くっころ警察 そのニ
――だが、彼女には一つ問題があった
それは彼女は映画やドラマの見すぎでとにかく想像力が豊かすぎることだった!
「私が代わりになります!!」
ヴィクトリアは両手を上げながら銀行へ入る
警察もSHLDも止める暇がなかった
強盗達が顔を見合わせた
「……なんだコイツ」
「知らねぇ」
リーダーが支店長を突き飛ばした
「よし、じゃあお前こっち来い」
「くっ……!」
ヴィクトリアが拳を握る
「好きにしろ!」
一同沈黙
強盗達が固まる
「……は?」
「え?」
「いや人質にするだけなんだけど」
「そんなっ」
空気が止まる。ヒューゴが頭の中で頭を抱えた。
(何やってんだあの警官。言うならばくっころ警官か?)
ヴィクトリアの顔が真っ赤になる。
「ち、違う!!私はその!!」
「知らねぇよ」
「黙れ犯罪者!!」
強盗達も若干引いていた
だがヴィクトリアはさらに混乱する
予定ではもっとこう…
「ククク……女警官か」
とか
「てめえを犯してやるぜ、ゲヘヘ」
とか
そういう展開になるはずだった。
ならない
全然ならない。
思い通りにならない
そして彼女は
恥ずかしくなりキレた
「もういい!!」
「は?」
次の瞬間。
ヴィクトリアの身体が動いた
ガシッ!!
強盗の腕を掴む
「なっ――」
柔術、崩し、投げる
ドゴォン!!
一人目が床へ叩き付けられた
「ぐぇっ!?」
さらに。
二人目の首へ腕を回す
「待っ――」
ゴキン!!
「ぐあああああ!!」
関節技を決められ、二人目沈黙
銀行内が静まり返る
強盗達も人質達もSHLDも全員固まる
「え?」
「え?」
「え?」
ヴィクトリアだけが肩で息をしている
「はぁ……はぁ……」
そして我に返る
「……あ」
リーダーが叫んだ
「何やってんだテメェ!!」
「それはこっちの台詞です!!」
「お前人質だろうが!!」
「私は警察官です!!」
「知るかァァァ!!」
銀行が一気に大混乱になる
残った強盗は二人
能力者の男とリーダー兼バイク担当。
「クソッ!! 逃げるぞ!!」
能力者の男が壁へ手を叩き付けた
ゴゴゴゴゴッ!!
銀行の壁面が歪み非常口が吹き飛ぶ
二人は別方向へ走る
能力者は地下駐車場へ
もう一人は銀行裏の逃走用バイクへ
「待てぇぇぇ!!」
銀行内ではヴィクトリアが暴れ回った結果、現場は大混乱だった
強盗二人は倒れ。能力者は地下駐車場へ逃走
もう一人はバイクで逃げた。SHLDが突入を開始する
「制圧開始!」
「人質を保護しろ!」
「能力者は地下だ!」
隊員達が雪崩れ込んでくる
人質達も解放され始めた
ヒューゴも縄を切られる
「はい大丈夫です」
「あーいどうもー」
立ち上り、肩を回す。
そして何事もなかったかのようにATMへ向かった
「さーて」
カードを差し込む
暗証番号入力
残高照会
ピッ
画面表示
残高――
0リアル
「ぇ…………」
ヒューゴが固まる
もう一度見る
0リアル
見間違いじゃない
0リアル
「…………は?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
銀行中に響く絶叫し、近くの警官が振り返る。ヴィクトリアも振り返る。SHLD隊員も振り返る
ヒューゴだけがATMを指差していた
「俺の金がねぇぇぇぇぇぇ!!」
「え?」
ヴィクトリアが目を丸くする
「全部消えてんだけど!?」
「いや今それどころじゃ――」
「それどころだろ!!」
ヒューゴが叫ぶ。
「俺の全財産だぞ!?」
「全財産!?」
「八万七千リアル!!」
「思ったより少ないですね…」
「うるせぇ!!」
ヒューゴはATMへ食って掛かる。
履歴確認、送金履歴、不正送金
残高ゼロ
「クソ野郎共……」
拳が震える。
「現金だけじゃなく口座まで抜いてやがった……」
「俺の生活費……」
「家賃……」
「ニューロパフ……」
「昼飯代……」
「全部……」
ヴィクトリアが若干引き、言う
「いや、保険が――」
「出るまで何ヶ月かかると思ってんだ!!」
正論だった。ヒューゴは数秒黙る
「せや!」
端末を取り出す、画面には赤い点
逃走した強盗に実は縛られる前、ヒューゴは強盗のバッグへGPSタグを貼っていた
その時は保険だった。事件解決用でもなんでもない
なんとなくだ。
だが今は違う。完全に違う
ヒューゴは端末を見つめる
逃走中の移動速度から見てバイク!
まだ追える!十分追える!!
「……」
「あの?」
ヴィクトリアが声を掛ける。
ヒューゴは静かに言う
「俺」
「はい」
「今なら人を殺せる気がする」
「落ち着いてください!」
「無理」
即答だった
「俺の金だぞ」
「えぇ」
「俺が汗水垂らして」
「はい」
「命懸けで稼いだ金だぞ」
「はい」
「遊園地でロボットに撃たれながら稼いだりした、金だぞ!」
「仕事がおかしいんですよ!」
ヒューゴは聞いていなかった。もう頭の中は金しかない
「取り返す」
「え?」
「絶対取り返す」
「SHLDに任せてください!」
「でも俺の金だから!」
意味不明だった。だが本人の中では筋が通っている。
ヒューゴは踵を返した
その頃
地下駐車場
能力者の男は走っていた
「クソがッ!!クソが!!」
だがその足が止まる
暗い駐車場の奥に一人の男が立っていた
厚い防弾着に完全防備、武器はない。生身だ。
男は静かに言う
「逃走経路予測済みィ!」
能力者の顔から血の気が引いた
SHLD特務部隊対能力者制圧班。その中でも精鋭。
男が腕を広げる
「投降を推奨するぜェ!!」
地下駐車場の空気が凍った。
――場面は切り替わる
銀行裏の逃走用バイク
ブォォォォォン!!
強盗が全力で走り去っていく
その数分後。近くの立体駐車場の人気のない階段室。
ヒューゴが新しいケースを開いた
中には黒いライダースーツ。強化繊維、耐弾プレート、新調したばかりの装備だった
「八千リアルしたんだから活躍してくれよ」
コートを脱ぎ、ネクタイを外す。ライダースーツへ着替える。腰にはリボルバー。
端末のGPSは逃走車両を示している
ヒューゴはヘルメットを被った
「金下ろしに来ただけだったんだけどなぁ」
エンジン始動する
ブォォォォォン!!
真夏のキーリオスへ探偵が走り出した




