ずらす能力VS動かす能力
地下駐車場。
非常灯だけが赤く点滅し、不気味な陰影を落としている。
能力者の強盗は、壁に背を預けながら荒い息を吐いていた。
「クソッ……!」
その視線の先には、SHLD特務部隊『対能力者制圧班』の完全防備の男が一人、悠然と立っている。
「投降を推奨するぜェ!」
「うるせぇよ!」
強盗が半狂乱で拳銃を抜き、引き金を引いた。
放たれた弾丸は全弾、男の防弾着へと命中する。しかし、SHLDの男は衝撃を殺すそぶりすら見せず、平然と言い放った。
「効いてねぇぞォ」
「チッ……!」
強盗は焦燥に駆られ、近くのコンクリート柱へ乱暴に手を置いた。自身の能力を発動させる。
柱のコンクリートが異常変形を起こして突出し、SHLDの男の脇腹へと鋭く迫る。だが、男は臆することなく、迫り来るコンクリートの塊を素手で強く叩いた。
「なっ!?」
叩かれた瞬間、飛び出したコンクリートの軌道が真横へと不自然にスライドした。強盗の真横を猛スピードで通過したコンクリート塊は、そのまま背後の車両へと激突する。
「ずらす能力の相手は初めてかァ?」
SHLDの男がバイザーの奥で不気味に笑う。強盗は恐怖に顔を歪めながら後退し、今度は隣の壁へと手を置いた。
再び壁の一部が牙のように飛び出す。巨大なコンクリートの出っ張りが、今度はSHLDの男の頭部を正確に狙う。
だが、男はまたしてもそれを軽く叩いた。
突出したコンクリートが、今度は真下へと不自然にずれる。
渾身の攻撃は虚しく空を切り、生まれた隙を見逃さず、SHLDの男が一気に距離を詰めてきた。
「ッ!!」
強盗は慌てて床へと手をつく。
床の一部が隆起し、不規則な段差が生まれる。突進してきたSHLDの男の足が、その段差に引っかかった。
「おっとォ」
体勢を崩したその瞬間を逃さず、強盗は再び拳銃を連射する。
至近距離での銃撃。しかし、男の進撃は止まらない。
「だからァ、効かねぇって決まってんだろォがァ!!」
強盗の顔が完全に引きつった。
今度はSHLDの男が、近くの柱に指先で触れる。
強盗のすぐ隣にあった柱の一部が、まるで意志を持ったかのように横へとスライドした。突然死角から飛び出してきたコンクリートに、強盗は悲鳴を上げる。
「うおっ!?」
咄嗟に回避した。だが、避けた先にはすでに、SHLDの男の巨躯が待ち構えていた。
「捕まえたァ」
「が、離せっ……!」
強盗が往生際悪く男の腕へと触れ、能力でその拘束を外そうと試みる。
だが、SHLDの男は凶悪に口元を歪めた。
「そう来ると思ったぜェ」
逆に、強盗の肩へと分厚い手のひらを置く。
肩が強制的に横へ引っ張られたような奇妙な感覚が走り、強盗の体勢が完全に崩壊する。
「しまっ――」
遅い。
SHLDの男の無慈悲な拳が、強盗の腹部へと深くめり込んだ。容赦ない衝撃に強盗の身体がくの字に吹き飛び、コンクリートの床を無様に転がっていく。
「がっ……、は……っ!!」
肺の空気をすべて絞り出され、息ができない。立ち上がるどころか、指一本動かすことすらできなかった。
SHLDの男が、重い足音を響かせながらゆっくりと近付いてくる。
「能力の質自体は悪くねぇ」
男は強盗の胸ぐらを強引に掴み上げた。
「だがなァ」
地面から完全に足を浮かせ、冷徹に告げる。
「俺の方が、圧倒的に訓練してんだよォ!!」
容赦のない強烈な頭突きが叩き込まれた。強盗のホログラムフェイスが粉々に砕け散り、同時にその意識が完全に消し飛ぶ。糸の切れた人形のように、男は床へと崩れ落ちた。
文字通りの完全制圧。
SHLDの男は平然と首の骨を鳴らし、耳元の通信機を押した。
「こちら制圧班ン」
『――状況は』
「能力者一体、確保ォ」
『負傷は?』
男は少しだけ間を置き、周囲を見渡した。
無惨に大破した車。不自然に変形し、ずれた柱。ひび割れた壁。そして、煤一つついていない自分自身の身体。
「ゼロだァ」
『本当に?』
「……たぶん、ゼロだァ」
その頃――。
キーリオス市街地の喧騒の中では、
バイクの爆音を轟かせながら、探偵ヒューゴの新たな追跡劇が幕を開けようとしていた。




