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復讐に行ったら、能力者探偵と出会った  作者: 小説書こう


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箱入り娘と運び屋 そのニ

その日の夜。スラムの安宿で、レイナはベッドに寝転がりながら煙草を咥えていた。


「……疲れた」


本当に疲れた。

コンビニ、ゲームセンター、ファストフード。

美鈴はそのすべてで大騒ぎだった。

コンビニでは、


「レイナさん!!」


「なんだ」


「このサンドイッチって何ですか!?」


「サンドイッチだよ」


「これ、全部味が違うんですか!?」


「そうだよ」


「革命では!?」


「お前、今まで何食って生きてきたんだ」

ゲームセンターでは、


「取ったどぉぉぉ!!」


クレーンゲームで取った謎のカエルのぬいぐるみを、全力で抱きしめていた。


「見てください!」


「見てる」


「かわいいです!」


「そうだな」


「レイナさんに似てます!」


「どこがだ??」


ファストフードでは、


「美味しい!!」


ポテトを食べて、大袈裟なほど感動していた。


「なんですかこれ!」


「ポテト」


「神の食べ物ですか!?」


「じゃがいもだよ」


そして、安宿に戻った今。レイナは天井を見上げる。

隣のベッドでは、美鈴が今日取ったぬいぐるみを抱えて眠っていた。

すぅ、すぅ、と、信じられないくらい幸せそうな寝息を立てている。


「……」


レイナは一度視線を逸らした。だが、数秒後にはまた見てしまう。


「……」


脳内が完全に支配されていた。

長い睫毛に、整った顔立ち。柔らかそうな黒髪。

でも何より、今日一日ずっと見ていたあの笑顔が、頭に残って離れなかった。


(やばいな)


レイナは思う。


(可愛い。可愛すぎる!)


まずい。かなりまずい。

レイナは昔から女が好きだった。だからこそ分かる。これは非常に危険な兆候だ。

しかも相手は十八歳。超お嬢様で、恋愛経験ゼロの世間知らず。本物の箱入り娘だ。

つまり、自分がその気になれば簡単に落とせてしまう。

だからこそ、余計に手を出しては駄目だった。


「……寝ろ、私」


自分に言い聞かせる。

しかし、そのとき美鈴が寝返りを打った。

ころん、とレイナの方を向く。


「れいなさん……」


寝言だった。

レイナの心臓が跳ね上がる。


「……は?」

「えへへ……」


幸せそうなその寝言は、レイナにとってあまりにもクリティカルヒットだった。


「反則だろ……」


思わず頭を抱えて呟いた。

翌朝、レイナが目を覚ますと、目の前に美鈴の顔があった。


「おはようございます!」


「うおっ!?」


レイナは跳び起きた。


「近ぇ!」


「朝です!」


「知ってる!」


「今日はどこ行きます!?」


「元気だな!?」


朝食を食べながら、美鈴は窓の外を眺めていた。

スラムの景色。錆びた建物、怪しいネオン、雑な落書き、そしてゴミの山。普通のお嬢様なら眉をひそめて嫌がるような光景だ。

だが、美鈴は笑った。


「綺麗ですね」


「どこが」


「生きてる感じがします」


レイナは少し黙り、なんとなく美鈴の横顔を見つめた。

本気だった。本当にそう思っている顔だ。演技でもお世辞でもない。

レイナは少しだけ理解した。

美鈴は世界を見ているんじゃない。世界を好きになろうとしているのだ。どんな場所でも、どんな人でも、まずは受け入れて好きになろうとする。そういう奴なのだ、と。


「レイナさん」


「ん?」


「今日も一緒にいてくれますか?」


美鈴が微笑む。

何でもないように。当たり前みたいに。

レイナは視線を少し逸らしながら答えた。


「……まあな」


すると、美鈴は花が咲くようにパッと笑った。


「やった!」


その笑顔を見て、レイナは思った。


(あー……)


(終わったな)


自分が、完全に、手遅れだと気付いてしまった。

運び屋レイナ・クロウは、ただの箱入り娘を目的地まで守るつもりだった。

だが、今は違う。

気付けば、もっと笑ってほしい、もっと色んなものを見せてやりたい、もっと隣にいてほしい――そう強く願い始めている自分がいた。



そしてその頃。

『NISIKI』本社最上階の執務室で、宗玄は静かに報告書を読んでいた。


「……ほう」


誘拐されたはずの孫の現在地。

運び屋レイナ・クロウ。

行動記録に、監視映像。

すべてが手元に揃っていた。

宗玄は眼鏡を外した。

 

「なるほど」


その目が冷酷に細くなる。そして、傍らに控える秘書へ告げた。


「探偵を呼べ。ヒューゴ・ヴァレンタインを」


「は」


「孫を連れ戻してもらう」


その一言により、レイナと美鈴の短い自由時間に、確実な終わりの足音が近付き始めていた。

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