ファン
「ところで」
リゼがふと、ヒューゴのほうへ振り向いた。その瞳はどこか緊張混じりに輝いている。
「ヒューゴさん……あの、有名な探偵のヒューゴさんですよね? 街の事件を幾つも解決された……!」
「まあ、一応な」
「やっぱり! 私、ヒューゴさんの解決した事件のニュース、ずっと追ってたんです! 現場での観察力や判断力、本当に凄くて……!」
「お、おう……」
急な熱量にヒューゴがたじろぐ中、リゼはぎゅっとリボルバーを握りしめ、意を決したように言った。
「あの! そんなヒューゴさんに……私に撃ち方を教えていただくことって、できませんか!?」
「俺が?」
「はい! ヒューゴさんの銃の腕前も凄いって聞いてます。憧れの人に教えていただけたら、私、もっと頑張れる気がして……!」
期待に満ちた熱い目で見上げられ、ヒューゴは少し気まずそうに頭を掻いた。
「……まあ、一回だけだぞ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
パッと花が咲いたように笑うリゼ。その様子を見ていたカイゼルが、ニヤニヤと楽しげに口を挟む。
「おやおや、ファンからの頼みじゃ断れないね、先生?」
「うるさい」
ヒューゴは照れくささを誤魔化すように吐き捨てると、リゼの隣へと歩み寄った。
「まず、銃を構えてみろ」
「はいっ!」
リゼが両手でリボルバーを握り直す。しかし、憧れのヒューゴが隣に立ったことで余計に力が入ったのか、全身がカチコチだ。
「……力入りすぎだ」
「えっ、すみません!」
「肩。そんなに張らなくていい」
ヒューゴはリゼの後ろへ回り込み、その構えをチェックする。
「もう少し腕の力を抜け」
「こ、こうですか……?(ヒューゴさんが近い……!)」
「そう。そのまま……」
ヒューゴはリゼの手に自分の手を添え、銃口の向きをわずかに修正した。
「視線は標的から逸らすな。狙うときはサイトや銃そのものを見るんじゃなくて、その『先』に焦点を合わせるんだ。
(リシアに見られたら怒られるな……)」
「はい……!(カッコいい……!)」
「呼吸を整えろ」
「……はい」
ヒューゴがさらにぐっと身体を寄せ、リゼの肩越しに標的を見つめる。
「焦るなよ。引き金を引くその瞬間まで、絶対に銃口をぶれさせるな」
「分かりました!」
手を添えたまま、リゼの腕の位置を微調整していく。
「……ここだ」
銃口が、犯人型ターゲットの胸元中央へと一直線に向いた。完璧な射角だ。
「今までよりずっといい。筋は悪くないぞ」
「ヒューゴさんにそう言っていただけるなんて……!」
「胸を張るのは当ててからにしろ。あとは静かに引き金を引くだけだ」
リゼは嬉しさに頬を緩めつつも、意を決したように瞳を力強く見開いた。
「……撃ちます!」
――パンッ!!
乾いた銃声が訓練場全体に響き渡る。
放たれた弾丸は一直線に飛び――
「…………」
ヒューゴの目が静かに細められた。
犯人型の的に吸い込まれるはずだった弾丸は、またしても物理法則を無視したかのように大きく軌道を外した。
そして――。
カンッ!
犯人型のすぐ隣に配置されていた『人質役の標的』の腕に、寸分の狂いもなく弾丸が撃ち込まれた。
「…………」
静まり返る訓練場。
リゼは恐る恐る後ろを振り返った。
「……どう、でした……? ファンとして、合格点頂けましたか……!?」
ヒューゴはしばらく、的に開いた穴を無言で見つめていた。
そして、呆然とした様子でぽつりと呟く。
「……才能だな」
「えっ!?」
リゼの顔がぱっと明るくなった。
「ほ、本当ですか!? ヒューゴさんに認めてもらえた……!」
「いや」
ヒューゴは死んだような真顔で首を横に振った。
「そっちの才能じゃない」
「……?」
「ここまで手取り足取り教えて人質を打ち抜く才能だよ」
「ええっ!?」
「お前、逆にすごすぎるぞ。どうやったらそうなるんだよ」
後ろで見守っていたカイゼルがついに耐え切れず爆笑した。
「ははははっ! 大好きな探偵さんに教えてもらって人質撃ち抜くとか最高だよリゼさん!」
「笑わないでください! ヒューゴさん、私、私……っ!」
「泣くな! 憧れの目で見られてもフォローのしようがないんだよ!」
助けを求めるように父親へと救いの視線を向けるリゼ。
しかし、アレックスは深く腕を組み、非常に神妙な顔つきで標的を眺めていた。
「……なるほど」
「お父さんまで何か言う気!?」
アレックスは静かに、そして重々しく頷いた。
「やはりお前には……射撃以外の才能が、満ち溢れているのだろう」
「なんのフォローにもなってねぇよ!」
ヒューゴの容赦ないツッコミと、憧れの人に大失態を見せてショックを受けるリゼの叫びが、訓練場に虚しく響き渡るのだった。




