第19話 もふもふ、かきかき、もふもふ♥
「はぁぁぁ……もふもふぅ……」
完全に深愛の精神はイっていた。
昨日クレアは深愛に約束した通り、クレインとホリーを深愛の部屋に連れてきては、三人それぞれの[アイコーン]としての姿に変身していた。
クレアは首周りだけ首輪のように黒い毛が覆っているが、ほぼ全身が白い色の大きな犬。
クレインは藍色の輝きの羽を持つ、黒い鸚鵡。
ホリーは赤茶色の柔らかい毛並みの狐。
まずはクレアの毛並みのチェックから入る。
『くすぐったいよ、ミア……』
「ふわっ、ふわぁぁ……」
クレアの愚痴など聞き耳などない。頬で白い毛並みをすりすりしている。
深愛は自分の世界に浸りきっている。
そして右手ではホリーの背中をなでなでし、左手でクレインの右耳辺りをさわさわと撫でていた。
「はぁぁぁぁ。しゃーわせぇぇ」
「ぷっきゅー……」
クレインが気持ちよさそうに、全身の羽をふわりと丸め、まるで空気が抜けるような音の声で鳴いている。
『……クレインがただの鸚鵡になっている……』
ホリーが呆れたように呟いた。
『ばっか野郎。深愛のかきかきがガチで気持ちいいんだよぉ……』
本当に気持ちいいのだろう。
ますます熱心に耳の傍をかきかきしてくれる深愛の指の動きに、クレインはトローンと目を細めている。
でも面白くないのは……ミタリーだ。
白猫の姿で、ソファでお座りの姿勢で待っている。
『ミア……ミタリーが見ているよ』
クレアに言われて、深愛がようやくソファに座るミタリーに目を向けた。
「ごめんね、ミタリー」
『寂しかったです。切なかったです……ミア様ぁ』
「今からミタリーで[もふもふ]三昧だぁぁっ!!」
『はいです!!』
深愛はミタリーの美しい毛並みへ、顔を突っ込んだ。
『……何なんだろね……これは』
『ミアは本当に[もふもふ]が好きなんだねぇ』
クレアとホリーはミタリーの毛に顔を突っ込んで、スリスリしている深愛の姿に驚いている。
『ミア様。俺の[かきかき]もしてください……』
「そうだった!!ごめんね、クレイン」
深愛は慌ててクレインの[かきかき]も再開したのだった。
『……クレインってこんなバカなやつだったの?』
白い犬が、気持ちよさそうにしている黒い鸚鵡に唖然としていた。
『自分から催促しているよ……本当にバカじゃん、クレイン……』
赤茶色の狐が、はぁと嘆息している。
二匹は目の前の光景を、ただただ呆れ返っていた。
「……ミア様」
アルバートが深愛の部屋へと入ってくる。
が。威力を増した深愛の[もふもふ]&[かきかき]に……言葉を失っていた。
ようは、ミタリーの他にクレア、ホリー、クレインの変身した姿に我を失って、一心不乱に[もふもふ]としている姿――が目に飛び込んだのだ。
そして右手で顔を覆う。
深愛はそんなアルバートの苦悩した姿など知るよしもない。
ただ、自分の世界にイったっきりで、戻る様子もないのだ。
つい先日。短期間で立派に成長した深愛の姿を見て心底喜んだというのに。
すべては幻だったのかと思えてしまうほど。目の前の深愛はあまりに[情けない]。
それが深愛のいいところでもあり、個人の趣味なのだろうが……。
さすがはデューさえも蹴り倒し、腹毛をもふもふするだけの強者とも言える。
「ミア様。そろそろ講義の時間ですが……」
仕方なくアルバートが深愛に言った。
これで聞くともとても思えないのだが……と、アルバートが考えていた、その時。
ソファに座っていた深愛が、すくりと立ち上がった。
「……わかったわ。
ミタリー。クレイン。もう少し待ってね。
講義が終わったら、また[もふもふ]と[かきかき]をしてあがるから」
ミタリーはあれほど熱心だった[もふもふ]を中断し、アルバートの声に応えた。
「……ミア様」
「講義をやるのでしょう?
その後に[もふもふ]はとっとくから……」
『では私もお供いたします、ミア様』
『あ、俺も。この姿でお待ちしてますから……』
ミタリーとクレインは、白猫と黒い鸚鵡の姿のまま立ち上がった深愛に従った。
すでに元の姿に戻っていたクレアとホリーは、ミタリーは[プレーローマ(守護者)]という役割から、白猫の姿で傍にいるのもわかるとしても。
クレインの黒い鸚鵡の姿は、どう言う意味があるのかが不明だった。
「じゃ、行きましょうか」
ミタリーを抱き上げ、クレインを右肩に乗せると、深愛はアルバートに笑顔で促した。
「……そのままで行くおつもりですか?」
「そうだけど……何か?」
どれだけ動物好きの女王様なんだか……。
そう呆れる前に、アルバートには許せないことがひとつ――あった。
「変身を解け、クレイン。お前のその姿は意味がないっ」
『そんなぁ……』
アルバートに睨まれ。
クレインは渋々本来の姿に戻った。
「なんだ……残念。でも後でね」
「はい。お待ちしてますから……」
笑顔で深愛に答えるクレインに、アルバートの鋭い眼光が突き刺さる。
「……いい加減にしろ」
「はぁーい」
身の危険を感じて、クレインは深愛から一歩下がって返事をした。
「では、参りましょう、ミア様」
「そうね」
深愛はアルバートとクレインの微妙なせめぎ合いを知ることなく、アルバートに従い、勉強部屋へと向かった。
◆◆◆
デューの姿はハイドランジア国から南にある小国[ヴァイン]国にあった。
この国はラルフと一緒に旅を共にしたジョージの故郷でもある。
彼はこの国の第三王子でもあった。
「……まったくの田舎だねぇ」
ハイドランジアから比べれば、ヴァインは目立った産業があるわけでなく。
野山が広がるのどかな国でもあった。
そこが今。少々きな臭い話になってきているという情報をテスから聞き、デューはこの国までやってきたのだ。
「……この小さな国が、今、戦争をおっぱじめようとしているわけか」
デューはにやりと笑うと、ヴェインの王都フライスの街中へと足を向けた。




