探偵って、誰より自由なんだぜ
過去編で・す!!
まだキーリオスの治安が今よりマシだった頃。
とはいえ、スラムは相変わらずスラムで、銃声と怒鳴り声くらいなら子守唄代わりになるような街だった。
学生時代のヒューゴは、今より少し背が低く、今よりずっと尖っていた。
「だりぃ……」
授業中、机に突っ伏しながら窓の外を見る。教師の声なんて右から左。興味も無い、将来の夢も無い。ただ身体を動かすのだけは得意だった。
喧嘩も強い、足も速いだがそれだけだ
「ヒューゴ・ヴァレンタイン!!」
教師が怒鳴る。
「また授業を聞いてないな!」
「聞いてますよー」
「今どこを説明していた!」
「……いい感じのところ?」
「廊下立ってろ!!」
「うーっす」
教室中の笑い声。ヒューゴは面倒臭そうに立ち上がり、廊下へ出る。するとそこに、腕を組んで立っている男がいた。
「また怒られてるのかヒューゴ」
「うわ、カイゼル」
学生時代のカイゼルは、今より少し幼い顔をしていたが、すでに“真面目さ”だけは完成していた。
制服もキッチリ。
姿勢も良い。
風紀委員。
教師受け最強。
ヒューゴとは真逆の存在だった。
「お前さぁ、なんでそんな真面目なの?」
「逆になぜキミはそこまで不真面目なんだ」
「人生つまんなそう」
「キミは自由すぎる」
いつものやり取り、だがカイゼルは、ふと真面目な顔になる。
「最近この辺りで違法義体の密売が増えてるらしい」
「へぇ」
「犯罪組織が関係してるとか」
「お前そういう話好きだな」
「悪を放置したくないだけだ」
カイゼルは真っ直ぐ言った。その目には、本気で世界を良くしたいという熱があった。ヒューゴはそれを見て、少しだけ笑う。
「お前、将来絶対警察だろ」
「当然だ」
「うわぁ」
「なんだその反応は」
その日の放課後。
ヒューゴはゲームセンターへ向かう途中、裏路地で妙な騒ぎを見つけた。
「返せよ!!」
子供の声。見ると、小学生くらいの少年が大人二人に囲まれていた。
「うるせぇな」
「落とした方が悪いんだろ?」
男たちは少年の端末を奪って笑っている。スラムじゃ珍しくない光景。普通なら皆、見て見ぬふりをする。
ヒューゴも最初は通り過ぎようとした。
だが
「――その端末、妹に買ったやつなんだ」
少年のその一言で、足が止まる。
「……はぁ」
面倒臭そうに頭を掻く。
「おっさんら」
「あ?」
「ガキ泣かせて楽しい?」
男たちが振り返る。
「なんだテメェ」
「学生は帰って家でシコッてろ」
「やだよ」
ヒューゴは笑う。
「なんかムカつくし」
数分後。二人は路地に転がっていた。
「いっっ……!」
「足癖悪すぎだろコイツ……!」
ヒューゴは端末を少年へ投げる。
「ほら」
「あ……」
「次から気をつけろよ」
そのまま立ち去ろうとした時だった。
「お見事」
知らない声が路地の奥から聞こえてきた。そこには黒いロングコートを着た男が立っていた。
長髪。
煙草。
気怠そうな目。
だが妙に雰囲気がある。
「……誰?」
「探偵」
「は?」
男は笑う。
「一応な」
探偵。その言葉にヒューゴは少し眉を上げる。
「今時そんな職業あんのか」
「あるとも」
男は転がるチンピラを見る。
「しかも結構楽しい」
「へぇ」
「今の時代なら警察より先に悪党ぶん殴れるし」
「……!」
ヒューゴの目が少しだけ変わる。男はそれに気づいて笑った。
「興味ある顔してるな」
「別に」
「君、才能あるよ」
「何の?」
「トラブルに首突っ込む才能」
「嬉しくねぇ」
男は煙草を咥えながら言う。
「探偵ってのはな」
「誰かが“もう無理だ”って諦めた後に動く仕事だ」
「警察が動けない時」
「誰も助けてくれない時」
「最後に泥臭く現場を走る」
ヒューゴは黙って聞いていた。男は続ける。
「カッコ悪い仕事だよ」
「でも――」
煙草の煙が夜に溶ける。
「案外、悪くない」
その瞬間だった。ヒューゴの中で、何かが妙に引っかかったのは。数日後
「探偵?」
カイゼルが露骨に変な顔をする。
「なんだその胡散臭い職業」
「いや、結構イカしてたんだって」
「警察の方が世のためになる」
「規則だらけじゃん」
「必要な規律だ」
「うわ出た真面目」
だがヒューゴは珍しく楽しそうだった。
「なんかいいんだよ」
「好き勝手動いて」
「悪党ぶん殴って」
「助けたい奴助ける感じ」
「子供みたいな理由だな」
「うるせぇ」
カイゼルは呆れながらため息を吐く。
「……まあ」
「?」
「キミには向いてるかもしれない」
「お、珍しく褒めた」
「褒めてない」
その年だったQΛRの免疫剤無料接種によってヒューゴ・ヴァレンタインが、“能力”に目覚めたのは
ヒューゴが影響受けた探偵もいつか書きます




