カイゼル・エルディオン
リゼロだーいすき
刑務所からの大規模脱獄。
その影響は、数日経った今もヒューゴ達の住む巨大都市キーリオス全域へ色濃く残っていた。特にスラム街は最悪だった。入り組んだ路地、ギャング組織、違法改造施設。
身を隠すには最適すぎる環境だったのだ。脱獄囚たちは次々と流れ込み、街の治安は急速に悪化していった。強盗に誘拐そして、変死事件。
新聞もニュースも、毎日暗い話題ばかりである。
「はぁ〜……新聞が暗い話しかねぇ……」
大きくため息を吐いたのは、ヒューゴ・ヴァレンタイン。探偵事務所のソファに寝転がりながら、朝刊を雑にめくっている。
「どこも“脱獄囚!脱獄囚!”って……世紀末かよ」
「実際半分俺らのせいだろ」
メロルスが即座にツッコむ。
「いやいや、出口開けたのは不可抗力だから」
「“さっさと帰ろうぜ”とか言ってた奴が何言ってんだ」
「アニメが悪い」
「責任転嫁にも程がある」
そんな騒がしい探偵事務所で、最近一つ変わったことがあった。カテリナが正式に探偵事務所へ入社したのである。現在は主に事務仕事担当、書類整理や依頼受付をしていた。
「ふぅ……今日の分終わりましたぁ」
カテリナが小さく伸びをする。
ヒューゴは新聞を放り投げた。
「メロルス、昼だな。飯買ってこい」
「自分で行けよ」
「社長命令」
「横暴だろ」
「あと甘いのも頼む」
「ガキかよ……まあ、いいけどさ」
結局、メロルスは立ち上がる。
「あっ……じゃ、じゃあ私も行きますぅ!」
カテリナが嬉しそうに後を追った。ヒューゴはニヤニヤしながらそれを見送る。
「青春してんなぁ〜」
二人は階段を降り、事務所の外へ出た。その瞬間だった。
突然、メロルスの肩が掴まれる。
「やあ!!」
「うおっ!?」
振り返ると、そこには黒髪スーツ姿の好青年が立っていた。妙に爽やかで、妙に距離感が近い。
「キミ、ここの職員さんで合ってるかい?」
「あ、あの……一応そうですけど……どちら様で?」
すると男は太陽みたいな笑顔を浮かべた。
「ああ!僕は《SHLD/シールド》所属、カイゼル・エルディオン!!」
「気軽にカイゼルと呼んでくれ!!」
そしてそのまま、勢いよくメロルスの手を握った。
「よろしく頼むよ!!」
「え、あ、はい……」
すると。
「ダメです!!」
カテリナが割って入り、無理やり二人の手を引き剥がす。
「メロルスさんの手を勝手に握らないでくださぁい!!」
「おおっ!?」
カイゼルが驚く。メロルスも驚く。
カテリナ本人も、言った後に少し赤くなっていた。
《SHLD/シールド》。
その言葉は、
Shield(防護)Hold(維持)Law(法)Defend(守る)
の頭文字をとっている。
大量脱獄事件を受け、複数組織の援助で急遽設立された新治安組織である。警察、企業軍、賞金稼ぎ、民間戦闘員。傭兵。様々な精鋭が集められていた。
カイゼルは元々警官だった男であり、実力を見込まれてスカウトされたらしい。
「実はね!」
カイゼルが人差し指を立てる。
「古くからの大親友であるヒューゴが、この街で探偵事務所をやってるって聞いてね!」
「……」
メロルスはなんとなく嫌な予感がした。
「今日は挨拶と、“勧誘”を兼ねて来たんだ!」
「勧誘……ですかぁ?」
カテリナが首を傾げた、その時、
ガチャ。
階段上の事務所のドアが開いた。
「おーいメロルス、外なんかうるさ――」
ヒューゴが顔を出す。そしてカイゼルを見た瞬間。
「ゲッ」
露骨に嫌そうな顔をした。
「カイゼルじゃねぇか。最悪」
実際、二人は昔からの知り合いではあった。だが“大親友”というほどでもない。むしろヒューゴは昔から、カイゼルに振り回され続けていた。
そして今回もそのパターンだった。
「やあヒューゴ!!」
カイゼルが爽やかに手を振る。
「ちょうど良かった!今日は君に良い話を持って来たんだ!」
「帰れ」
「早いな!?」
カイゼルは全く気にせず続ける。
「SHLDはまだまだ人手不足でね!」
ビシィッ!ヒューゴを指差す。
「君の“ウデ”を見込んで――いや、“足技”を見込んで言おう!!」
「誰が上手いこと言えって言った」
「我がSHLDへ来ないか!!」
カイゼルは胸を張る
「給料もいいぞ!!福利厚生も完璧!!社会的信用もある!!」
だがヒューゴは即答する。
「やだね」
「えぇ!?」
「規律とか嫌いなんだよ俺」
「頼むよヒューゴ!」
「やだ」
「頼む!!」
「やーだ」
「頼むって!!」
「やーーだ」
「お願い!!」
「やーーーーだ」
数秒沈黙、そしてカイゼルの笑顔が引きつった。
「……しょうがない」
「ん?」
「今から君を“無理やり”連れて行く!」
「は?」
カイゼルが拳を構える。
「構えろヒューゴ!!!」
「ざけんな!!」
瞬間、カイゼルの拳とヒューゴの蹴りが真正面から衝突した。
カイゼルは能力者でしょうか無能力者でしょうか?




