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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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過去

銃声が、再び市場に炸裂した。

メロルスはOGT義肢を交叉させ、弾幕を正面から受け止める。火花が散り、衝撃が両腕に響く。皮下シールドが限界に近い警告音を発していたが、構わず前へ出た。


「こっちだ、刺青の男! 俺が標的なんだろ!?」


男の銃口が、確実にメロルスへ向く。ユンロンはその隙に、低い姿勢で男の側面へ回り込んでいた。


「俺の為に早く死んでくれよォ!!!」


男は片方のUziをメロルスに、もう片方をユンロンに向けて掃射する。弾が路面を跳ね、屋台の残骸を粉砕する。ユンロンは弾の隙間を縫うように身を低くし、男の死角へ食い込んでいく。

メロルスは義肢で弾を弾きながら、間合いを詰めた。


(実体化を促せ……出血するまで引き延ばすんだ)


男がさらに顔の刺青を光らせ、新たな弾倉を実体化させようとした瞬間、メロルスは踏み込んだ。


「遅えよ!」


OGT義肢がうなりを上げ、実体化したばかりのUziの銃身を横から叩き折る。金属が悲鳴を上げて歪み、男の手が弾かれた。


「ぐあっ……!」


男は後退しながら、背中の刺青を一気に輝かせた。緑の光が広がり、複数の刃が皮膚を割るようにして実体化する。男はそれを両手に掴むと、メロルスへ向かって投擲してきた。

メロルスは義肢で刃を払い、ユンロンが低姿勢から男の膝を狙って踏み込む。


「貴公の相手は、私だ」


ユンロンの掌が男の手首を捉え、刃の軌道を逸らす。同時に膝で脇腹を突き上げた。男の息が詰まる。

そのとき、メロルスは男の肌を見た。

刺青の隙間から、細い赤い筋が滲み始めている。


「……出血してる」


ユンロンが短く頷いた。


「まだまだだ。もっと実体化させろ」


男は荒い息を吐き、歯を食いしばった。顔の刺青がさらに強く明滅し、次の兵器を実体化させようとする。体の各所から、すでに血が滴り始めていた。

メロルスは義肢を構え直す。


「まだまだ足りねえな。もっと出せよ」


男の目が、初めて明らかに揺れた。

次の瞬間、男の全身の刺青が一斉に緑に燃え上がるように輝いた。


次の瞬間、皮膚を割るような音が連続して響く。背中、胸、腕、腹――彫られていたあらゆる兵器が、一斉に実体化し始めた。刃物、銃器、鎖、棘付きの槌。男の周囲に、武器の嵐が展開する。


「……本気かよ」


メロルスが舌打ちするより早く、男は両手を振り上げた。

実体化した無数の刃が、一斉に飛来する。同時に、残っていたUziの掃射も再開された。弾と刃が混ざり合い、メロルスとユンロンを飲み込まんばかりの弾幕と斬撃の嵐が襲いかかる。


「散れ!」


ユンロンが低く叫ぶ。二人は左右に分かれた。メロルスはOGT義肢を最大限に展開し、飛来する刃を叩き落としながら前へ出る。金属が金属を弾く音が連続し、火花が視界を埋める。

ユンロンは低い姿勢のまま、刃の隙間を縫うように男へ接近していく。生身でありながら、軌道を正確に読み、紙一重でかわし続ける動きは、以前リングで見たものと変わらなかった。


「死ねえ……死ねよォ!!」


男が絶叫する。体中からすでに血が滴り、肌が赤く染まっていた。実体化の反動が、確実に体を蝕んでいる。だが男は止まらない。さらに刺青を光らせ、新たな武器を generovat し続ける。

メロルスは弾を義肢で受け流しながら、男との距離を詰めた。


「出血が酷くなってきてる……! もっと押し込む!」


「承知した!」


ユンロンが男の側面に回り込み、実体化した鎖を掌でいなすと、そのま

ま男の肘を正確に関節技で極めた。男の体勢が崩れる。

その隙を、メロルスが逃さなかった。


「喰らえッ!!」


OGT義肢が限界出力でうなりを上げ、男の胴体を目がけてストレートが放たれる。男はとっさに実体化した盾のような刺青で受けようとしたが、衝撃に耐えきれず大きく後退する。背中が壊れた屋台に激突し、木材が粉々に飛び散った。

