ヤクとクズとケンタウロスと
尺伸ばし尺伸ばしっと
「ゥグ……!なんでこんなことになってんだクソォ……!しかも監視転移の範囲外じゃねえか……!てかカテリナ!超空間把握能力で気づけっての!」
地震による地盤崩落に巻き込まれ、普段は飄々としているヒューゴも流石に取り乱していた。大量の瓦礫に埋もれながらも、彼はなんとか起き上がる。
「おい、生きてるかー?」
まずメロルスの頭を軽く蹴る。
「いっっってぇ!! 起こし方!!」
「元気そうだな」
続いてカテリナを引っ張り起こした。
「うぅ……すいませえん……まさか急に地震が起きるなんてぇ……」
「まあ生きてるからヨシ!」
「雑すぎるだろ判断基準が」
三人はライトを点け、周囲を照らした。地下深く落ちたらしく、空気は湿り気を帯び、妙に生暖かい。まるで巨大な生き物の腹の中のような感覚だった。
その時だった。ゴロゴロ……と何かが転がる音が響く。
「……ん?」
暗闇の中から、人間ほどのサイズの黒い球体が四つ転がり出てきたと思うと装甲の隙間から大量の脚が飛び出し、中央に赤い単眼が開く。
「うわっ、キッモ!?」
「未管理の警備ロボですぅ!!」
黒い球体ロボは蜘蛛のように高速で這い、三人へ襲いかかった。一体はメロルスが迎え撃つ。
「カテリナさん!下がってて!」
OGT義手を駆動させ、ロボットの装甲へ拳を叩き込む。だが敵も頑丈だった。球状ボディで回転しながら突進してくる。
「チッ、戦いづらっ!」
泥臭く殴り合うメロルス。一方ヒューゴはリボルバーを片手で撃ちながら、足でロボの脚を蹴り折り、コアを蹴り潰す
蹴る、撃つ、蹴り潰す
やってることはかなり無茶苦茶だが、妙にスタイリッシュだ
「お前なんでそんな戦い方できるんだよ!?」
「モテる男は足腰強いからな」
「絶対関係ないだろ!」
結局、最後はヒューゴがメロルスの相手をしていたロボまで破壊した。
「ふぅ。大したことなかったな」
「俺死にかけたぞ!」
ヒューゴは散らばった荷物を拾い集め、メロルスに渡し何事もなかったかのように歩き始める。
「ほら行くぞ。依頼品が先だ」
三人はホロマップを頼りに地下を進んだ。すると通路の先に、奇妙な空間が広がっていた。崩壊しそうな天井の無数の穴から、太陽光が木漏れ日のように差し込んでいる。地下だというのに、そこだけ森の遺跡みたいだった。
蔦に覆われた古い列車に水溜まりに反射する光。
退廃的なのに、どこか美しい。
「おっ、あるじゃんあるじゃん!」
ヒューゴが指差した先には、大型コンテナが置かれていた。三人は警戒しながら近づき、ヒューゴは早速コンテナを開いた。中に入っていたのはたった一つのジュラルミンケース。
「おいメロルス。開けようぜ」
「いや、依頼人を差し置いて開けるのは良くないだろ……」
「宝箱は開けるためにある」
「ゲーム脳だな」
メロルスとカテリナが止める中、ヒューゴは躊躇なくケースを開錠した。
カチャ
中に入っていたのは、一本の注射器だった。
透明な薬液が静かに揺れている。
「……なんだこれ」
メロルスは眉をひそめる。
だがヒューゴだけは、どこか懐かしそうな顔をしていた。一方、カテリナの顔色は明らかに悪い。
「それ……まさか……」
ヒューゴが注射器を持ち上げる。
「これはこれは。俺をこの運命に導いたQΛRの薬剤じゃないか」
「なにっ!?じゃあこれでまた能力者を生み出せるってことか!?」
「まあ、そういうことになるな」
空気が一気に重くなる。
