大義なき男 そのニ
照星の銃口が、微動だにせずスレイフへ向いていた。
普通の狙撃銃ではない。照星専用に改造された、ロケット推進弾専用兵装、そして、ミアが横で端末を叩く。
「照星さん! ショッピングモール内の避難まだ終わってませんよー!」
「……わかっている」
照星は静かに引き金を引いた
パァン!!
だが今度の弾は違った。スラスターが起動していない。ただの高速の徹甲弾にしか見えなかった。
スレイフが眉をひそめる。
「ん?」
次弾を撃つ
パァン!!
今度は足元。
コンクリートへ突き刺さる
さらに
パァン!!
パァン!!
パァン!!
照星はボルトを引きまくり、異常な速度で撃ち続けた。スレイフは空中を炎で噴射移動しながら笑う。
「うわ、当たんないじゃん!」
だが照星は表情を変えない。弾丸が次々と床へ、壁へ、柱へ突き刺さっていく。
ショッピングモール上層
吹き抜け
エスカレーター横
まるで無意味に散弾しているようだった。だがヒューゴだけが気づく。
「……そういうことね」
メロルスも周囲を見る。刺さった弾丸。その数、数十発がまるで地雷のように配置されていた。スレイフは炎を噴射しながら笑う。
「なぁに?ヤケクソ?」
ボォォッ!!
一気に加速し炎の尾を引きながら照星へ一直線に突っ込む。その瞬間に照星の声が響いた。
「ミラ」
「はいはーい」
ミアが端末をスワイプする。次の瞬間、床へ突き刺さっていた弾丸全てが、一斉に起動し、スレイフの笑みが止まる。
「……は?」
ボッッッ!!!
突如。落ちていた一部の弾丸のスラスターが一斉起動し、床を砕きながら弾丸が再加速する。
後方
左右
死角
あらゆる方向からロケット弾がスレイフへ襲いかかった。
「ッッ!?」
スレイフは咄嗟に炎噴射し、空中へ跳ぶ。
だが更に弾丸は曲がる
ゴォォッ!!
ロケット推進による異常軌道。壁を蹴るように反射しながら追尾してくる
「うわっ、キンモッ!!」
爆発に火花。スレイフの脇腹が吹き飛ぶ。
さらに二発。
肩。
腿。
連続着弾し、空中でスレイフの身体が大きく揺れた。ミアが笑う。
「照星さんの弾、落ちてからが本番なんですよー!」
照星は静かに次弾を装填した
「貴様は速い」
銃口がスレイフを追う
「だから近づけさせない」
スレイフは炎を噴射しながら無理やり姿勢を立て直した。だが周囲を見た瞬間、顔が引きつる。
床
壁
天井
いつの間にか、照星の弾だらけだった。まるで巨大な罠空間。
「……うわぁ」
スレイフが笑う。だがその笑みは、さっきより少しだけ引きつっていた。
「いいね、おまえ」
スレイフは血を流しながら笑った。脇腹は抉れ、肩も抉れている。普通なら立っていることすら不可能な傷。それでもその目だけは死んでいなかった。照星は静かに照準を合わせる。周囲にはロケット弾。逃げ場はない。炎噴射で飛べば、どこからでも弾が追ってくる。まさに完全包囲。ミラも息を吐いた。
「終わりましたね」
ヒューゴもショッピングモールの外から見上げる。スレイフは肩を震わせながら笑う。
「いやぁ」
ボー……
足元から炎が漏れ
「最高だわ」
次の瞬間、スレイフは、自分の腹へ手を突っ込んだ
そこから炎を流し込む
ジュゥゥゥ……
焼ける音、自身の肉が炭化する臭い
だが吹き飛んでいた脇腹の肉が、焼き固められるように繋がっていく。肩の抉れた部分も、炎で無理やり癒着し、ミラの顔が引きつる。
「うわっ……」
ヒューゴも眉をしかめた
「自分で焼いて治療してんのかよ……」
スレイフはケラケラ笑う
「痛いけど効くんだよねえこれ」
皮膚が焼け、煙を上げながら傷は塞がっていく。まともな治療じゃない。能力による無理やりな修復。
その瞬間だった
ボンッッッ!!!!
