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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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天井の捕食者と、不敵なるカウンター

前回の不気味な静けさから一転、今回は息つく暇もない激しい戦闘が幕を開けます。廃病院の闇から現れた「死人の医師」の人間離れした猛攻に対し、メロルスとカテリナがどのように立ち向かうのか。これまでの経験で培った技術と二人のコンビネーションが光る、緊張感あふれるアクションをお楽しみください。

――ギィィ……。

静まり返った廃病院に、重たい鉄扉が軋む音だけが不気味に響いた。

メロルスは反射的にカルテのあった机へ視線を戻す。

やはり、ない。

つい数秒前までそこに置かれていたはずのカルテが、跡形もなく消え失せていた。


「……誰かいます」


カテリナが小さな声で呟く。その声には、先ほどまでの怯えだけではない、明確な警戒の響きが滲んでいた。

メロルスは静かに周囲を見回す。

割れているはずの窓。埃一つ積もっていない医療器具。規則正しく並んだ薬瓶。

そして――誰もいない診察室。


「……気配は?」


「ありますぅ」


カテリナが静かに目を閉じた。

超空間把握能力《オールディレクション》。半径数百メートル以内の空間を立体的に把握する、彼女だけが持つ能力(デッドリー)だ。


「地下……じゃないです。近いです、すぐそこに――」


その瞬間だった。

ギィ……と、診察室のドアが、ひとりでにゆっくりと閉まり始めた。


「!」


メロルスはすぐさま駆け寄る。閉まる寸前の鉄扉に勢いよく足を差し込み、渾身の力で蹴り返した。

ガンッ!!


「誰だ!」


返事はない。その代わり、ピチャ……と天井から冷たい水滴が落ちた。

メロルスは反射的に見上げる。しかし、そこには古びた天井があるだけだった。


(気のせいか?)


そう思った、その時――カテリナの表情が恐怖で凍り付いた。


「上です!!」


メロルスは思考より先に身体を横へ弾ませた。

次の瞬間、凄まじい衝撃音とともに、さっきまで彼が立っていた床へ、巨大な医療用の骨切り鋸が振り下ろされた。床が真っ二つに裂け、激しい火花が飛び散る。


「なっ……!」


そこに立っていたのは、一人の医師だった。

白衣、手術帽、マスク。その姿だけ見ればごく普通の医者だ。しかし、露出した肌は死人のように青白く、瞳には一切の光がない。

何より異常なのは、その男が天井に、逆さまに立っていることだった。まるでそこが平地であるかのように、重力を無視して張り付いている。


「……」


医師は何も喋らない。ただ、首だけを不自然な音を立てて百八十度回転させ、マスクの奥で歪に目を細めた。笑ったのだ。

メロルスの背筋を冷たい悪寒が駆け抜ける。

次の瞬間、ドンッ!!と医師が天井を蹴った。

壁から天井へ。天井から柱へ。柱から床へ。

人間ではあり得ない軌道と速度。それはまるで、巨大な蜘蛛の跳躍だった。


「速っ……!」


迫る鋸の風圧を感じ、メロルスは寸前で身を沈める。鼻先数センチを凶刃が通過していった。男はそのまま壁を蹴り、再び天井の闇へと姿を消す。


「どこだ!」


「右です!」


カテリナの声に、メロルスは反射的に右腕を突き出した。

鼓膜を刺すような金属音が響く。高強度のOGT(オーグメンテッド)義手へ、直撃した鋸の刃が噛み合っていた。凄まじい質量と衝撃。だが、医師は止まらない。反動を利用してさらに壁を蹴り、背後から襲いかかる。


「左!」


振り返る。遅い。すでに鋸の刃が視界を埋めていた。


「くっ!」


地面を転がり、辛うじて直撃を避ける。白衣が掠れ、布地が派手に裂けた。


「メロルスさん!」


「大丈夫だ!」


立ち上がり、鋭く呼吸を整える。

アイアンリング――最強の怪物たちと戦った数日。何度も叩き込まれた教えが、脳裏を過る。


『見えないなら、動きを読むな。衝撃を読め』


メロルスはふっと拳の力を抜いた。


「……なるほど」


医師の動きは超人的に速い。だが、攻撃に力が乗る以上、そこには必ず「ベクトルの始点」が存在する。


「カテリナ」


「はい!」


「位置だけ教えてくれ。あとは全部、俺がやる」


カテリナは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに信頼の笑みを浮かべた。


「分かりました!」


彼女の能力が最大展開される。

壁、床、天井、配管、そして高速で跳び回る医師の軌道――すべてが彼女の頭の中で、精密な三次元地図として組み上がっていく。


「三時方向――天井!」


メロルスは振り返らない。カテリナの声を信じ、ただ真っ直ぐに拳を突き出した。

脳天を狙って振り下ろされた鋸が、完璧なタイミングで迎撃した義手へと叩き込まれる。腕を通じて骨にまで響くような衝撃。しかし、メロルスは一歩も退かない。それどころか、不敵に口元を歪めた。


「捕まえた」


アイアンリングでの激闘で培った、超実戦的カウンター技術。

衝撃を正面から受け止めず、義手全体のパーツへ逃がし、循環させ、一気に蓄積する。

義手の内部機関が、過負荷を告げる重低音を唸らせた。


「今度は、こっちの番だ」


メロルスが静かに拳を握り直す。

その瞬間、初めて、死人であるはずの医師の表情が、微かに戦慄に揺らいだ。

最後までお読みいただきありがとうございます!

天井や壁を縦横無尽に駆け巡る医師の圧倒的なスピードに対し、カテリナの探知能力とメロルスのカウンター技術が見事に噛み合った瞬間を描きました。義手にエネルギーを蓄え、反撃の準備を整えたメロルス。このまま異形の医師を圧倒できるのか、それとも地下の謎がさらに絡んでくるのか……。次回の後編もどうぞお楽しみに!

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