楽しいなんて…そんな当たり前を初めて知った。だから……その……ごめ——」




僕が言いかけたところで唇に何かが触れた。


夢中で言ってたから気づかなかったけど、気がつけば二宮は僕のすぐ側まで来ていて……僕はようやく二宮の指が僕の言葉を遮ったことに気がついた。




「もうええよ、別にうち、そんなん聞きたいわけちゃうし」




二宮の顔は……まだ俯いていて、よく分からない。




「さっきのが前の先輩の言葉やって言うなら………うちは今の先輩の言葉が聞きたいよ……」


「それ……は……」




普段なら言いたくないけど……


僕は関係のない壁に目を向けて答える。




「二宮といる時間は……悪くは、ない……かな…」


「へぇ~……そんなふうに思っとったんや〜……」




クスッと…僕の前で鼻を鳴らしたような音がした。


そこで、二宮の顔を見ると、いつものニヤけたあの顔がそこにあった。




「いっつもそんな事思ってたんやね〜?普段はあ〜んなに怖い顔しとったのに……そんな事を…」


「あーうっせうっせ!!」




そこで僕は、本来言わなくちゃいけないことを思い出した。




「二宮、さっきはごめん……」


「許さへん……けど、一つだけ…これをしてくれたら許してやってもええ」




一瞬だけ、覚悟をしたように目を閉じて……口を開く。





「セ(・)ン(・)パ(・)イ(・)のアドレス…教えて?」

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