男は膝をついた。

全身の刺青から、血が勢いよく流れ出している。肌が真っ赤に染まり、息が荒い。それでも男は歯を食いしばり、震える手で次の武器を実体化させようとした。

緑の光が、弱々しく明滅する。

ユンロンが静かに、しかし冷たく言った。


「もう、諦めるがいい」


男の手が止まった。

血に染まった顔を上げ、メロルスを見る。目に、殺意ではなく、別の感情が浮かんでいた。


「……死んでくれ」


掠れた声だった。


「頼む……死んでくれよ」


メロルスが眉をひそめる。


「はあ?」


「俺には……家族がいるんだ。妻と、子供が……。俺が死んだら、あいつらが……」


男は喉を詰まらせ、血の混じった唾を吐き捨てた。体中の刺青から、まだ血が滴り続けている。


「謎の女に……枯番って毒を仕込まれたんだ。お前を殺さないと、俺が死ぬ。時間制限付きの毒だ。……だから、頼む。死んでくれ」

メロルスの表情が、険しくなる。


「……枯番、か」


「ああ。お前が死ねば、俺は助かる。家族も……守れる。逆に、俺が死ねば……あいつらもどうなるかわからねえ」


男は床に手をついたまま、頭を下げた。血が床に落ち、小さな染みを作る。


「だから……死んでくれ。頼む。俺は……お前らに恨みなんかねえ。ただ、生きたいだけなんだ」


ユンロンが低く、静かに問うた。


「枯番の解除条件は、標的の死亡だけか?」


「……いや、謎の女は『ちなみにあなたが死ぬことも解除条件』と言っていた。だがこんなもの意味がない」


沈黙が落ちる。

遠くで、まだ誰かの泣き声や足音が聞こえる。市場はすでに半壊し、人々はほとんど逃げ去っていた。

メロルスは、床に膝をついた男を見下ろしていた。


「……なあ」


男が震える声で言う。


「俺は……どうすればいい?」


メロルスは答えられなかった。


目の前の男は、確かに自分を殺そうとした。


多くの人間を巻き込み、銃を乱射し、刃を振り回した。


それでも。


「家族がいる」と泣きながら訴える姿を見てしまえば、簡単に殴り殺すことなどできなかった。


「……クソッ」


メロルスが拳を握り締める。


その隣で、ユンロンは静かに男を見つめていた。


「そうか」


「……え?」


「ならば、私が助けよう」


ユンロンが一歩、前へ出る。


「……助ける?」


男が顔を上げる。


「どうやって……」


ユンロンは答えなかった。


ただ、男の胸元へ静かに手を伸ばした。


「少しだけ、眠っていろ」


「……何を――」


ユンロンの掌が、男の胸へ触れた。


「――心停《シンティン》」


ドクン。


男の身体が、一度だけ大きく跳ねた。


そして。


完全に動かなくなった。


「…………え?」


メロルスが目を見開く。


男の身体から力が抜け、糸の切れた人形のように倒れ込む。


「おい……!」


メロルスが駆け寄ろうとする。


しかしユンロンは、それを片手で制した。


「待て」


「待てって……明らかにこいつ死んでるぞ!」


「そうだ」


あまりにも淡々とした返答だった。


「心臓を止めた」


「はあ!?」


メロルスが思わず声を荒らげる。


「何考えてんだ、あんた!」


ユンロンは男の胸元を見つめる。


「枯番の解除条件を思い出せ」


「……!」


メロルスが息を呑む。


『あなたが死ぬことも解除条件』


先ほどの男の言葉が蘇る。


「まさか……」


「ああ」


ユンロンは静かに頷いた。


「この男は、今、一度死んだ」


男の肌を覆っていた刺青が、次々と光を失っていく。


そして――。


ポタッ。


ポタッ。


先ほどまで流れ続けていた血が、止まった。


「……血が」


メロルスが呟く。


男の顔から苦痛が消えていた。


静寂の中、ユンロンは淡々と男の腕をとり、その皮膚の裏で沈黙したままの脈に指をあわせた。


「じゃあ……」


「枯番は解除されたのだろう」


男の命の呪縛が解かれたことを示唆する言葉に、メロルスは息をのんで目を見開いた。


「でもよ……」


足元で力尽きている男へ、メロルスは視線を落とす。


「死んでるんだろ?」


「ああ」


ユンロンは何の感情も交えずに首を縦に振った。そして、静かに告げる。


「だから、もう一度動かす」


「……は?」


呆然とするメロルスをよそに、ユンロンは再び男の胸元へ静かに掌を添えた。その瞳には、先ほどまでの冷徹さとは異なる、鋭く澄んだ集中が宿っている。


「心動(シンドン)」


重く短い叫びとともに、弾けるような振動が伝わった。男の肉体が跳ね上がる。


「――ッ!」


直後。

ドクン。

途絶えていた時を告げるように、小さな鼓動が打ち打たれた。

ドクン、ともう一度。

血が巡り始める微かな音に、メロルスは言葉を失った。冷たくなっていたはずの胸が、かすかに上下を始める。


「……心臓が」


掌を離しながら、ユンロンが淡々と告げた。


「動いた」


「嘘だろ……」


男の指先がピクリと痙攣し、かすれた息が口から漏れた。


「う……」


メロルスは目の前の光景が信じられず、ただただ固まっていた。ほんの数秒前まで間違いなく命を落としていた男が、いま目の前で確実に息を吹き返している。

ユンロンは衣を揺らして立ち上がった。


「これでいい」


「……お前、一体何者なんだよ」


メロルスの引きつった呟きに、ユンロンは薄く目を細める。


「ただの拳法家だ」


「いや、絶対それだけじゃないだろ……」


苦笑いを浮かべるメロルスの足元で、意識を取り戻した男が弱々しく声を発した。


「……ありがとう。俺は……助かったのか……?」


「ああ。もう、お前を縛るものは何もない」


短く答えるユンロンの言葉を聞き、男の瞳からボロリと涙がこぼれ落ちる。


「……家族に、会える」


「「ああ……だがその前に」」


「その前に?」


2人の言葉に刺青の男は首を傾げた。それを気にせずユンロンは続けた。


「「黒幕のことについて詳細を話してもらおうか?」」


その言葉は恐ろしく刺青の男は地震を起こせそうなほど震えた。


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