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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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刃糸

取材を終えた女は、カフェの椅子から立ち上がった。


「ありがとうございました。お話、聞けてよかったです」


丁寧に頭を下げると、NISIKIの元用心棒の透は少し困ったように笑って、何度も同じことを繰り返した。


「いえ、こちらこそ。あまりまとまってなくてすみません。あと、名前は出さないでくださいね。本当に。あと、美鈴様のことはあまり深く書かないでください。お願いします。それから……」


「大丈夫です。約束します」


女はそう答えて店を出た。夕方のキーリオスは、ネオンが少しずつ色を濃くしている。彼女は端末に録音データを確認しながら、最寄り駅へ向かう路地に入った。

短く、細い道だった。両側に古い建物が迫り、頭上では配管が交差している。人通りはほとんどない。


「……おい」


声がした。

振り返ると、三人の男が立っていた。派手な刺青に、安くないコート。裏社会の人間だと一瞬でわかる雰囲気だ。一人が歯を見せて笑う。


「今の、NISIKIの元護衛だろ」


女の背中が、冷たくなった。


「取材か? いい情報持ってそうだな。ちょっと付き合えよ」


「すみません、急いでるので」


「急いでてもらっちゃ困るんだよ」


男が手を伸ばす。女が後ずさると、もう一人が路地の出口を塞いだ。逃げ場がない。彼女は端末を握りしめ、声をできるだけ落ち着かせようとした。


「暴力は……」


「暴力? そんな大袈裟なことしねぇよ。話を聞くだけだ」


嘘だった。男の目が、すでに獲物を値踏んでいる。

そのときだった。


「……すみません」


路地の入り口から、小さな声がした。

透だった。先ほどのカフェで取材を受けていた、気弱そうな男。肩をすくめるようにして、こちらを見ている。


「あの、通りますか。邪魔だったらすみません」


ギャングの一人が舌打ちした。


「んなんだお前。消えろ」


「は、はい。消えます。でも……」


透は少しだけ前に出た。手元で何かをもてあそぶように、指を動かしている。


「その人、今まで僕が話を聞いてもらってた人なので。少しだけ、困ります」


「あ? 聞こえねぇよ」


「困ります」


透の声は小さいままだった。だが、指の動きが止まらない。細く、ほとんど見えない糸が、路地の壁と壁の間に、静かに渡り始めている。

ギャングの一人が気づいた時には、もう遅かった。


「……なに、これ」


男が足を上げた瞬間、糸が足首にかかった。切れ味のいい刃糸が、浅いが確実に皮膚を裂く。男がバランスを崩して壁に手をついたところへ、別の糸が手首を掠めた。血が滴る。


「痛っ……! てめぇ、なにしやがる!」


「すみません。痛いですよね。でも、これ以上近づかれると、もっと痛いことになります」


透は謝りながら、さらに糸を張っていく。気弱そうな顔のまま、執拗に。路地の狭い空間を、見えない刃で埋め始める。

残った二人の男が銃を抜いた。


「殺すぞ!」


「やめてください。本当に。弾を撃たれると、糸が切れたりして面倒な

ので」

透が小さく手を振ると、糸が銃口の前を横切った。男が引き金を引いた瞬間、弾は軌道をわずかに変えられ跳弾が別の糸に触れて、今度は男自身の腕を浅く裂いた。


「なっ……!」


「見えてないですよね。すみません。僕、正面から戦うの苦手なので。こうやって、ねちねちやるしかなくて」


透の声は震えている。額には薄い汗。それでも指は止まらない。糸は増え続け、路地を網の目のように塞いでいく。

一人が無理に前へ出ようとして、膝の裏を深く切られた。もう一人が女に手を伸ばそうとして、今度は首筋を掠められる。血が噴き、男たちは徐々に動きを封じられていく。


「……クソ、なんだこの野郎」


「すみません。気弱なので、こうするしかないんです」


透は本当に申し訳なさそうな顔で言った。そして、最後に女の方を見て、小さく頭を下げる。


「大丈夫ですか。怪我してないですか。早くここを出た方がいいです。僕が少し引きつけておきますので」


女は息を呑んだまま、うなずいた。透の糸が作ったわずかな隙間をすり抜け、路地を抜け出す。後ろで男たちの呻き声と、透の小さな「すみません」「痛いですよね」という声が重なって聞こえた。

駅の明かりが見えた頃、女はようやく足を止めた。

振り返ると、路地の奥はもう見えなかった。ただ、風に乗って、かすかに金属質の細い音がした気がした。

刃糸が、まだ張られている音だった。

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