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第32話 始まる夏休み

テストが終わり、待ちに待った夏休みが始まった。 といっても、インキャな俺の過ごし方は決まっている。家で「あいりん」の配信アーカイブを観るか、ベッドでゴロゴロするかの二択だ。

そんな時、スマホに一通の通知が届いた。お気に入りのラノベの新刊発売のお知らせ

だった。


「そういや、今日が発売日だったな……」


重い腰を上げ、適当な服に着替えて準備をする。 テレビの天気予報では「午後は天気の急変に注意」と言っていた。窓の外はまだ晴れているが、念のためカバンに折りたたみ傘を放り込み、駅前の本屋へと向かった。

本屋に着き、目当ての新刊を探して棚を眺めていると、すぐ近くに思いがけない人物の姿があった。


「……ふ、冬月さん?」 「……その声、水瀬くん?」


声をかけると、驚いたように振り返った冬月さんは、学校の制服姿とは違う、女の子らしい私服に身を包んでいた。


「冬月さんも、本を買いに来たの?」 「あ……うん。ちょっと、欲しいのがあって」


連絡先を交換したとはいえ、学校の外で会うのは初めてだ。どう会話を繋げていいか分からず、妙な沈黙が流れる。


「そっか……」 「あ……私、買いたい本があるから。……じゃあ、また」 「あ、うん。そうだよね。……またね」


冬月さんは少し急ぐように、棚の奥へと立ち去っていった。 (なんか、気まずかったな……。俺、変なこと言ったかな) そんな不安を抱えながら、自分も目当てのラノベを手に取ってレジへと向かった。

会計を済ませて外に出ると、空は一変していた。 バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨が、アスファルトを激しく叩いている。


「……うわ、これはやばいな」


折りたたみ傘は持ってきているが、流石にこの雨の中で差して帰れば、家に着く頃にはずぶ濡れになるだろう。 どこか雨宿りできる場所はないかと周りを見渡すと、軒下で困ったように空を見上げている冬月さんがいた。


「あ……水瀬くん。やっぱり、雨が止むのを待ってるの?」 「あ、うん。この雨じゃ、流石に帰れないからね」


二人で並んで雨を見つめる。会話はなかなか弾まない。 沈黙に耐えかねて、優はスマホで天気予報を確認した。雨雲レーダーには、この後もしばらく真っ赤な雲が居座っている。


「……あと二時間くらいは、雨止まないみたいだよ」


優がそう告げると、冬月さんは「二時間も……」と肩を落として呟いた。 このままここで二時間、気まずい沈黙を続けるのは流石にきつい。

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