ちゃんと伝えたい
## 第十五話
### ちゃんと伝えたい
春の雨が降った日から、
春斗はずっと考えていた。
このままでいいのか。
今の関係は心地いい。
一緒にいて楽しい。
でも、
時々苦しくなる。
返信ひとつで不安になって。
予定ひとつで期待して。
“恋人じゃない”
その言葉に、
何度も自分を止められる。
帰り道。
コンビニで二人分のコーヒーを買った時も。
映画を見終わった後、
同じ感想で笑った時も。
春斗は何度も思っていた。
——好きだ。
でも。
告白して、
もし終わったら。
今の関係すらなくなるかもしれない。
それが怖かった。
ある日。
二人は夜の川沿いを歩いていた。
春の風は、
もう冷たくなかった。
結衣が笑いながら言う。
> 「高校の時は、
> こんな風になると思わなかったね」
春斗も笑う。
> 「たしかに」
沈黙。
でも苦しくない。
街灯の光が、
静かに川を照らしていた。
その時。
結衣がぽつりと言った。
> 「なんかさ」
> 「最近、
> 春斗くんが誰かと付き合ったら嫌だなって思う」
春斗の足が止まる。
結衣は少し困ったように笑った。
> 「重いよね笑」
春斗は、
静かに首を横に振った。
違う。
ずっと、
その言葉を待っていた。
胸の奥で、
何かが決まる。
怖い。
でも。
このまま曖昧な関係を続けて、
いつか離れる方がもっと怖かった。
春斗はゆっくり息を吐く。
そして、
結衣を見る。
> 「俺さ」
声が少し震える。
> 「ずっと恋愛って、
> 頑張るものだと思ってた」
結衣が静かに聞いている。
> 「嫌われないようにするとか、
> 駆け引きとか、
> 正解探してばっかで」
春斗は少し笑った。
> 「でも結衣といる時だけ、
> 頑張らなくていいって思えた」
風が吹く。
桜が少しだけ舞った。
春斗は、
ちゃんと結衣を見る。
逃げずに。
> 「好きです」
> 「これからも一緒にいたい」
数秒の沈黙。
世界が止まったみたいだった。
そして。
結衣は少し泣きそうな顔で笑った。
> 「……うちも」
> 「やっと言えた」




