恋愛をする余裕
## 第七話
### 恋愛をする余裕
三月。
春斗の仕事は、
急に忙しくなった。
朝から鳴り続ける電話。
終わらないメール。
「今日中でお願いします」
「まだですか?」
「急ぎです」
気づけば、
昼ごはんを食べる時間もない。
デスクに置いたコンビニのおにぎりは、
冷えたままだった。
残業帰り。
コンビニの明かりだけが、
やけに眩しく見える。
春斗は缶コーヒーを買い、
静かな部屋へ帰った。
スーツを脱ぐ気力もない。
ベッドに倒れ込み、
そのまま眠る日も増えた。
マッチングアプリの通知は、
いつの間にか開かなくなっていた。
返信を考える余裕がない。
誰かと新しく話す気力もない。
それでも最初は、
「落ち着いたらまた頑張ろう」
と思っていた。
でも。
疲れている時の恋愛は、
優しさより“負担”が先に来る。
返信を考えるのもしんどい。
期待するのもしんどい。
傷つくのも、
もう疲れた。
ある夜。
春斗は久しぶりにアプリを開いた。
「いいね」が数件届いている。
でも、
指が止まる。
誰かと出会いたい気持ちはある。
でも今の自分には、
誰かを幸せにできる気がしなかった。
春斗は静かに、
アプリを削除した。
> 「本当に退会しますか?」
確認画面が表示される。
少しだけ迷う。
でも最後には、
「はい」を押した。
画面がホームに戻る。
それだけだった。
それだけなのに、
少しだけ寂しかった。
窓の外では、
春の雨が静かに降っていた。
春斗は缶コーヒーを飲みながら、
小さく笑う。
「恋愛って、
元気な人がするものなのかもな」
誰に言うでもなく、
そう呟いた。