爆発音
だが違う
これは弾じゃなかった
スレイフ自身が爆ぜるように炎を噴出した
「……ッ!?」
照星の目が見開かれる
速い
いや
速すぎる
今までとは比較にならない
炎を“噴射”しているんじゃない
炎を爆発のように連続起動し、加速している
視界に炎の残像だけが残る
ミラが叫ぶ
「照星さんッ!!」
次の瞬間にはスレイフが横にいた
「捕まえた」
ゴッ!!
照星の首が掴まれ、そのまま壁へ叩きつけられコンクリートが砕ける。
「がッ……!!」
照星の呼吸が止まる。ミアが即座に拳銃を抜いた
「照星さんを離せェッ!!」
パァン!!
だがスレイフは振り向きもせず、適当に手を振る
「じゃま」
ボッ
小さな炎。本当に、雑に放たれた火だったそれだけだった。
「あ」
ミア身体が燃え上がる。一瞬で。
「ぁあああああああああああ!!!」
絶叫し、皮膚が焼け、髪が燃える。ミアは床を転がりながら必死に火を消そうとする。だが消えない。炎が酸素みたいに身体へ纏わりついていた。
「いやッ!! 熱ッ!! 照星さん!! 照――」
そこで声が途切れ、炭になった
「……」
照星の目が揺れる。初めてだった。あの照星の感情が、大きく乱れたのは。
「ミア……」
「余所見してねえで俺を見ろよ!」
ゴッ!!
スレイフの膝蹴りが腹へ突き刺さる。照星が吐血する。それでも両手で拳銃を抜いた。
至近距離。
スレイフの頭へ向けた。だがそれでもスレイフは笑う
「遅ーい」
ボォッ!!
炎を噴出し、照星の義手が、一瞬で焼け落ちた。金属が赤熱し、溶ける。
「ぐァァァァッ!!」
拳銃ごと腕が崩れ落ちる。さらに炎が身体を包み、黒いコートが燃え、皮膚が焼ける。それでも照星は睨み続けた。
「……貴様」
「ん?」
「家族を……返せ……」
スレイフは数秒黙り。そして笑った。
「むーりぃ」
ボンッ!!
照星の身体が吹き飛び、ショッピングモール上層から叩き落とされ、瓦礫の中へ転がった。
炎。
煙。
崩壊。
スレイフは空中へ浮かびながら、燃える都市を見渡す。
「あー、やっぱ飽きてきた」
その目が、遠くを見た。キーリオス中央区。都市の中心にそびえる、巨大な塔のエネルギータワー。
都市全域へエネルギー供給を行う心臓部を
スレイフは笑う。
「次はあれ壊そ!」
炎が噴き上がる。
「それでキーリオス、終わりね」
ドゴォォォッ!!
紅蓮の尾を引きながら、スレイフは空へ飛び去っていった。残されたのは燃えるショッピングモール。死体、悲鳴、
そして
瓦礫の中で焼け焦げた照星
「おい!!」
ヒューゴが駆け寄る。膝をつく。
「照星!!」
照星の身体は酷かった。両腕は欠損、全身が焼け爛れ、呼吸も浅い。それでもまだ生きていた。
「……ヒューゴ」
「喋んな」
「頼みがある」
「死ぬ前みたいなこと言うんじゃねえ!」
ヒューゴの声が少し震える。照星はゆっくり目を閉じかけ。それでも言った。
「アイ……ツを……殺せ……」
「……」
「撃ち殺してくれ」
ヒューゴは何も言わない言えない。照星は、僅かに笑った。
「……やっと……見つけたんだ……」
焼けた唇から、最後の息が漏れる
「……頼んだぞ……」
そして、照星の身体から力が抜けた。周囲ではまだ炎が燃えている。ヒューゴは俯いたまま動かなかった。やがてポケットからニューロパフを取り出す。だが火をつける手が、少し震えていた。




