第7話 見学と情報交換です
馬車が行き交う街。
人の往来も激しい。
だが深愛にとっては――まるでタイムスリップしたかのような景色でしかない。
石畳の道。石造りの家々。
人の来ている服や、街並みはまるで――「中世」と呼ばれた欧州の世界のようだ。
「どうですか……ミア様」
「どうと言われても……」
アルバートに問われても、言葉では表しようがない。
「ミアの住んでいた世界は……驚くぐらい文化が進んでいたからなぁ。
「車」ってもんが走り回っていたし、自転車は便利だと俺も思ったよ。
まぁ……これがこの世界でも一番開けた街なんだがなぁ」
デュー――現在は「人間」使用になっているので、見た目は街を歩く人となんら変わりはない。
目立つのは身長がやけに高いぐらいか。「もふもふ」命の深愛には、それがとっても不服なのだが――。
そんなデューも、深愛を迎えに来たときは、今の姿でアルバートと一緒にいた――と深愛は思い出す。 あれからひと月も経過しているのだ。
「時折この街で、必要な買い物もいたします。
そう言う意味では重宝する場所と言えますね」
これはミタリーの話。
ミタリーも普段の侍女服から、街に溶け込むような――本当に何の違和感もなく、目立つこともなく。 街の人たちと同じような衣装に身を包んでいる。
まったく「普通」にいつもそこにいるような容姿と姿をして。
どうしてここまで「特徴」というものが皆無になれるのだろうか――ミタリーは。
これはこれですごいと思う。と深愛は感じていた。
「大した案内は出来ないが……どうせ来たんだったら、お茶でもしていくか? 」
「そうだな。頼むデュー。
ミア様。私は少し用事がありますので、デューとミタリーについて、街の様子などを見学していてください。
私もその用事が終わり次第合流いたしますので……」
「そう……わかったわ」
「……では」
呆然とする深愛を残し、アルバートは慣れた様子で人ごみの中へと消えていく。
「……じゃ、俺たちも行くか? 」
「そうでございますね、ミア様」
「……うん」
デューとミタリーに誘われ、深愛も何が何だかわからないまま――従うしかなかった。
◆◆◆
アルバートは――通りから狭い路地裏に入り、その奥にある――忘れ去られたようにある一軒の雑貨屋へと入っていく。
「いら……これはこれは、アルバート様。珍しいこともあるものだ」
アルバートの姿を見た店主――白髪交じりの愛想の良い男は、驚いた様子で彼を迎えた。
「今日は……お一人で? 」
「いいや。「ソフィア」様と一緒だ」
「あぁ、「にゃ王」様ですね」
「……今度その言葉を口にしたら……叩き切るぞ、テス」
冷淡な笑みを浮かべ――アルバートは男――テスを見つめた。
「これは恐ろしい。あなたの「アイディール様」命は相変わらずですね」
「余計なことはいい。それより、この「ハイドランジア」の様子はどうだ? 」
テスの無駄口を一蹴し、アルバートは欲しい情報の提供をテスに求める。
「まぁ……一時期のお祭り騒ぎは止みましたがね。
「魔族」の驚異を退けたと……まぁ、冒険者ギルドのお偉いさんが、勇者ラルフを祭り上げてましたから。
今や勇者様とその仲間たちは「英雄」扱いですよ。
この国の至るところで、その話で持ちきりでしたから」
「……冒険者ギルドが。か? 」
アルバートは怪訝な表情でテスの言葉を聞いていた。
「ええ。私も最初は不思議に思ったんですが……調べてみると、面白いことがわかりましてね……」
「早くそれを話せ……」
アルバートはテスに先を急がせる。
テスは苦笑いを崩せず――嘆息した。
「それは……」
テスはアルバートに語り始めた。
◆◆◆
「うん。ここのケーキも美味しい。
ミタリーの作ってくれたケーキの方が美味しいけど」
「嬉しゅうございます、ミア様」
通りに面したオープンカフェで、深愛はデューとミタリーの三人で紅茶と評判のケーキを堪能していた。
「ここのアップルパイもとても美味しゅうございますよ」
「本当に!? 」
瞳を輝かせる深愛に、ミタリーは「では注文いたしましょう」と、店員を呼びに立ち上がりかける。
「……太るぞ」
デューが呟くと、ミタリーはその顔に一発――拳を叩き込んだ。
「余計なことは良いのです、デュー。黙っていなさい」
ミタリーは鼻血を抑える手のひらの間から、ポタポタと血が流すデューに――そんな言葉を吐き捨てた。
呆然としている深愛に、「少々お待ちください」と笑顔でテーブルを立つミタリー。
「大丈夫……? 」
「……じゃ、ねぇ…な」
鼻血の止まらないデューに、深愛は自分のハンカチを差し出した。
「汚れちまうだろう……いいよ」
「そんなことはいいわ。
構わないから、お使いなさいな」
深愛の笑顔に「悪いな」と言い。ハンカチを受け取ったデューは、顔を上に上げ、鼻をハンカチで抑えた。
「でも……ミタリーは大人しいようで、結構凶暴なのね」
「……あいつはなぁ。人の姿の時は全然目立たねぇくせに、こんな時だけは異様な程強いからなぁ……」
デューが止まらない鼻血に苦労しながら、深愛の言葉に答えた。
やっぱりミタリーが一番強いのかもしれない。
深愛はミタリーの評価を改める必要があるかもしれない――と思った。




