春になる頃には
## 最終話
### 春になる頃には
付き合い始めたからといって、
何かが劇的に変わったわけじゃなかった。
相変わらず、
結衣は返信を忘れる日がある。
春斗は、
相変わらず考えすぎる。
でも。
前みたいに、
一人で抱え込まなくなった。
「ごめん、寝てた笑」
「また考え込みすぎてる?」
そんなやり取りが、
少しずつ春斗を楽にしていった。
ある休日。
二人は川沿いを歩いていた。
桜が咲いている。
春の匂い。
高校生の頃。
春斗は、
恋愛に憧れていた。
社会人になってからは、
恋愛が怖くなった。
マッチングアプリを始めて。
期待して。
返信を待って。
傷ついて。
自然消滅に疲れて。
“自分は選ばれない側なんじゃないか”
そんなことまで思った。
でも。
遠回りしたから、
わかったこともあった。
条件じゃなくて。
駆け引きじゃなくて。
無理しないで笑える相手が、
一番大切なんだと。
結衣が桜を見上げながら言う。
> 「春斗くんって、
> 最初よりちゃんと笑うようになったよね」
春斗は少し驚く。
「そう?」
> 「うん」
> 「高校の時より、
> 今の春斗くんの方が好きかも」
春斗は照れ隠しみたいに笑った。
春の風が吹く。
桜がゆっくり舞って、
二人の間を通り過ぎていく。
春斗は思う。
恋愛って、
うまくいかないことばかりだった。
でも。
何回も好きになって、
何回も悩んだから、
今ここに辿り着けたのかもしれない。
結衣が小さく笑う。
> 「ねえ、次どこ行く?」
春斗も笑って答えた。
> 「どこでもいいよ」
> 「一緒なら」
桜が揺れる。
長かった冬が終わって、
ようやく春が来ていた。




