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復讐に行ったら、超能力探偵に出会ってしまった話  作者: 小説書こう


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リゼ

ヒューゴのSHLD本部見学がスタートした。


「まずはどこから行こうか?」


カイゼルが心底楽しそうに尋ねる。


「俺に聞くなよ。俺は一刻も早く帰りたいんだから」


「じゃあ、僕が決めよう!」


「お前に任せると余計なところまで連れていかれそうなんだけど」


「ひどいなぁ、信用がないね」


「ハナからあると思ってたのか?」


「ない!」


「じゃあ聞くなよ!」


二人がギャーギャーと騒ぎながら廊下を歩いていく。その後ろを、所長であるアレックスが悠然とついてきていた。


SHLD本部は、ヒューゴの想像を遥かに超えて広大だった。

清潔感あふれる白を基調とした長い廊下。壁に埋め込まれた巨大なモニターには、各地で発生した犯罪の情報や、危険能力者の指名手配がリアルタイムで目まぐるしく表示されている。

すれ違う職員たちは皆忙しそうに行き交い、端末を片手に矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。


「ここが能力犯罪対策の中央管制室だ」


アレックスが足を止め、説明を添える。


「へぇ……」


ヒューゴも思わず足を止め、強化ガラス越しに内部を覗き込んだ。


「すげぇな……」


「おや、興味が出てきたか?」


「ほんのちょっとだけな」


「よし」


アレックスが満足そうに頷く。


「では次は――」


「いや、待て」


ヒューゴが胡散臭そうな視線で振り返った。


「お前、本当にここを束ねる所長なんだよな?」


「ああ」


「じゃあなんで、さっきまで取調室で暇つぶしなんかしてたんだ?」


「意外と暇なのさ」


「その身も蓋もない理由やめろ!」


思わず怒鳴るヒューゴの横で、カイゼルが腹を抱えて笑う。


「まあまあ、アレックスさんは昔からこういう人だからね」


「昔からなのかよ……」


「そうだぞ〜」


アレックスは咎められた風もなく、至って平然と答えた。


「おかげで部下からもよく怒られる」


「意味が分かんねぇよ……」


頭を抱えたくなるような会話を交わしながら、三人はさらに施設の奥へと進んでいく。

やがて、廊下の先から乾いた高音が鼓膜を震わせた。


パンッ!


ヒューゴが反射的に顔を上げる。


「……いまの、銃声か?」


「そうだ。この先は射撃訓練場になっている」


「射撃場……?」


その響きに、ヒューゴの目がほんの少しだけ輝いた。その一瞬の反応を、カイゼルが見逃すはずもない。


「おや?」


「なんだよ」


「興味津々じゃないか」


「別に」


「目がキラッキラしてるぞ」


「気のせいだっつの」


「リボルバー好きのくせに〜」


「……うるさい」


ヒューゴが不機嫌そうに背を向けると、アレックスが射撃場の重厚なドアへ手をかけた。


「せっかくだ。ここも少し覗いていくといい」


プシューッとエアが抜ける音と共に、重厚な扉が開く。


「撃ちます!」


直後、凛とした少女の声が響き渡った。


訓練場の中央に立っていたのは、一人の少女だった。両手でしっかりと握りしめているのは一丁のリボルバーだ。

少女は真剣そのものの表情で、前方の標的を見つめている。


しかし、その周囲の光景は、およそ射撃訓練とは呼べない異常なものだった。


「……なんだこれ」


ヒューゴの口から呆然とした呟きが漏れる。


少女を取り囲むように、何人ものSHLD職員がズラリと立ち並んでいた。しかも全員が、必死の面持ちで防護盾を展開している。

前方、左右、天井、果ては背後に至るまで完全網羅の鉄壁の陣形だ。


「全方向にシールド張ってんのか……?」


「念のためだ」


アレックスが事もなげに答える。


「念のためってレベルじゃねぇだろ! どんな射撃訓練だ!」


驚くヒューゴの横で、カイゼルがクスクスと笑った。


「まあまあ、見ていれば分かるよ」


少女が大きく深呼吸をする。


「……いきます!」


――パンッ!!


