第31話 始まる期末テスト、終わりの打ち上げ
あれから冬月さんと少しだけ「共通の話題」で盛り上がった翌日。 いつも通りお母さんに学校まで送ってもらい、教室に入ると、隣の席にはすでに冬月さんが座っていた。
「お、おはよう……水瀬くん」 「おはよう、冬月さん」
昨日の今日ということもあり、少しだけ気恥ずかしさが混じった挨拶を交わす。 そんな二人を急かすように予鈴が鳴り、三日間にわたる期末テストが幕を開けた。
そして三日後。 最後の科目の終了を告げるチャイムが鳴り響くと、教室の空気は一気に解放感に包まれた。
「終わったーー! 解放だ!」 山田が伸びをしながら優の席へやってきた。 「どうだった、水瀬?」 「うーん……まあ、いつも通り、普通かな」
そんな会話をしていると、後ろから村岡がひょいと顔を出した。
「そういや水瀬、骨折治ったんだな。足、すっきりしてるじゃん」
実は昨日の放課後、病院で検査を受けたところ
「もう完治している」
と診断され、ようやくあの重いギプスが外れたのだ。
「うん、なんとか。やっと普通に歩けるようになったよ」
松葉杖のない優の姿を見て、最川さんがパッと表情を明るくした。
「テストも終わったし、みんなで打ち上げしない? 水瀬くんの全快祝いも兼ねてさ!」
「いいねそれ! 賛成!」
山田が即座に乗っかると、村岡が申し訳なさそうに手を合わせた。
「わりぃ、俺も行きたいんだけど、今日から部活動が再開なんだよ。テスト休み明けで外せないんだ」
「そっか、残念。じゃあ村岡の分まで楽しんでくるね」
最川さんはニコニコしながら優を振り返った。 「水瀬くんも、もちろん来るでしょ?」 「あ、うん。俺も行くよ」
優が頷くのを見て、最川さんは冬月さんにも声をかけた。
「冬月さんも、打ち上げ来るよね?」 「……うん。みんなが行くなら、私も行こうかな」
冬月さんは少し控えめに、でもどこか嬉しそうに頷いた。
「あ、それなら私、さやちゃんも誘ってみるね!」
最川さんが冬月さんの親友、青山さやを呼びに席を立った。 テスト明けの放課後。松葉杖から解放された優の足取りは、いつになく軽かった。
打ち上げは近くのファミレスに行くことになった。 冷たいドリンクが入ったグラスを合わせ、山田の元気な声が響く。
「テスト終了と、水瀬の全快を祝して……乾杯〜!」 「「「乾杯!!」」」
カラン、と氷が鳴る音が心地いい。 しばらくテストの手応えや世間話で盛り上がっていると、山田が身を乗り出して問いかけた。
「そういやみんな、もうすぐ夏休み始まるけどさ、何するか決めてんの?」
「そうだね〜。これと言ったことは決まってないけど、やっぱり海とか行きたいよね!」 最川さんが楽しそうに答え、視線をこちらに向けた。
「水瀬くんは? どこか行く予定ある?」
「……うーん、特にはないかな。家でゆっくりしてると思うし」
「冬月さんは?」
「私も……特に、予定は入ってないかな」
二人の控えめな返答を聞いて、最川さんがニヤリと笑った。
「そういう山田は、なんかあるの? 」 「いや……特には……」
ありそうでない感じで山田が言葉を濁す。推しの予定をチェックしている最中なのだろう。
そんな時、山田がふと思い出したように自分のスマホを取り出した。
「あ、そういや水瀬とまだ連絡先交換してなかったよな。せっかくだから今、交換しようぜ」
「あ、うん。いいよ」
優が少し照れながらスマホを取り出すと、隣で見ていた最川さんが少し顔を赤くして言った。
「じゃあ……私も交換したいな」
「おっ、いいぜいいぜ! グループも作っちゃおうか」
山田がテキパキと準備を進める中、山田は隣に座る冬月さんにも声をかけた。
「冬月さんも、せっかくだから交換すれば?」
冬月さんは一瞬、驚いたように肩を揺らした。けれど、すぐに優の方をじっと見て、小さく、でもはっきりと答えた。
「……じゃあ、お願いします」
画面に表示された二次元コードを読み取り、優のスマホに次々と「友だち追加」の通知が届く。 その中に『冬月一星』という名前を見つけた瞬間、優の胸は高鳴った。
今まで女子とましてや友達と連絡先を交換するなんて、自分には縁のないことだと思っていた。 それが今、現実になっている。 スマホを握りしめる手に、自然と力がこもる。
「これで夏休みの予定、何か決まったらすぐ連絡できるな!」 山田が笑いながら言うと、優は照れ隠しにドリンクを一口飲んだ。 初めて手に入れた「友達」との繋がり。 窓の外に広がる夕焼け空が、いつもよりずっと輝いて見えた。




