第6話 私はこの男に騙されました
ミタリーとの話は終わった。
茶器を片付け――部屋を出て行ったミタリーを見送り。
改めて部屋に一人になって、深愛は深いため息をついた。
そんな複雑な理由があったというのか――。
ただ人が、獣のような容姿や、不可思議な能力を使う「アイコーン」一族を一方的に嫌い――「アイコーン」一族はそんな人を嫌って、距離を置いているだけかと考えていたのだ。
そして「アイコーン」一族を「魔族」と呼び、人は何か悪いことが起こると、すぐに「魔族」のせいだと決め付けているのだと。
自分はただそんな思いだけで、あの勇者たちとあんな話を決めてしまったのだ。
それでは「アイコーン」一族の中には、納得のいかない者たちもいるはずだろう。
そんなことも知らずにいる深愛を――快く思えるはずもない。
酷く落ち込む。
深愛はこの「アイコーン」の国――アッシュツリー国のことすらよく知らないのに。
そんな自分がどうして「女王」などと呼ばれるのだろう。
どうして自分は――こんなところにいるのだろう――。
◆◆◆
扉がノックされる。
「は、はい? 」
「ミア様。アルバートです……よろしいですか? 」
「あ、どうぞ……」
こんなタイミングで――と思ったが、拒絶するのも憚られ、結局いつものように応じてしまう。
「失礼いたします……ミア様、明日……どうされました? 」
瞳が潤んでいた。
拭ったつもりでいたが、まだ紅い頬と潤んだ目でバレてしまった。
よりにもよって一番知られたくない相手に――だ。
しかも、こういう相手に限って、何故か敏感だったりする。
「な……なんでもありません」
「なんでも……というお顔をされていませんよ?
ミタリーが何か言ったのですか? 」
「違います。ミタリーは本当のよくしてくれています……ただ」
「ただ? 」
どうしてだろう? アルバートの声は酷く――優しいのは。
自分が泣いているせいなのだろうが――。
「家に帰りたい……と」
確かにそう考えていた。
でも、苦し紛れについた「嘘」でもある。
不甲斐ない自分に呆れていた――せいでもあるのに。
いつもように、アルバートの声が――聞こえてこない。
こんな時、いつもなら嫌味のひとつでも吐き出しそうなのに――。
そう考えて顔を上げた深愛の目に飛び込んだのは――悲しそうな表情のアルバートだった。
「アルバート? 」
「お帰りに……なりたいですか? 」
何故? どうしてそんな切ない顔をするの?
どうしてそんな――辛そうな顔をしているの?
深愛が驚いていると、アルバートが再び問うた。
「ここが……お辛いですか。ミア様……」
深愛にとっては辛い場所だ。
すぐにでも帰りたい。アルバートに言われた責任は果たしたのだ。
もう、自分の役目は終わった――はずなのに。
どうして――「帰りたい」の一言が、口から出ないのだろう?
「……帰りたい……ですが……」
「が? 」
ようやく望みの言葉が口を付いて出た。
なのに――。
深愛の次の言葉を待つアルバートの顔は――何かを「祈る」ように――深愛に「縋る」ように見つめている。
「まだ……責任を果たしておりませんから……」
「ミア様……よくぞ言われました」
にっこりと笑うアルバートの顔は――まったくいつもの――ムカつく清々しさをたたえている。
しまった!!
と思っても――もう遅い。
「ミア様。明日はあの勇者たちの国へと参りましょう。
時には人の国を見学するのも良い勉強になりますので。
そのことを伝えに参ったのですが……このようなミア様のお言葉を聞けるとは思いもよりませんでした」
にこにこにこ。
腹立つ。無性に腹が立つ。
どうして私はあのような言葉を吐いてしまったのだろう?
別の意味で――深愛は深く悩んでいた。
「明日はよろしくお願いいたします、ミア様」
「ええ……よくってよ」
ネガティブなのに――どうして私は。こう――強情なのだろう。
深愛は大きく、ため息を吐き出したのだった。




