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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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カテリナ、リシア

またまた一方その頃、カテリナは。


「仕事がぜんぜん終わりませぇーん!」


カテリナはヴァレンタイン探偵事務所で終わりの見えない書類作業をこなしていた。


書類の内容は未処理の案件、依頼人への連絡、依頼人からの問い合わせメールの下書き、ヒューゴのニューロパフの注文リストそして、ヒューゴからの新製品のニューロパフの注文。

後半はどれもくだらないものばかりだ。


「はあ……今日中に終わらせなきゃいけないのにぃ……」


そんな時だった。


「ハァーイ、カテリナちゃんも大変ね」


ヴァレンタイン探偵事務所の入り口にリシアが立っていた。その姿は完全に私服であり、武装を隠し持っているようには見えなかった。


「あ! リシアさあん! 聞いてくださいよぉ! 昨日からヒューゴさんが帰ってこなくて、書類やら作業やらが終わりそうにないんですよぉ!」


カテリナは机に突っ伏しながら叫んだ。


「あらあら。大変ね」


リシアは苦笑しながら事務所へ入ってくる。


「それで? ヒューゴはまだ連絡つかないの?」


「全然です! 電話しても出ないし、メッセージ送っても既読つかないし!」


「珍しいわね」


「ですよねぇ!」


カテリナは顔を上げる。


「いつもなら、どれだけ面倒なことに巻き込まれても、次の日には何食わぬ顔で帰ってくるのに……」


「昨日、何かあったのかしらね」


「それが分からないんですよぉ!」


カテリナは再び机に突っ伏した。


「もう嫌です……。ヒューゴさんがいないせいで、私の仕事が三倍くらい増えてる気がします……」


「気のせいじゃないと思うわよ」


リシアは机の上に積まれた書類の山を見て、ため息をついた。


「……よくこんな量、一人でやってるわね。私も手伝ってあげる。」 


「えっ!? 本当ですか!?」


カテリナが勢いよく顔を上げた。ぱっと華やぐその表情に、向かいに立つリシアは笑みを浮かべる。


「もちろん。これでも私、こういう地道な事務作業は得意なのよ」


「リシアさあん……!」


カテリナの瞳が感動に潤み、キラキラと輝き出した。


「女神……!」


「大げさねぇ」


リシアは呆れたように首を振ると、向かいの椅子を引いて腰を下ろした。


「で、どれから片付ければいいの?」


「じゃあ、そこの山をお願いします!」


「……山?」


リシアが指差された方へ視線を送ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

書類。書類。書類。さらに積み上げられた書類の束。もはや整頓された机というよりは、紙で形成された小さな山脈と呼ぶほうがふさわしい。


「……カテリナちゃん」


「はい?」


「これ、本当に今日中に終わるの?」


「だから困ってるんですよぉ!」


頭を抱えて叫ぶカテリナに苦笑しながら、リシアは山の上から一枚の書類を手に取った。


「これは?」


「未処理の捜索依頼です」


「こっちは?」


「迷子の猫探しですね」


「これは?」


「浮気調査の報告書です」


「これは?」


「盗まれた電子義眼の捜索願です」


「これは?」


「ヒューゴさんのニューロパフ新製品の予約注文書です」


「……最後のだけ明らかに仕事じゃないわね」


「私も全く同じことを思いました!」


お互いに溜め息をつき合うと、二人は黙々と作業に取りかかった。

しばらくの間、室内にはカタカタカタ……と端末のキーを叩く乾いた音だけが静かに響いていた。やがて、画面を凝視していたリシアがふと手を止める。


「……カテリナちゃん」


「はい?」


「この『ニューロパフ新味・激辛カレー風味』って何?」


「ヒューゴさんが個人で注文した分です」


「……あの人、これを吸いながら仕事するつもりなの?」


「仕事中に吸うだけならまだ可愛げがありますよ」


「まだ何かあるの?」


「前に『仕事中用』と『仕事をサボりながら吸う用』でわざ

わざ分けて注文してましたから」


「…………」


リシアは呆れ果てたように無言になった。数秒の沈黙の後、真顔で呟く。


「……彼が帰ってきたら、一発やっちゃっていいかしら?」


「私も手伝います」


そんな軽口を叩き合っていた、その時だった。

――コンコン。

静かな事務所内に、ドアをノックする音が鋭く響いた。

二人の手がピタリと止まる。


「……誰かしら?」


リシアが不審そうに立ち上がった。

カテリナも顔を上げ、入口のドアを見つめる。

――コンコン。

二度目のノック。今度は先ほどよりも強く、威圧的な響きを伴っていた。

リシアが警戒を孕んだ足取りで扉へ近づく。


「はい。どちら様ですか?」


返事はない。しんと静まり返る通路の気配に、リシアが眉をひそめる。


「……?」


