殺
遠くで響いた爆発音が、急速に近づいてくる。
龍牙の目が鋭く細められた。
「……来たぜ」
紫苑は静かに湯飲みを置き、ゆっくりと立ち上がる。カテリナの肩に手を置いたまま、彼女を自分の後ろへ庇うように移動した。
次の瞬間、重い鉄の扉が内側から激しく蹴破られた。
「カテリナァァァッ!!」
メロルスの怒声が部屋に響き渡る。後ろにはヒューゴがリボルバーを構え、そしてその隣に、リシアが静かに立っていた。
リシアの赤い瞳が、紫苑を捉える。
「……やっと会えたわね、天城紫苑」
「あら。SHLDの犬も連れてきたの」
紫苑は優雅に微笑む。
「歓迎するわ」
空気が凍りついた。
「龍牙」
紫苑が静かに命じる。
「お願い」
「ああ」
龍牙が巨体を起こす。床が軋む音がした。
メロルスとヒューゴが同時に動いた。
「行くぞ、メロルス!」
「ああ!」
二人は一直線に龍牙へと突入する。リシアは紫苑へ、無言で歩みを進めた。
龍牙の拳が、音速を超えて振り下ろされる。
メロルスが義手で受け止め、衝撃を逃がしながら横へ回転。その隙を突いてヒューゴが三発の弾丸を撃ち込む。肩、太もも、脇腹。すべてが命中し、肉を抉った。
だが、龍牙は笑った。
「効かねぇな」
傷口が、見る間に塞がっていく。記憶を燃料に、肉体が蘇る。
「チッ……!」
メロルスが歯を食いしばり、再び義手を振り上げる。龍牙の頭部を直撃させ、頭蓋骨を砕いた。次の瞬間、ヒューゴのリボルバーが至近距離からこめかみを撃ち抜く。
龍牙の体が崩れる。
しかし、すぐに立ち上がる。
「まだだ」
また再生する。また殺す。また蘇る。
何度目かの再生を目の当たりにしたとき、ヒューゴの目が鋭く光った。
「……わかった」
彼は低く呟く。
「アイツを殺し続ける状況を作ればいいんだよ……!」
メロルスが即座に理解した。二人の息が合う。
メロルスが低く構え、龍牙の足を狙って義手を振り抜く。衝撃でバランスを崩した巨体が、片膝をつく。その瞬間、ヒューゴが義手からフックを射出。ワイヤーが龍牙の首に絡みつき、強く引き絞られた。
「ぐ……っ!」
龍牙の顔が紅潮する。メロルスが背後に回り、両足を義手でがっちりと固定した。
「動くなよ、再生野郎」
ワイヤーがさらに締まる。ヒューゴは義手のフックの出力を最大まで上げ、容赦なく首を締め上げ続けた。
(……まずい)
龍牙の脳裏に、初めて焦りの色が浮かぶ。
再生を繰り返せば繰り返すほど、記憶が削れていく。このままでは燃料が尽きる。
彼は首の骨を操作した。骨を鋭く変形させ、ワイヤーを断ち切るつもりだった。だが、ワイヤーはNISIKI製の特殊繊維。簡単には切れない。
「……っ、くそっ……!」
焦りが、さらに深くなる。
龍牙は懐へ手を伸ばした。以前、入手していたデッドリートライアルの薬剤。これで一発逆転を狙おうてしていた。
注射器の針が、太い首筋に刺さる。
薬液が流れ込む。
だが――。
「……あ?」
副作用が、即座に襲ってきた。
筋肉が異常収縮し、内臓が焼け付くような激痛が全身を駆け巡る。
だが自身の肉体になんの能力も身についた体感はなかった。
それは"ハズレの薬剤"だった。
肉体へのダメージで記憶が、一気に消費されていく。
「が……あっ……!」
龍牙の巨体が大きく揺れ、やがて力なく床へ崩れ落ちた。
意識が、闇に落ちる。
メロルスが荒い息を吐きながら、義手を解除する。
「……やったのか?」
「ああ」
ヒューゴがワイヤーを巻き取りながら答える。
「記憶を食いきったらしい」
二人は顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。
一方、部屋の反対側。
紫苑とリシアが、静かに対峙していた。
「あなた、龍牙のためにどれだけの人を壊してきたの?」
リシアの声は冷たい。
「数え切れないわね」
紫苑は微笑む。
「でも、後悔はしていない」
リシアのナイフが、銀色に光った。
「なら、ここで終わらせる」
二人の影が、ここに交差する。




