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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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神隠しの境界線

新新章開幕

午後。傾きかけた陽光を浴びて、ヒューゴは噂の鳴神学園の正門前に立っていた。

門柱に深く刻まれた立派な校名。手入れの行き届いた清潔な校舎。それはおよそ凄惨な失踪事件が連続している舞台には見えない、絵に描いたように平和な光景がそこにはあった。


「普通だなぁ……」


口元に『ニューロパフ』を咥えたまま、ヒューゴは小さく呟く。

事前に送っておいた調査の打診に対し、学校側の対応は驚くほど迅速だった。


『えぇ! えぇ! タダで探偵様に調査していただけるなんて、本当にありがたいですよ!』


文字通り、校長は諸手を挙げて大歓喜したという。

その切羽詰まった理由は、事前に頭に入れた資料を見れば容易に察しがついた。

わずか半年間で、十一人の生徒が忽然と姿を消している。

警察による懸命な捜査も、増設された監視カメラも、夜間に配置された警備員の目も、すべては何の意味もなさなかった。残された結果はゼロ。犯人の手がかりも、原因すらも不明。

そのせいで入学希望者は激減し、怒り狂う保護者からの苦情は日増しに膨れ上がっている。学校側としては、文字通り藁にもすがる思いなのだろう。


「ま、タダって部分に一番食いついてた気がするけどな」


自嘲気味に苦笑したその時、校門の向こうから慌ただしい足音が響いてきた。


「おおっ! 探偵様ですかっ!?」


額に大量の汗を浮かせ、息を切らせて走ってきたのは、小太りの中年男性だった。予想通り、この学校の校長だ。


「ヒューゴ・ヴァレンタインです」


「いやぁ、お若い! 実に若い!」


「よく言われますよ」


「いや失礼、もっとこう、髭の生えた渋い御仁を想像しておりましたもので!」


「期待外れで悪かったですね」


「いえいえ、とんでもない!」


校長はブンブンと激しく首を振った。


「実績はかねがね聞き及んでおります! なんでも、国際的な大事件をいくつも解決へ導かれたとか!」


「半分くらいは運悪く巻き込まれただけですよ」


「ははは、またまた御謙遜を!」


謙遜ではない。だいたい事実だ。しかし、溺れる者は藁をも掴むという状態の校長には、ヒューゴの言葉など耳に入っていないようだった。

そのまま案内された校長室で、応接用の重厚なソファに腰を下ろす。差し出されたお茶に口をつける間もなく、ヒューゴは本題を切り出した。


「それで、失踪事件の件ですが」


その一言で、校長の顔からそれまでの営業スマイルが綺麗に消え去り、暗い影が落ちた。


「……はい」


「資料には一通り目を通しましたよ」


ヒューゴは手元の端末を机に置く。

消えたのは十一人。性別も、学年も、所属する部活動もバラバラ。一見すると無差別な誘拐のようにも思えるが、彼らには不気味なほど一致した共通点が一つだけあった。


「全員、最後の足取りが屋上プールに向かっている」


「……そうです」


「理由は?」


「おそらく度胸試しでしょう」


「監視カメラの映像は?」


「何度も確認しました」


「それで、結果は?」


「何も、分かりません……」


疲れ切った声を絞り出し、校長は震える手で端末を操作した。画面に夜の校舎の映像が再生される。

静まり返った廊下。一人の男子生徒が吸い寄せられるように屋上へと階段を上っていく。そしてプールへ近づいた、その瞬間だった。

映像が乱れたわけではない。ノイズが走ったわけでも、編集された形跡があるわけでもない。

ただパッと唐突に、その姿が消えたのだ。


「……」


ヒューゴは無言のまま、映像を何度も巻き戻し、見返した。二度、三度。やはり結果は同じだ。手品でも映像のトリックでもない。本当に、その場から人間が「消失」している。


「面白ぇな」


「面白くないんですよぉ!」


校長が悲鳴に似た声を上げた。


「生徒が十一人ですよ!? 十一人も消えてるんです!」


「……それもそうか」


頭を掻きながら、ヒューゴの胸中には拭いきれない違和感が燻っていた。犯人の痕跡は一切ない。映像にも何も映らない。それなのに、この映像を見ているだけで、まるで背後から誰かにじっと覗き込まれているような、妙な悪寒が肌を刺すのだ。


「屋上を見せてくれ」


「えっ、今からですか?」


「今からだ」


校長は一瞬躊躇ったものの、重い頭を縦に振り、一本の鍵を差し出した。その瞬間だった。

校長が差し出した鍵にヒューゴが手を伸ばした瞬間、校長はその手を強引に掴んだ。


「うおっ」


「なあ、探偵さんよお」


その声は、今までの情けないおっさんの声ではなくヤクザそのものだった。


「実はよお、お前がうちの天城紫苑を調査してんのは知ってんだ。だがよお、そのことはどうでもいい。テメェにこの件、解決して可愛いうちの生徒見つけられるんだろうなあ?」


「……おいおい、急にキャラ変か? 暑さで脳みそが沸いたのかと思ったぜ」


ヒューゴは顔色ひとつ変えず、掴まれた手首に視線を落とした。じわりと肌に伝わるのは、冷や汗とは違う、もっと泥臭い暴力の気配。小太りの中年男だと思っていた校長の指には、容易に人を組み伏せられるだけの不自然な力がこもっている。


「天城紫苑、ね」


その名を口にした瞬間、ヒューゴはフッと短く息を吐くと、掴まれたままの手首を起点に、滑らかな動作で校長の親指の付け根を強く圧迫した。それは人体構造に基づいた最小限の力。


「痛(ッ)っ……!?」


校長が思わず顔をしかめ、指の力が緩む。その隙を見逃さず、ヒューゴは鮮やかに手首を引き抜き、机の上の鍵を指先で弾くようにして我が物とした。チャリリ、と金属音が鳴る。

ヒューゴは立ち上がり、コートのポケットに鍵を放り込んだ。そして、未だに凄みを利かせた目で睨みつけてくる校長を、冷徹な探偵の目で見下ろす。


「可愛い生徒、ねぇ。本当にそう思ってるなら、その薄汚い手で俺を足止めする時間は無駄のはずだ。十一人も消えてんだぜ」


口元のニューロパフを指先で弄りながら、ヒューゴは不敵に唇を歪めた。


「そこまで必死になられると、かえって燃える性質(タチ)でね。安心しな、きっちり全員分の『答え』を引っ張り出してやるよ。それがどんなにグロテスクな真実だとしてもな」


校長室の重い扉を背中で押し開け、ヒューゴは振り返ることなく廊下へと歩き出した。背後から突き刺さる校長の殺気混じりの視線を、心地よい緊張感として背中に受けながら。

開始!

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