その瞬間だった。
「――ズガァァァン!!!」
轟音が走り、天井の一部が吹き飛んだ。瓦礫と粉塵の中から、巨大な影がゆっくり姿を現す。
人間の倍近い身長
白く滑らかな装甲
ケンタウロスのような四脚
そして女神像めいた上半身
腕部には大型クロスボウが装着されている。
機械なのに、妙に神々しい。
「私は《ケンタウラ》」
機械音声が地下に響く。
「その薬剤をこちらへ渡しなさい」
一瞬の沈黙の後、ヒューゴは、
「渡せって言われて渡すかよ。ファッキューファッキュー!」
中指を立てた。
「何してんだお前は!!」
メロルスのツッコミも虚しく、ヒューゴはそのまま突撃する。
「くらえ!ただの蹴り!!」
ただの蹴りだった
……しかし、ケンタウラは一ミリも動かない。
逆にヒューゴが、
「ッッッッッッッッッッッ!!!!」
足を押さえて転げ回る。
「いっっっっっっっっってぇぇぇぇぇ!!!!!」
「何してんだお前ェ!!?」
「鉄じゃん!!めっちゃ鉄じゃんコイツ!!」
「見ればわかるだろ!!」
ケンタウラが静かにクロスボウを構える。
「排除します」
「メロルスゥゥ!!カテリナァァ!!逃げるぞォォ!!」
「おい嘘だろ!?」「エェ!?」
三人は即座に撤退した。クロスボウの矢が壁を粉砕する。ヒューゴは全力疾走しながら叫ぶ。
「無理無理無理!!あれラスボスだって!!」
「お前が喧嘩売ったんだろうが!!」
「コミュニケーション失敗しただけだって!」
「中指立ててた奴の台詞じゃねぇって!」
地下通路を、三人は文字通り命懸けで逃げ回った。その頃、元の場所ではケンタウラは静かに立ち尽くしていた。
「……逃げられましたか」
機械の瞳が静かに点滅する
「私も、まだまだですね。ですが今回の件は、そこまで重要ではありません。“御当主様”も許してくださるでしょう」
そう呟き、ケンタウラは自ら開けた天井の穴から去っていった。
その後なんとか地下鉄を脱出したヒューゴ達は、疲れ果てた顔で帰路についていた。
「なあメロルス。この薬剤、絶対ヤバいやつだよな」
ヒューゴが注射器を眺めながら言う。
「ああ、依頼人も、わざわざお使いロボで身分隠してたしな」
メロルスは鋭い目のまま頷いた。するとヒューゴは突然ニヤリと笑う。
「というわけで依頼人には“中身壊れてました”って伝えて、コイツは事務所で管理!頃合い見て闇市で売っぱらいます!^_^」
「お前それバレたら終わりだぞ……」
「大丈夫大丈夫」
全然大丈夫そうじゃなかった。
ヒューゴはその場で依頼人へ通信をかける。
「はいもしもし〜?探偵のヒューゴでーす」
『……それで?』
「実はですねぇ、コンテナの中身なんですけど、もうグッチャグチャでして!持ち帰れる物なかったんですよね〜!」
沈黙。数秒間の、怖い沈黙。そして。
『……クズどもが』
二度目の、ドスの効いた声だった。
「では依頼は無かったということで〜」
ヒューゴは即座に通信を切断した。
「……キレてましたねぇ……」
カテリナが呟く。
「そりゃな」
ヒューゴも苦笑する。だがどこか楽しそうだった。
「まあ何とかなるだろ」
そう言いながら、彼は注射器を指先でクルクル回す。
「とにかくさ。この薬剤、上手く使おうな」
と事務所へ帰宅するのだった
しかし彼らはまだ知らない。
この一本の注射器が、これから三人を、想像を遥かに超える巨大な渦へと飲み込んでいくことを。
よし終わった。時計チラッ
えっもう朝じゃん




