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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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凪の死角、あるいは深海の凝視

前回の不穏な引きから一転、仲間たちとの合流エピソードです。しかし、ヒューゴやメロルスたちがそれぞれ確かな手がかりを掴む中、リシアの焦りとプライドに火がついてしまい、ヒューゴとの間に小さな亀裂が……。探偵の不器用な歩み寄りと、二人が行き着く「黒い水槽」の前で待ち受ける緊迫の展開をお楽しみください。

夕暮れ。東京湾に沈みかけた夕日が、水族館のガラス張りの外壁を不気味なほど鮮やかな黄金色に染め上げていた。

リシアは入口近くのベンチに腰掛け、端末の画面をぼんやりと眺めていた。画面に映る「成果ゼロ」の報告書が、彼女の心を重く沈ませる。

そこへ、一台のタクシーが滑り込んできた。

降りてきたのは、ヒューゴ、メロルス、カテリナの三人だ。


「おーい、リシア!」


ヒューゴが大きく手を振る。リシアも小さく手を振り返したが、その笑みはどこかぎこちなく固かった。


「そっちも終わったか?」


隣のスペースにどかっと腰掛けたヒューゴが、無邪気に尋ねる。


「ええ」


「で、成果はどうだった?」


その一言に、リシアの表情がわずかに陰った。


「……何も」


「何も? SHLDのデータベースにも引っかからないような隠し部屋でもあったか?」


「そうじゃないわ。本当に、何もなかったの」


ヒューゴは意外そうに目を丸くした。「ゼロなのか?」


「ええ、ゼロよ」


追いついてきたメロルスが、腕を組んで重々しく口を開く。


「俺たちは病院で、明らかに能力(デッドリー)由来と思われる人造人間、その存在の痕跡を確認。天城紫苑の能力(デッドリー)もある程度わかった」


「こっちの学校も大収穫だぜ。透明な金魚っていう、とんでもねぇ手がかりを掴んだ」


「私は……」


二人の報告を聞き、リシアは静かに俯いた。


「何一つ、見つけられなかった」


周囲の空気が、ふっと冷たく重くなる。

ヒューゴは持ち前の悪癖で、その沈黙を強引に笑い飛ばそうとした。


「へえ、珍しいじゃねぇか! あのエリート諜報員様でも、空振りすることなんてあるんだな」


悪意はなかった。本当に、ただの一言も。

ただ、落ち込んでいる彼女を少しからかって、いつものように言い返してくる彼女の笑い顔が見たかっただけだった。

しかし、リシアの顔から完全に温度が消える。


「……そうね」


短い返答。ヒューゴはまだ、その声の冷たさに気づかない。


「いやいや、そんなに落ち込むなって。弘法も筆の誤りって言うだろ?」


「……」


「まぁ、今回は俺の探偵としての勘が勝ったってことで!」


「……」


隣で聞いていたメロルスが、最悪の予感を覚えて目を見開いた。


(やめろ、ヒューゴ)


そう制止しようとした時には、すでに遅かった。ヒューゴは笑いながら、リシアの肩をぽんと叩いた。


「今回は俺の勝ちだな?」


痛烈な静寂が走る。

リシアはその手を、拒絶するようにそっと払いのけた。


「……ええ、そうね」


笑っていない。向けられた瞳は、凍てつくように冷ややかだった。


「あなたの言う通りよ。私は一週間もここに通って、何も見つけられなかった。あなたは事件を解決し、メロルスたちも確かな成果を持ち帰った」


「いや、リシア、今のは冗談で--」


「私は、何の役にも立てなかった」


立ち上がったリシアの声は、ひどく小さかった。

怒鳴るわけでも、責めるわけでもない。淡々と事実だけを口にするその声が、かえってヒューゴの胸に鋭く突き刺さる。


「一週間よ。毎日ここに来て、スタッフの呼吸一つまで観察して……それでも何一つ掴めなかった」


「リシア……」


「少し、一人にさせて」


それだけ言い残すと、彼女は翻り、薄暗くなり始めた水族館の中へと歩いていってしまった。

残された三人。しばらくの間、潮騒の音だけが響いていた。

最初に沈黙を破ったのはカテリナだった。じっとヒューゴを睨みつけている。


「ヒューゴさん」


「……なんだよ」


「最低ですう」


「ぐっ……」


あまりにもストレートな一撃が突き刺さる。メロルスも呆れたように深くため息を吐いた。


「なぜあそこで煽るような真似をした。お前は馬鹿か?」


「煽ったつもりはねぇよ! ちょっと場を和ませようと──」


「だからタチが悪いと言っているんだ。今回のリシアの焦りようを見て何も感じなかったのか?」


ヒューゴは頭を抱え、ベンチに突っ伏した。


「……励ますつもりだったんだよ」


「お前の励まし方は八割が事故だ。」


メロルスに言われ、ヒューゴはようやく理解した。

彼女が最初に見せたぎこちない笑顔も、短い返事も、すべてはプロとして、仲間として、必死に無理をしていたのだということを。


「俺……最悪なことしちまったな」


「今ならまだ館内にいる。行って謝ってこい」


ヒューゴは勢いよく立ち上がった。「そうだな。ちゃんと謝る」


「言い訳はするなよ」


「分かってるって」


「素直に頭を下げろですう!」


カテリナに背中を強く押され、ヒューゴは引き返すように水族館の中へと駆け込んだ。

外の喧騒とは打って変わり、館内はすでに夜の装いを始めていた。照明は極限まで落とされ、水槽から漏れる青い光だけが、静まり返った通路を冷たく照らしている。


「リシア……」


足音を響かせながら、彼女の姿を探す。

クラゲのエリアにも、静まり返ったイルカプールにも、色鮮やかな熱帯魚のコーナーにも彼女はいない。

──そして、館内の一番奥。

あの、"異様なほど巨大な「真っ黒な水槽」"の前。

一人でガラスを見上げるリシアの後ろ姿があった。

ヒューゴは、自分の愚かさを反省しながら静かに歩み寄る。


「……リシア。さっきは、その」


声をかけた、その瞬間だった。

二人の背筋を、同時に冷たい刃物でなぞられたような戦慄が駆け抜けた。


(──な、んだ、これ……!?)


ヒューゴの言葉が喉で凍りつく。

まるで、光を一切反射しないあの黒いガラスの向こう側から、誰かが自分たちをじっと凝視しているかのような、圧倒的なプレッシャー。

ヒューゴは息を呑み、ゆっくりと黒い水槽へ目を向けた。隣に立つリシアも、同じように身体を硬直させている。

巨大な黒いガラス。本来なら何も見えないはずの闇。

それなのに、二人には確かに分かった。

“見られている”。

それは人間などではない。

もっと巨大で、底知れない、冷酷な「何か」が。

静寂の奥底から。

じっと、二人を観察している──。

ご一読ありがとうございました!

ヒューゴ、やらかしてしまいましたね(笑)。ですが、彼のこの失言があったからこそ、二人はあの水槽の前で「同時に」異常を察知することができました。リシアの勘は間違っていなかった。では、あの黒い闇の中で蠢くものの正体とは? 次回もお楽しみに!

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