激しい銃声。

発射された弾丸は、人質を抱えた犯人型の的(まと)の中心から盛大に逸れ人質の腕へと命中した。


「…………」


ヒューゴは開いた口が塞がらなかった。


「……なあ。今の、どこ狙ったんだ?」


「"本人は"犯人の的を狙っているみたいだぞ」


アレックスが静かに答える。


「マジかよ」


「いつものことだ」


「日常茶飯事なのかよ!?」


そこへ、ようやく銃を降ろした少女がこちらの存在に気づいた。


「あ……」


そして、アレックスの姿を認識した瞬間、ぱぁっと顔を輝かせる。


「お父さん!」


「やあ、リゼ」


アレックスがひらひらと手を上げた。

少女、リゼ・オーボルトは、リボルバーを安全装置にかけながらこちらへパタパタと駆けてくる。


「見ててくれたの!?」


「ああ」


「どうだった!?」


期待に目を輝かせるリゼに対し、アレックスはあごに手を当て、少し考えてから口を開いた。


「……うむ。前より良かったぞ」


「本当!?」


「ああ」


パッと花が咲いたように嬉しそうな笑みを浮かべるリゼ。

その微笑ましい親子のやり取りの横で、ヒューゴは引きつった顔のまま、ボソリと小声で呟いた。


「エリートだらけのSHLDにこいつどうやって入ったんだ?てか、お父さん?」


ヒューゴはリゼに聞こえないよう、そっとアレックスの隣へ忍び寄った。

そして、ひそひそ声を出す。


「なあ……」


「なんだ?」


「どうやって……その子、SHLDに入ったんだ?」


「…………」


アレックスは一瞬だけ黙り込んだ。

そして、何でもないことのように言い放った。


「コネだ……」


「…………」


ヒューゴの顔が固まる。


「……は?」


「コネで入れた」


「いやいやいやいや!」


ヒューゴは思わずアレックスの胸倉を掴みそうになったが、間一髪で踏みとどまり、リゼに見られないよう必死に怒りを抑え込んだ。


「SHLDってエリート集団なんだろ!? 能力者犯罪の専門機関なんだろ!? なんでコネ入社なんてあんだよ!」


「コネ入社ではない」


「いや今『コネ』ってハッキリ言っただろ!?」


「親の推薦だ」


「それを世間ではコネって言うんだよ!」


アレックスは腕を組み、妙に真剣な顔つきで頷いた。


「ヒューゴくん」


「なんだよ」


「エリートの娘は、エリートであるべきだ」


「…………」


ヒューゴは数秒間、哀れむような目でアレックスの顔を見つめた。


「何その謎の理屈」


「素晴らしい理屈だろう?」


「どこがだよ!」


「血筋というものは大切だからな」


「いや、SHLDってそういう血統主義の組織じゃないだろ!」


「安心しろ」


アレックスは堂々と胸を張った。


「リゼには才能がある」


「……射撃の?」


「……それ以外の」


「お前、いま盛大に間があったぞ」


アレックスは「コホン」とわざとらしく咳払いを一つした。


「まあ……努力はしている」


「努力で誤魔化したな」


コソコソと繰り広げられる二人の泥沼のやり取りを見かねて、カイゼルが横から楽しそうに口を挟んだ。


「まあまあ。リゼはちゃんと正規の試験も受けてるよ」


「……え?」


ヒューゴが振り返る。


「筆記試験は満点だったからね」


「マジで?」


「マジだ」


アレックスも誇らしげに深く頷く。


「戦術論、能力者対策法、法医学、装備知識――座学において、彼女は非常に優秀だ」


「じゃあ普通にエリートじゃねぇか!」


「だから言っただろう」


アレックスは満足げに胸を張った。


「エリートの娘は、エリートであるべきだと」


「結局そこに戻るのかよ!」


二人の不審なやり取りに気づいたのか、リゼは不思議そうに後ろ手を組み、こてんと首を傾げた。


「お父さん? 何のお話をしてるの?」


「なんでもない!」


ヒューゴが即座に被せる。


「お前の父親が、ただの重度の親バカだって話だ」


「ヒューゴ!?」


「なんで本人が一番驚いてんだよ!」


「親バカではない。娘の能力を正当に評価しているだけだ」

「はいはい」


「本当だぞ」


「はいはい、分かった分かった」


「本当に」


「分かったって言ってるだろ!」


むすっと不満そうにヒューゴを睨みつけるアレックスと、適当にあしらうヒューゴ。

その横で、リゼは訳が分からないといった様子で、首を傾げながら二人を見つめ続けていたのだった。





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