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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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再現された白衣

病院の地下で、不可解な治療が繰り返されていた。

患者の病は確かに癒える。

しかし、その代償として何かが奪われていく。

メロルスとカテリナは、血塗られた白衣の男と対峙する。

死んだはずの医師は、今も患者を「救い」続けていた。

——これは、蘇った死者が紡ぐ、歪んだ慈悲の物語。

「今度は、こっちの番だ」


低く呟いた瞬間、メロルスの義手が低い駆動音を響かせた。

医療用の鋸を押し込んでいた医師の表情が、初めてわずかに歪んだ。


「……!」


「カテリナ!」


「真上です!」


その声と同時に、医師が壁を蹴った。弾丸のような速度で天井へ跳び、再び急降下してメロルスの首を狙う。

だが、メロルスはもう追わなかった。


「そこだ」


義手を真正面に突き出す。

鋸が義手に激突した瞬間、メロルスは一歩踏み込んだ。

攻撃を受け止めない。

逸らす。

肩。肘。手首。

ほんの僅かな角度だけで衝撃のベクトルを変える。


「……!」


医師の目が見開かれた。


「返すぜ」


義手に蓄積された衝撃が、一瞬で逆流した。

巨大なハンマーで殴られたように、医師の身体が吹き飛んで壁に激突。コンクリートが大きく砕ける。

それでも医師は立ち上がる。

再び壁を走り、天井を這い、死角へ潜ろうとする。

しかし——


「左!」


「分かってる」


「後ろ!」


「遅い」


「右!」


「そこだ!」


カテリナの的確な位置指示と、メロルスの義手が完璧に連動していた。

壁を走ろうが、天井を這おうが、高速で死角に潜ろうが、すべて読まれていた。

戦いは完全に逆転していた。


「終わりだ」


メロルスは深く腰を落とした。

医師が最後の突撃を仕掛ける。一直線、最速。鋸が目前まで迫る。

その瞬間、義手が唸った。


「オラッ!!」


これまで受け流し続けたすべての衝撃を乗せた、渾身の一撃。

医師の身体は一直線に吹き飛び、診察室の壁を二枚突き破って廊下の奥まで転がった。

メロルスは大きく息を吐いた。


「終わった……か」


カテリナが駆け寄る。


「怪我はありませんか!?」


「ああ。ギリギリだったがな」


義手を見下ろす。フレームには深い傷が刻まれていた。

その時、廊下の奥から声がした。


「……見事です」


白衣はぼろぼろに破れ、全身が血に染まっている。

普通の人間なら即死レベルの傷のはずだったが、医師はまだ立っていた。

メロルスが即座に身構える。

しかし医師はゆっくりと鋸を床に置いた。

カラン……


「安心してください。もう戦えません」


その声に敵意はなかった。


「……あなた方は、ようやく私を止めてくれました」


メロルスは警戒を解かずに聞いた。


「どういう意味だ」


医師は自嘲するように苦笑した。


「私はもう、人間ではありません。本当の私は、何年も前に死にました」


静かな声が、冷えた空気に溶ける。


「私はこの病院の院長を務めていました。ですがある日、死にました。そして——」


医師はわずかに目を細めた。


「天城紫苑の能力によって、再現されたのです」


カテリナが息を呑む。


「再現……?」


「ええ。私は生前の記憶、人格、知識、そのすべてを完璧に再現された存在です。つまり能力(デッドリー)生物」


その言葉に、病院全体の空気が凍りついた。

医師は自分の胸に手を当て、淡々と続けた。


「紫苑は私に命令しました。『患者を治療しろ』と。私は生前の技術で病気は治せます。ですが、その代償として患者の記憶を抜き取り、彼女に送っています」


「何のために?」


「……分かりません。私は命令に逆らえない。ただ送ることしかできない」


メロルスとカテリナは顔を見合わせた。

ヒューゴが遭遇した“記憶を喰う金魚”。

この医師。そして天城紫苑。

すべてが繋がり始めていた。だが、目的だけがまだ見えない。


「さて、じゃあ行こう。カテリナ」


「え?」


その困惑の声はカテリナではなく、医師の声だった。


「わ、私を見逃すのですか?」


「ああ、まあな。だってそこまでお前酷いことしてないだろ?ていうかどんな病気も治療して記憶を一部失うだけって得の方が大きいだろ?」


「まあ、そうかもですが」


「じゃ、俺はもう帰るからよ。これからも治療を続けるといいさ」


「えぇー?」


医師の困惑ふりきりメロルスは端末を取り出した。


「ヒューゴ」


『おう』


「こっちも終わった。思ってた以上に、わりと面倒な相手だった」

『奇遇だな。俺も同じだ』


ヒューゴの声にも苦笑が混じっていた。


「今からそっちへ向かう」


『了解。俺はリシアのとこ向かう』


通信が切れる。

メロルスは静まり返った病院をもう一度だけ振り返り、歩き出した。

外に出る頃には、東の空がわずかに白み始めていた。

学校。

病院。

ふたつの事件は、それぞれ別々に思えたが、確実に一人の女——天城紫苑へと繋がっていた。

白衣は静かに崩れ落ち、病院に再び沈黙が訪れた。

しかし、彼が残した言葉は、事件の闇をさらに深くした。

天城紫苑という存在。

死者を再現し、記憶を操る力。

三つの現場で、それぞれ異なる「死」が姿を現し始めている。

ヒューゴたちの戦いは、まだ始まったばかりだった。

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