第16話 友達
第16話です
あれから、冬月さんは保健室へと運ばれていった。 優は一人残り、担任の先生に森の中で何が起きたのかを詳しく説明した。
先生の話によれば、他の班はどこも10分程度でゴールに辿り着いていたらしい。しかし、優と冬月さんのペアだけは30分、40分と経っても姿を見せない。異変に気づいたリーダーの山田が、真っ先に探しに出てくれたのだという。
混乱の元凶となったあの看板についても、理由が判明した。 どうやらあの立て看板は2年前の肝試しで使われた古いもので、本来はその上に『右』と書かれた紙が貼り直されていたらしい。それが折悪く強風で吹き飛ばされ、古い『左』の文字が剥き出しになっていたのだ。
(……そんな不運が重なるなんてな)
優はやりきれない思いで溜息をついたが、同時に自分たちを必死に探してくれた仲間の存在に胸が熱くなった。
「あ、それとな。村岡も必死になって探してくれたんだ。後でちゃんとお礼を言っておけよ」
先生はそう付け加えると、心底ほっとしたような声で続けた。
「何にせよ、大きな事故に巻き込まれてなくて本当に良かった。……水瀬、お前もよく冬月を連れ戻してくれたな。疲れただろう、部屋で休めよ」
先生への報告を終え、優は重い足取りで自分の部屋のドアを開けた。 中では山田と村岡が所在なさげに座り込んでいたが、優の姿を見た瞬間に顔を上げた。
「……おう。戻ったか」
山田が椅子から立ち上がり、短く声をかけてきた。その表情には、自分たちが探し回っても見つからなかったクラスメイトが、ようやく無事に戻ってきたことへの安堵が見えた。
「水瀬! マジで心配したんだからな!」
続いて村岡が、焦ったような表情で詰め寄ってきた。
「おい、一体何があったんだよ? 山田と二人で入り口付近を必死に探し回ったけど、影も形も見つからねーし……。お前らが全然戻ってこないから、マジで遭難したかと思って本気でヒヤヒヤしたぞ!」
村岡の袖には、茂みをかき分けた時に付いたのか、枯れ葉の破片がいくつも残っていた。それを見ただけで、二人がどれだけ必死に自分たちを探してくれたかが伝わってくる。
「……ごめん。実は、途中の看板が紛らわしくて、全然違う道に入り込んじゃったんだ」 優が静かに事情を話し始めると、二人は食い入るように耳を傾けた。
「……そんなことがあったのか。不運だったな。何にせよ、二人とも無事でよかった」
山田はそう言って、少しだけ表情を和らげた。
「それより、冬月さんはどうなんだ? 担架で運ばれてったって聞いたけど……」 村岡が少し声を潜めて尋ねてくる。 「……足の捻挫だってさ。今は保健の先生が診てくれてるよ」
優はそう答えながら、脳裏に焼き付いた彼女の「笑顔」と、あの耳に残る「星夏愛」の声の残響を思い出していた。




