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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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シロウズ

その日は急に訪れた。

花屋のシャッターは半開きのまま、店先のバケツだけが残っていた。水の中で茎が倒れ、花弁がアスファルトに貼りついている。シロウズは店の前で立ち尽くし、袖で額の油を拭った。また滲んでいる。感情が荒れるたびに、体が黒く湿る。


「クソッ、俺が目を離したせいで!」


近所の者に聞いても、答えは曖昧だった。黒い車、男たち、夜中の物音。スネークボーンの名前が出るたびに、口をつぐむ人間が多かった。スラムでは、それが普通だった。

シロウズは交番へ行った。対応した警官は端末を見ながら、短い質問を繰り返す。失踪か、家出か、借金か。証拠はあるか。目撃者はいるか。シロウズが油の匂いを漂わせて立っているだけで、相手の目が微妙に泳ぐ。


「通報は受理します。ただ……この区画は人手不足でして……」


「人が攫われたんだぞ!!」


「可能性は排除しません。ですが、即時の出動は難しいですなあ」


門前払いではなかった。それでも、助けにはならなかった。

次に行った民間の相談窓口でも、同じだった。書類、待ち時間、再来庁の案内。シロウズは椅子に座らされ、自分の手が黒く濡れていくのを見ていた。怒りで油が増える。増えると、周囲が離れる。離れると、また何も進まない。

自分の寝ぐらに戻った頃には、クタクタだった。壁に背を預け、床に座る。マッチの箱がポケットの中で当たる。

前は、これで自分を燃やしてでもミナを守った。だが、今回は相手を燃やす以前に相手の場所すら分からない。


「……どうしようもないのかよッッ!!」


その言葉を口にした瞬間、入り口から足音がした。


「ほお、貴方が噂の油男ですね?」


女の声が聞こえその方向へ振り向いた。


「誰だッお前ッ!?」


それはシロウズにとって精一杯の威嚇のつもりだった。だが女は、


「あらららら、怖がらないでくださいな。一旦、名乗りますね。私(わたくし)NISIKI技術開発局のベネトレ・クリムゾと申します。貴方に実験体になってもらいに来ました!」


シロウズの背中から、また黒い油が床へ落ちた。威嚇のつもりが、ただの焦りに聞こえたらしい。ベネトレは白い袖を軽く上げ、入り口の壁に寄りかかる。


「実験体……だと?」


「はい!長い前置きはお互い損なので、先に結論から言いましょうね?」


ベネトレは端末を取り出し、画面をこちらへ向ける。そこにはシロウズの古い逮捕記録、体表の油の成分分析、感情に連動する分泌量のグラフが並んでいた。スラムの誰かが売ったのか、施設の内部で残っていたのか。どちらでも、今となっては同じだった。


「可燃性の分泌油。そして、制御不能!自己燃焼のリスク!よくある事故を待っているかのような能力です!ですが研究側から見ると、未調整の資源でもあるんですねえ。そしてぇ!!それは……武力にもなる!」


「……武力?」


「ええ!ええ!そうです!そうなんです!」


ベネトレは端末を胸の前で叩くように抱え、目を輝かせた。研究職特有の、対象が「人」であることより「現象」であることに熱が寄る顔だった。


「あなたの油は、ただ漏れるだけなら事故です。でも指向性を持たせ、量を整え、着火と消火を切り替えられたら? 足元を奪う、視界を塞ぐ、炎の壁を作る、自分を砲弾にする。未完成の兵器なんですよ!!!貴方はァ!!!」


シロウズの顔がピクりと動いた。それはシロウズにとって今、求めていた物だったからだ。


「へえ、で?俺はどうすればいい訳?」


「ええ!それはすぐ終わります。ではこちらにいらしてください」


ベネトレに言われ、シロウズは寝ぐらの外へ連れて行かれる。雨上がりの路地に、黒い車両が止まっていた。荷台側の扉が開かれ照明が灯る。


その中央に、人型の外骨格が直立していた。


白色の装甲。背中に並ぶ冷却と循環のユニット。武器というより、体に噛み合わせて生きるための機械だった。ケーブルが静かに揺れ、ジョイントの内側だけが淡く光っている。


「こ、これは………」


「どうでしょう!?すごいでしょう!?驚いたでしょう!?」


ベネトレは手を打って見せた。後ろの職員がケースの蓋を完全に開き、

外骨格の胸板を展開する。内側は人体に沿う形で、油を吸うための微細な孔が無数に開いていた。


「サポート外骨格。仮称、オレウム・ハーネス!あなたの油を回収し、精製し、再噴射。さらに油を着火して飛行だって!着火と消火の補助も付けます。感情で暴れる排出を、仕事の出力へ変えられる。つまり、貴方の呪いを制御可能な武力へ更新する機械なのです!」


シロウズは一歩近づいた。手を伸ばしかけて、止める。油のついた指が、綺麗な金属の前で汚く見えた。


「着ければ、戦えるのか」


「あったりまえです!で・す・がぁ、条件があります。」


「……それは?」


「これから実戦検証をすること。そして、実戦で性能を証明できた暁には貴方をNISIKIの用心棒となります♩」


「それは……困る。今からミナを助けに行かないといけないんだ……」


「おっほ、言い忘れてました。実戦相手はー……スネークボーンです

よ」


「!?」


シロウズにとってそれはあまりに都合の良い展開だった。









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