恋人じゃない
## 第十四話
### 恋人じゃない
それから、
春斗と結衣は何度も会うようになった。
仕事終わりのご飯。
休日のカフェ。
映画。
ただ歩くだけの日もあった。
気づけば、
一緒にいるのが当たり前になっていた。
でも。
二人の関係は、
何も変わっていなかった。
恋人ではない。
告白もしていない。
名前のない関係。
ある金曜日の夜。
春斗はスマホを見つめていた。
結衣からの返信が来ない。
最後のメッセージは昼。
> 「今日仕事長引きそう〜笑」
そこから、
連絡がない。
以前なら、
そこまで気にしていなかった。
でも今は違う。
“好き”になってしまったから。
考えてしまう。
誰かといるのかな。
他にも会ってる人いるのかな。
マッチングアプリなんだから、
それが普通だ。
でも。
胸の奥が、
少しだけ苦しかった。
春斗はスマホを伏せる。
——聞ける立場じゃない。
恋人じゃないから。
その言葉が、
思った以上に重かった。
翌日。
結衣から返信が来た。
> 「昨日寝落ちしてた(泣)」
それだけで安心してしまう自分に、
春斗は苦笑いした。
その日の夜。
二人はいつものカフェにいた。
結衣がストローを触りながら、
ぽつりと呟く。
> 「なんかさ」
> 「春斗くんといると楽なんだよね」
春斗の心臓が静かに鳴る。
結衣は少し笑った。
> 「無理しなくていいっていうか」
> 「沈黙あっても平気だし」
春斗は、
ゆっくりコーヒーを飲む。
同じだった。
自分だけじゃなかった。
でも。
結衣は少しだけ視線を落として続けた。
> 「だから逆に怖い」
> 「この関係、
> 壊れるの嫌だなって思っちゃう」
その言葉に、
春斗は何も返せなかった。
わかる。
痛いほどわかる。
好きだからこそ、
失うのが怖い。
店の外では、
春の雨が静かに降っていた。




