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復讐に行ったら、能力者探偵と出会った  作者: 小説書こう


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フラグ回収はコーヒーの後に その三

深夜の高速道路を爆走していたバイクのエンジン音が、突如として高回転の甲高い咆哮へと変貌する。

メロルスはヒューゴの背中に必死でしがみつき、ヘルメット越しに怒鳴った。


「なあ、ヒューゴ!」


「ん?」


風を切り裂く風切音に負けないよう、ヒューゴがインカム越しに応じる。


「依頼内容はなんなんだ!?」


「んー? なんかロボットが暴走したらしいぞ」


「え?」


「あと、工場が半壊」


「まずいじゃん」


「あと人型兵器も起動」


「やばいじゃん」


「あと、セラフィムサードケンタウラも」


「へー」


流れるような会話の途中で、メロルスの思考がピタリと止まった。時速180キロを超える世界で、その言葉の異常性がようやく脳細胞に達する。


「……待て」


ヒューゴは前方の暗闇を睨みながら、バイクをわずかに傾けた。


「何が?」


「今、なんつった?」


「セラフィムサードケンタウラ」


「帰るぞ! Uターンだ!」


メロルスは思わずヒューゴの肩を揺さぶりそうになった。


「なんでだよ」


「お前記憶ねえのか!ヤバいってわかるだろ!

『ケンタウラ』だぞ!?」


「ああ」


「絶対ロクでもねえって!!」


必死に訴えるメロルスに対し、ヒューゴはバックミラー越しにひどく大真面目な目を向けてみせた。


「まあな」


「だったらなんで受けた!?」


「前金、五十億だからな」


「クソッ!!」


あまりにも強烈で、ぐうの音も出ない説得力だった。

ヒューゴはさらに、スロットルをひねりながら平然と言ってのける。


「しかも、成功したらさらに五十億!」


「金額の桁がおかしいんだよ! あの宗玄がそこまで出すってことは、それだけ焦ってるんだろ」


「そりゃ焦るだろ。大惨事だぞ」


大型バイクの排気音が荒々しく響き、二台のタイヤはアスファルトを削るように深夜の高速道路を猛烈な速度で爆走していく。

ヘルメット内のヘッドセットからは、スマホ経由で始まった緊急特番の音声が緊迫感を伴って流れていた。


『速報です。NISIKI中央工場で大規模な事故が発生しました。現在も多数のWALKERが暴走を続けており、警察および警備部隊が対応に追われています。周辺区域の住民は、直ちに避難を――』


「ほーらな」


ヒューゴが視線だけで画面を指し示す。


「ニュースになってる」


「笑い事じゃねぇんだよ!」


「ちなみに」


「……まだ何かあるのか?」


メロルスが警戒に満ちた声を出すと、ヒューゴは事もなげに言った。


「宗玄曰く、東堂ってのが建物内に残ってるから、そいつの救助も頼むってよ」


「テレビで見たぞ。開発者じゃねえか……」


その瞬間、工場の方向から鼓膜を震わせるほどの重低音が響き渡った。


ドゴォォォォォン!!


地響きと共に、遥か彼方の夜空が不気味なほどの深紅に染まる。

激しい風の中でもはっきりと伝わる爆風の光景に、二人は一瞬で言葉を失った。


「……」


「……」


やがて、インカムを通じてヒューゴがぽつりと呟く。


「思ったよりヤバそ」


「今さらかよ!」


タイミングを合わせるように、電子音がヘッドセットに鳴り響いた。

割り込んできた通信の主は、苦虫を噛み潰したような声の宗玄だった。


『到着まで何分なんだ』


「十分くらい」


ヒューゴが答える。


『急いでくれ』


「そんなにまずい状況なのか?」


宗玄は数秒間、言葉を詰まらせた。それから、ひどく疲弊した声で現状を告げる。


『ウォーカー約四十体が暴走。工場警備部隊は壊滅、投入した我が方の私兵部隊も半数が行動不能だ。現在、東堂が現場で足止めを行っている』


「は?」


メロルスの口から間抜けた声が漏れた。

「一人で、か?」


『一人だ』


「なんでそんな無茶苦茶なことを……」


『本人が止まらんのだ』


宗玄は、通信越しに深い吐息を漏らした。


『あの男は開発者だからな。自分の作った作品には、最後まで責任を持つ主義らしい』


それを聞いたヒューゴが、ヘルメットの奥で不敵に口元を歪める。


「へえ、かっけぇじゃん」


『迷惑極まりないがな』


宗玄は一刀両断にした。


『奴は今、工場のど真ん中で鉄パイプを振り回している』


「え?」


『鉄パイプを振り回して、ウォーカーと乱闘しているんだ』


「え?」


メロルスは絶望したように天を仰いだ。バイクの上でなければ頭を抱えているところだ。


「やっぱNISIKIの人間は怖ぇよ……狂ってやがる……」


その時、再び工場の中心部で大きな爆発が起きた。

直後、赤黒い炎を背景に、夜空へ向かって巨大な「何か」が綺麗な弧を描いて吹き飛ぶのが見えた。

二人は走行しながら、思わず目を細める。


「……今の、なんだ?」


「人じゃね?」


「人だな」


通信の向こうで、宗玄が深くため息を吐きながら言った。


『東堂だ』


「飛んでるじゃねぇか!」


「大丈夫なのかよ、あれ!?」


『知らん』


「知らん!?」


宗玄は冷徹に、しかし焦りを滲ませて告げる。


『とにかく急げ。セラフィムサードケンタウラも完全起動した。あと五分で出荷エリアを突破するぞ』


「突破すると、どうなる?」


『……市街地へ出る』


最悪の結末を前に、インカムを通じて冷ややかな沈黙が流れた。

ヒューゴとメロルスはバックミラー越し、そして振り返る視線で同時に気配を合わせ――。


「……」


「……」


次の瞬間、通信回路が割れんばかりの叫び声を上げた。


「「急げぇぇぇぇぇ!!」」


フルスロットル。

大型バイクは前輪を浮かせんばかりの狂気的な加速を見せ、夜の高速道路を切り裂く閃光となった。

迫り来る決戦の地。しかし、二人はまだ知る由もなかった。

この事件における真の脅威が、暴走したセラフィムでも、群がるウォーカーでもなく――あの宗玄に前金五十億を叩きつけさせ、ここまで激怒させた「ある実行犯」の存在だということを。

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