リシアがドアノブへ手を伸ばそうとした、その瞬間、

ガチャリ。

扉が外側から解錠され、勝手に開いた。


「――え?」


そこに立っていたのは、一人の女だった。そして、後ろには四人の男が

全員が無言で、冷ややかな視線を事務所の中へと注いでいる。


「……誰?」


リシアの声が低く鋭くなった。

女は意に介さず、事務所の中へ足を踏み入れる。


「ヴァレンタイン探偵事務所ですね」


「……そうだけど」


「確認できました……」


女は振り返ると、淡々と後続に告げた。


「入って」


ぞろぞろと無機質な足音を立てて、部下たちが室内へとなだれ込んでくる。決して広くはない事務所のスペースが、一瞬にして刺々しい気配で埋め尽くされた。


「ちょ、ちょっと待ってくださあい!」


事態の異常さにカテリナが勢いよく立ち上がる。


「なんなんですか、あなたたち!」


女はカテリナの抗議を無視し、ただその顔をじっと見つめた。


「あなたがカテリナね」


「……そうですけど」


「そして――」


女の冷ややかな視線が、カテリナを庇うように立つリシアへと移る。


「貴方は誰?アルレルナ様からは貴方ののことは知らされてないわ」


女が怪訝そうに尋ねた、まさにその瞬間だった。


「……私?」


リシアは一瞬だけ目を細める。だが、答えるよりも先に、女は冷淡に命じた。


「まあ、人数が違ったってどうでもいいわ。始末して」


「え?」


カテリナが間の抜けた声を漏らすと同時に、四人の男たちが一斉に動いた。懐から引き抜かれたのは黒い拳銃。

――カチャッ。

四つの銃口が、容赦なく二人へと向けられた。


「カテリナちゃん!」


「はいっ!」


リシアはカテリナの腕を強く掴むと、叫んだ。


「伏せて!」


「えっ――」

ドドドドドッ!!


狭い事務所内に、耳をつんざく銃声が炸裂した。


「ひぃぃぃぃぃ!?」


「こっち!」


リシアはカテリナを引っ張り、弾幕を潜り抜けるように近くの机の裏へ飛び込む。


「ミマモリ!」


「ミャッ!?」


床で丸くなっていた小さなペットが驚いて跳ね起きた。リシアは素早く片手で抱きかかえる。


「こっちよ!」


「ミャアア!」


転がり込んだ先は、ヒューゴのデスクの陰。


「ここなら……!」


デスクの裏へ身を滑り込ませたリシアの胸元へ、ミマモリが飛び込む。

直後、厚い天板に激しい衝撃とともに銃弾が突き刺さった。


「ひっ!」


口元を押さえて縮み上がるカテリナに、リシアは潜めた声で言う。


「大丈夫。今は動かないで」


「でも……これ、どうするんですか!?」


「どうするも何も……このままじゃ逃げ場がないわね」


「ですよねぇ……!」


じりじりと近づいてくる足音。

ザッ。ザッ。ザッ。


事務所内に女の冷徹な声が響く。

「確実に始末して」


「了解」


カテリナの顔から一気に血の気が引いていく。


「リシアさん……」


「何?」


「私……まだお給料日前なんですけど……」


「今それ言う!?」


「だって死んだらお給料もらえないじゃないですか!」


「心配するところ、そこなの!?ねえ、そこなの!?」


ドンッ!


デスクの側面に追撃の銃弾が撃ち込まれた。二人は反射的に体を小さく丸める。

逃げ道はない。窓は遠く、入口は塞がれている。このデスクも、いつまで銃弾に耐えられるかわからない。


「……カテリナちゃん、何かない?」


「何かって何ですか!?」


「武器でも、防弾装備でも、非常用の何かでも!」


「そんなのヒューゴさんが持ってるわけ――」


吐き捨てるように言いかけたカテリナは、ハッと息を飲んだ。二人は同時に、目の前にあるヒューゴのデスクを見つめる。

視線が交錯した。


「……ヒューゴさんの机」


カテリナは勢いよく一番上の引き出しを引き引いた。

ガラッ!


「何これ……大量のお菓子」


「却下!」


ガラッ!


「これは……予備のニューロパフ?」


「もっと却下!」


ガラッ!


「……これ何ですか? たぶん領収書?」


「役に立たない! ヒューゴさん……!」


カテリナは涙目になりながら叫びかけた。


「なんでこんな時まで役に立たないんですかぁ!」


その時、下の段を調べていたリシアの手が止まった。


「……待って」


「どうしました?」


「これ……」


引き出しの奥。雑多な書類の裏に、黒い金属製のケースがひっそりと収められていた。


「何ですか、それ?」


「分からないわ」


引っ張り出すと、腕にずしりと重みが伝わる。


「……重い」


「まさか……!」


ケースには厳重なロックがかかっていた。リシアが素早く指先を走らせる。


「いたぞ!」


男の鋭い声がすぐ近くで響いた。二人の背筋に緊張が走る。

ザッ、ザッ、ザッ。

デスクの横から、迫る足音とともに銃口が覗き込んできた。


「見つけ――」


カチッ。

極小の作動音とともに、ケースのロックが外れた。ゆっくりと開く蓋。

中に納められていたのは一丁の一発装填の銃(コンテンダー)だった。

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