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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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紫苑

一方、部屋の反対側。

紫苑とリシアが、静かに、しかし鋭く対峙していた。


「あなた、龍牙のためにどれだけの人を壊してきたの?」


リシアの声は冷たかった。ナイフを構えた指先が、わずかに白くなっている。


「数え切れないわね」


紫苑は優雅に微笑む。まるで茶会の席で語るかのように、静かに一歩を

踏み出した。


「でも、後悔はしていない。彼が生きているなら、それでいいの」


リシアのナイフが、銀色に光った。


「なら、ここで終わらせる」


二人の影が交差する。

刃と刃がぶつかり、火花が散った。金属音が部屋に鋭く響き、カテリナが思わず肩をすくめる。

リシアのナイフが紫苑の喉を狙う。紫苑は身を翻し、踵で床を蹴って距離を取った。その瞬間――彼女の背中が不自然に膨らんだ。


「……何?」


リシアの目が細められる。

紫苑の背中の布が裂け、そこから大きな、赤く輝く金魚が次々と溢れ出してきた。一匹、二匹、三匹――以前、ヒューゴが学校で対峙したあの金魚と同じサイズの巨大な体躯が、部屋を埋め尽くす。鱗が鈍く光を反射し、部屋全体が赤く染まっていく。


「憶食生物(アムネシア)の、もう一つの使い方よ」


紫苑が静かに告げる。


「行け」


金魚たちが一斉に飛びかかった。

特攻。

リシアがナイフを振り、一匹の頭部を切り裂く。だが二匹目が体当たりで迫り、三匹目が側面から襲いかかる。巨大な体躯がぶつかった瞬間、リシアの体が大きく弾かれた。


「くっ……!」


リシアが歯を食いしばり、体を回転させて距離を取る。だが次から次へと湧き出る。紫苑の背中は、まるで無限の泉のように巨大な金魚を吐き出し続けていた。


「あなたの記憶も少し分けてもらえるかしら?」


紫苑の声が、優しく、残酷に響く。

リシアは一歩も引かなかった。

ナイフを逆手に持ち替え、金魚の群れの中心へ自ら飛び込んだ。刃が閃くたびに金魚の体が裂け、赤い体液が飛び散る。それでも金魚は止まない。一匹が彼女の体に食らいつき、激しい衝撃が走る。


「……痛い」


リシアが低く呟く。額に汗が浮かび、息が荒くなる。


「でも、これくらいで終わると思わないで」


彼女は金魚を振り払い、紫苑へと一直線に疾走した。金魚の群れを無視し、ただ一点、紫苑の心臓だけを狙う。体を金魚にぶつかりながらも、前進を止めない。

紫苑の目がわずかに見開かれる。


「速い……!」


リシアのナイフが、紫苑の胸を掠めた。布が裂け、薄い血が滲む。紫苑が後ろへ跳ね、背中からさらに巨大な金魚を放出する。部屋が真っ赤な光に包まれた。

だが、リシアは止まらず、鋭く床を蹴った。

金魚の一匹が彼女を追い、地面に叩きつけられる。

次の瞬間、爆散した。

巨大な金魚の体が内側から破裂し、赤い体液と肉片が部屋中に飛び散る。衝撃波がリシアの体をさらに加速させ、彼女は爆発の余波を利用して紫苑へと突進した。

リシアのナイフが、最後の金魚を貫く。

そして、紫苑の喉元へ。そして、寸前で止まった。刃先が皮膚に触れ、一滴の血が伝う。


「終わりよ」


紫苑は息を吐き、静かに両手を上げた。背中の金魚が、力なく床に落ちて次々と爆散していく。赤い光が徐々に弱まり、部屋に静寂が戻る。


「……負けた、みたいね」


リシアはナイフを下ろさず、懐から小さな端末を取り出した。画面を紫苑に向ける。


「これを、見て」


端末に、一人の老人の顔が映った。

錦宗玄。

紫苑の瞳が、大きく見開かれる。


『……紫苑か』


宗玄の声が、端末から静かに流れた。

『実はお前の認識には誤りがある……お前を見捨てたつもりは、一度もない』


紫苑の唇が、微かに震える。


『あの日、屋敷から出したのは、お前を守るためだった。お前は優しすぎる。NISIKIという場所は、優しさを許さない。お前のような子をあそこへ置けば、確実に壊れていた』


『……嘘よ』


紫苑の声が、掠れる。


『嘘ではない。私の古い友人である天城組の頭に、お前を預けた。彼なら、お前を守り、育ててくれると信じてな』


宗玄の目が、画面越しに紫苑を捉える。


『お前が名前を捨て、遠くへ行ったことも知っていた。それでも、私はお前を『失敗作』などと思ったことはない。……ただの、守りたかった孫だ』


紫苑の目から、一筋の涙が落ちた。


「……お爺様」


初めて、彼女の声が子供のようにか細くなった。

リシアは静かに端末を下ろす。


「宗玄は、あなたを探していた。ずっと」


紫苑は何も言えなかった。

ただ、涙を拭うこともせず、その場に立ち尽くしていた。

部屋の向こうでは、気絶した龍牙をメロルスとヒューゴが確保している。

カテリナは壁に寄りかかり、すべてを見つめていた。

長い戦いが、ようやく終わろうとしていた。

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