最強死刑囚編?その一
せっかくだからストーリーにもっとギリシャ要素入れてえな
ヒューゴとメロルスは、アルヒゾー行きの長距離バスに揺られていた。今回の目的地は、巨大刑務所パノプティコン。今回の依頼内容は実にシンプルである。依頼人から渡されたダンベルを、死刑囚のグバヤ=ングルへ差し入れし、近況を聞いてくること。
意味がわからなかった。
「うーん、刑務所かぁ〜。名前のせいかなぁ、なんかシンパシー感じるなぁ」
ヒューゴが窓の外を眺めながら呟く。
監視転移。監視カメラを経由して転移する彼の能力名と、確かに少し似ていた。だが隣のメロルスは、どこか上の空だった。
「……ああ、そうだな」
反応が薄い。彼の頭の中を占めていたのは、前回の依頼で出会ったカテリナだった。
超空間把握能力を持つ、あの少し気弱な短髪の女性。
つまりメロルスは、一目惚れしていた。
「ヒューゴ」
「ん?」
「今日はなぜ……カテリナさんは来ないんだ?」
ヒューゴは露骨にニヤついた。
「あ〜、さてはお前!」
「ち、違う!ただ聞いただけだ!」
「顔赤いぞ」
「うるさい!」
ヒューゴはケラケラ笑いながら続ける。
「そりゃお前、“刑務所で囚人にダンベル渡して雑談するだけ”の仕事に、超空間把握なんて必要ないだろ。人件費節約だよ節約」
「うっ……」
その正論にメロルスは露骨に肩を落とす。
「そんな落ち込んじゃう!?」
「……別に」
全然別にじゃなかった。
そうこうしているうちに、バスは目的地へ到着する。窓の外に現れたのは、巨大な黒いドームだった。
「うわ……」
メロルスが思わず息を呑む。
刑務所。
都市伝説じみた噂すら存在する、超大型監獄施設である。二人はバスを降り、入口へ向かった。中では厳重な検査が待ち構えていた。
荷物検査、身体検査、義肢スキャン。
「ここまでやるのかよ……」
「そりゃ凶悪犯だらけだからな」
検査を終えた二人は、ドーム中央へ続く通路を歩く。
パノプティコン内部は巨大な円形構造になっていた。
中央には一般囚人の牢獄と全監獄を監視する本棟。
その周囲を複数の監獄棟が囲んでいる。
西棟には、バイオ・オーグメンテーションを受けた強化人間用の監獄。
東棟には、能力者専用監獄。能力の種類ごとに牢獄構造すら違うらしい。
「すげぇな……」
その牢獄の景色に圧倒されていた二人は、やがて本棟手前の面会室へ通された。少し待つと、重々しい足音が響く。現れたのは筋骨隆々の大男だった。
剃り上げた頭、鋭い眼光、首から胸にかけて走る無数の傷痕。死刑囚グバヤ=ングル。
職員に連れられ、彼は椅子へどっかり腰掛けた。
「おうおう。刑務官に“面会人が来てる”って言われたからよォ、てっきり女房が恩返しに来たのかと思ったぜ」
グバヤは二人を睨む。
「……誰だテメェら?」
「どーもどーも。ヴァレンタイン探偵事務所のヒューゴ・ヴァレンタインです」
ヒューゴはいつもの軽薄な笑みを浮かべる。
「今回は依頼人から、“こちらのダンベルを渡して、近況を聞いてきてほしい”って頼まれましてね」
隣ではメロルスが丁寧にケースを隣の搬入口へ置く。すると自動搬送装置が作動し、ダンベルはグバヤ側へ送られていった。
「おおっ!!」
グバヤの顔が一気に明るくなる。
「やるじゃねえかアイツ!!やっと俺に恩返しする気になったか!」
「恩返し?」
「ん?知らねえのか?」
グバヤは豪快に笑った。
「俺が強盗殺人を繰り返したのはよぉ、妻の病気を治すためだ」
「……は?」
「まあ途中から必要以上に金奪ったし、人も殺しまくっちまったけどな!!ガハハハ!!」
最低だった。だが本人は心底楽しそうに笑っている。メロルスは若干引いていた。一方ヒューゴは愛想笑いを浮かべる。
「わはは……そうなんすねぇ」
「で?近況だっけか?いいぜ、聞けよ!」
そこからグバヤは延々と喋り続けた。
筋トレの話、刑務官を睨み返した話、隣房の囚人と腕相撲した話、筋トレの話、また筋トレの話。
「コイツ筋肉の話しかしてねえ……」
メロルスが小声で呟く。
「脳まで筋肉なんだろ」
結局、一時間近く話を聞かされた。
「はい、ありがとうございました。それでは今日はこの辺で」
「おう!また来いよ!」
グバヤはやたら爽やかに手を振った。死刑囚とは思えないテンションだった。
面会終了後、グバヤは独房へ戻される。
「さてと……」
彼は早速、差し入れられたダンベルを持ち上げた。
「久々にいい重量じゃねえか」
筋トレを始めようとした、その時だった。
「……ん?」
ダンベルの感触に違和感を覚える。
「なんかこの材質……妙な加工されてんな」
グバヤは怪訝そうに眉をひそめた。
「分解してみるか」
彼は怪力でダンベルの接合部を捻じ曲げ、内部構造を覗き込む。
すると――
「……お?」
内部に、不自然な隙間があった。怪しんだグバヤは指を突っ込み、中を探ると彼の手に、小さな注射器があたる。
「……なんだこりゃ」
三寸ほどの小型注射器。中には怪しく光る薬液が入っている。だがグバヤは警戒しなかった。
むしろ笑った。
「おいおい……やるじゃねえか!!」
彼は迷いなく、自らの首へ注射器を突き刺した。
薬液が体内へ流れ込む。
「――ッッッッッ!!!?」
全身の血管が火を噴いたように熱くなる。骨が軋み、筋繊維が引き裂かれ、再構築されるような激痛。
「ぐ……あ……ァァァアアアアアアアッッ!!!!」
グバヤは独房の床を転げ回った。監獄中へ響く絶叫
そして数分後、荒い息を吐きながら、グバヤはゆっくり立ち上がる、その目には、狂気じみた光が宿っていた。
「……ハハ…最高じゃねえか」
こうしてまた一人、新たな能力者が誕生したのだった。
依頼人の正体は妻ではない!




