第8話 ここはちょっと危険な香りがします
「「冒険者ギルド」が……あのラルフとかいうやつを、新たな戦いに放り込もうとしているだと? 」
アルバートが声をあげた。
閑散としている路地裏に、アルバートの声だけが響く。
「……今や「冒険者ギルド」の目当ては金儲けに移ってますからね。
それまでは「アイコーン」族への恨みがあったんでしょうが。
「魔族」と呼び、私たちを獲物として数多くの「冒険者」たちという愚か者たちを私たちに挑ませた。
時には軍をひとつ使ったりしてね。
「魔物」たちには普通の武器は効かないと、色んな武器を売り込んで。
そうしてあいつらは金を儲けることに味をしめちまった。
ところが、「魔族」の女王様が人との共存を宣言しちまったもんだから、あいつらも焦ったでしょう。だが人々はそれを手放しで喜び、受け入れた。
そんなおめでたい連中ばかりでもないが……それを成し遂げた勇者ラルフ一行を「英雄」と崇め、あいつらはもう一方で、そのラルフ様の名声を使って……新たな金蔓として使うことを思いついた。
それが人間同士の「戦争」というやつですよ。
元々こういうことも考えていたんでしょう。
今は「ヴァイン国」と隣国である「ウォールナット国」の仲が悪い。
その裏には「ヴァイン国」を操っている「冒険者ギルド」の存在がある。
ラルフ一行の中にも、この「ヴァイン国」の王子である「ジョージ」も含まれていますし。おそらくは「冒険者ギルド」は近々何かをやらかすでしょうね。
「勇者様」たちを使って……と私は見ているんですがね」
テスの話を――アルバートはただ――黙って聞いていた。
「……どこまでも愚かな連中だ」
「「アイコーン」一族の末裔かもしれませんが、今や人となんら変わりませんよ。
だから「ソフィア」様に「アルコーン(邪悪な者たち)」の烙印を押されて、人の世界に堕とされちまったんだ。
それを今だに根に持っているんだから、たちが悪いが……あいつらには私らのような力はもうありはしません」
「……悪知恵だけがついた……と」
「上手いですね、アルバート様。その通りです」
商売上の愛想笑いを崩すことなく、テスはアルバートに頷いてみせた。
「わかった……「冒険者ギルド」の動きをもう少し探ってくれ。
これは「ソフィア」様にも関わってくる話だ」
「承知いたしました。アルバート様も、くれぐれもお気を付けを。
「アッシュツリー」も、安全なところとは言えないのでしょうから……」
最後はテスの心配なのか――嫌味なのか。
だがそれ以上アルバートは絡むことなく「大丈夫だ」とだけ答え――雑貨屋を後にした。
◆◆◆
デューの鼻血がようやく止まった頃。
運ばれてきた特大のアップルパイを、深愛とミタリーがペロリとたいらげていた。
「俺、あんまり食ってねぇぞ……」
「お土産に買ってかえればいいじゃない」
「そうだけどよぉ……」
鼻血の止まったデューは不服そうだ。
「私が作ってあげますわ」
「……それならもらう」
ミタリー言葉に、デューは素直に納得した。
「何げに……ふたりは仲が良いのね」
ミタリーとデューの会話を聞いていた深愛がそんな話をする。
「やめてくれよぉ。顔面に一発食らわせる侍女なんてとんでもねぇ……」
「どうせならもう一発食らわせましょうか? 」
必死に首を左右に振るデューに、ミタリーは隣の席で余裕で紅茶を啜っている。
そんなふたりのギャップに、深愛は思わず笑い出してしまう。
「……たく、よぉ」
デューが嘆息した。
「何やっているんだ……まだここにいたのか? 」
オープンテラスにいた三人に、戻ってきたアルバートが声をかけた。
「おう……お帰り。
ちょっとした不測の事態でな。動けなかったんだ……俺が」
「……は? 」
迎えたデューから出た言葉に――アルバートが怪訝な顔をしていた。
◆◆◆
せっかく来たのだからと、アルバートを加えた四人で街を見学することになった。
深愛の興味を惹いたのは――市場。
日本にはこのような場所はない。
お祭りの露天に似ているのだが、扱っている品物は全然違う。
果物、肉、野菜などの食品だけではない。
様々な生活雑貨も売られている。
中には「何に使うのだ?」という品物も少なくない。
それらは原色の派手な色合いを競うように並べられ――深愛の目をクギ付けにしていた。
「楽しいですか? 」
「うん、楽しい。
こんな場所は初めてだもの……」
瞳を輝かせて答える深愛を――嬉しそうに見つめるアルバート。
「よくわからんねぇ……こんな場所が楽しいか?
必要な買い物には欠かせないが……」
デューは人の多さに辟易しながら、面倒くさそうに呟いた。
「あなたは少し黙っていなさい。
ミア様の気分転換になればそれで良いのです」
「……まぁ、それはそうだ」
お供である二人には――それが一番の役目と言える。
何事も単純明快なデューは、ミタリーの嫌味ではあったが――それで納得していた。
◆◆◆
ふぅとため息をつく。
興奮して市場を見回っていたが、深愛もなれない場所に――少し疲れを感じていた。
「何か飲み物でも買ってまいりましょうか? 」
間髪入れず、アルバートが深愛に申し出た。
「うん……少し喉が渇いたから……嬉しいわ」
「ではそうしましょう……」
この時。
デューとミタリーは少し離れた場所で、ケーキを作るための材料を見ていた。
アルバートはそんな二人を呼び戻し、飲み物を買ってくるため、深愛を頼むことを伝えようと――離れた瞬間だった。
花屋の露天の傍に立っていた深愛と離れたアルバートの間に――数人の男たちが通りかかる。
あっと言う間に――深愛の視界は男たちの体で仕切られ――アルバートの姿が見えなくなってしまった。
「……アル……」
深愛がアルバートの傍に行こうと足を踏み出すと。
不意に右腕を掴まれ――気がつくと喉元には――短いナイフが突きつけられていた。
「悪いことは言わない。俺たちと来な……。
騒ぐなよ。ここで怪我したくなかったらな」
耳元で囁かれる――低い男の声。
深愛の顔から血の気が引いた――。
「ミア様……? 」
アルバートがデューとミタリーを連れて戻ってくると。
花屋の店の傍にいたはずの深愛の姿が――ない。
「ミア様っ!? 」
ミタリーも辺りに声をかけるが――人が多すぎてその声もほとんど届かない。
「……アルバート……これは……」
デューの声が――緊迫している。
アルバートはデューに答えることなく――深愛の居なくなった花屋の店先をじっと見つめていた。
「……ミア様……」




