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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第九十八話 反撃開始

(あ……死んだ)


リヴァイアサンの大砲撃を前に勝負を諦めたシエル。迫り来る閃光を前に、瞳を閉じて命を放棄した。

だが彼女に攻撃が届くことはなかった。周囲に光が瞬く。すると少しだけ砲撃の速度が遅くなった。その間に何かがシエルを抱え、砲撃の軌道上から離脱する。


「ほえ?」


呆気に取られながら自分を抱えている者の姿を見る。それは白装束に身を包んだ天使だった。アリシアが《至高七天(セブンスヘブン)》で召喚した天使の一体だ。

天使はシエルを自身の能力で治療している。すぐにシエルの負傷は回復した。


「あっぶなぁ、助かった……ありがとね、天使さん」


シエルは上体を起こして天使から離れ、状況を再確認する。

この天使はおそらくアリシアが皇都にリオを連れて行かせた天使だ。皇都に行ったついでにリヴァイアサンの封印についても皇都の者たちに話したそうだが、今ここにいるという事は、要件は済んだようだ。

それはつまり、


「「「「───《真髄解放》!」」」」


ここから百メートルほど離れた地点から莫大な魔力が解き放たれた。

魔力源は一つではない。数十人分はある。そしてソレらはこちらに急接近している。


「遅れてすまない!我々も貴方たちの戦いに加勢する!」


「絶対に奴をリフレイムに近づけるな!なんとしても守り抜け!」


「我らはリフレイムの誇る聖装士!リフレイムの危機に異国の戦士ばかりに命を張らせてなるものか!」


現れたのは数十人の聖裝士。全員が《真髄解放》を使っている。フィーネが集めたリフレイム皇国でも選りすぐりの聖裝士たちだ。


「助勢が来たか……いいね。ちょっとはマシになった」


シエルと天使は共にリフレイムの聖装士たちの前に立つ。


「私はシエル・グレイシア。アリシア・エルデカとアラン・アートノルトの仲間だよ。そっちがどういう状況か聞いていい?」


「増援はこの場にいる聖装士となります。そして後方支援も整っています。全体的な能力上昇と回復、さらに魔力補給。戦い続けるだけの備えはあります」


「リヴァイアサンの封印は?」


「現在、封印魔法について詳しい皇都の者たちを集め、全速力で準備を進めています。進展があり次第、連絡が来る手筈です。その時は我々がお伝えします」


「おっけー。んじゃまず天使さんは皆のサポート。見たところ回復とかバフが得意みたいだしね。皆は全力で攻撃しまくって!皆の命は私たちが守ってあげるから!」



***



「《刃則(ジンソク)術式四型・破断豪裂界嵐ハダンゴウレツカイラン》!」


「Lua.”*+1jmk*}.x,.pa!!」


拡散する無数かつ超高速の斬撃。それを魔鎧騎士(フォカロル)は正確に弾き返す。だが大剣を振り抜いた瞬間、一瞬の体を硬直を突いてアランが前に出る。

懐に潜り込み、腹を切り上げた。鎧が砕け、内側から血液に似た奇妙な液体が離散する。

魔鎧騎士(フォカロル)は苦悶の声を上げるが、この程度で止まるような怪物ではない。大剣をアランに振り下ろす。アランは寸前で身を捻って大剣を回避した。

大剣が直撃した海は衝撃でさらに荒れ、射線上にある海水が全て消し飛ぶ。さらに海面の揺れにより、海面に立っていたアランはやや体勢を崩してしまった。そこへ魔鎧騎士(フォカロル)が大剣を薙ぎ払う。


「《結界(シールド)》!」


結界を展開するが一瞬で粉砕された。(かざ)した剣で大剣を受け止めるが、それでも勢いは止まらない。アランは遠くへ吹き飛ばされてしまう。

その時には衝撃で剣が折れていた。すぐに剣を『虚空の手』に収納し、新たな武器を取り出そうとする。だが次の瞬間には背後に魔鎧騎士(フォカロル)の姿があった。

大剣から繰り出される連撃をアランは紙一重で回避し続ける。同時に刃から放たれる斬撃により肩や頬が切れていたが無視した。


「《闘則(トウソク)術式三型・破虐龍昇濤ハギャクリュウショウトウ》」


薙ぎ払われた大剣を屈んで躱し、下から魔鎧騎士(フォカロル)の顎にアッパーを叩き込む。衝撃で首と顎が割れ、頭部が外れかけた。

しかし魔鎧騎士(フォカロル)はそれにも構わず、自身の能力を行使する。斜めに振り下ろされた大剣を跳んで回避しようとするが、同時にアランの進行方向を妨害するように海面から巨大な魚が複数現れた。アランを飲み込むつもりだ。


「チッ!」


魔鎧騎士(フォカロル)の腕に左手首を当て、無理矢理攻撃を受け止める。

衝撃で手首の骨と左腕の骨にヒビが入る。さらに全身に伸し掛かる衝撃で潰されそうになっていた。

このままでは長くは保たない。アランは拳を放つが、


「_+|L1al,c>|;1soit,A」


アランが狙った魔鎧騎士(フォカロル)の横腹が変形する。突然鎧が裂けて口のようになった。中には鋭利な牙が生えそろっている。

既に拳は放たれている。僅かな時間でアランは拳の軌道を可能な限り逸らすが、それでも腕の半分ほどが食いちぎられた。両腕の大きな欠損は接近戦では致命傷だ。

立て続けに魔鎧騎士(フォカロル)が攻める。ただでさえ膂力ではアランは負けている。今のアランが拮抗するのは難しい。

横腹を大きく切り裂かれる。さらに蹴りを横腹の傷口に叩き込まれた。出血と臓器損傷を負いながらアランが吹き飛ばされる。


「ゴあッァ、う“ッ!」


血反吐を吐く。回復を試みた瞬間には目の前に魔鎧騎士(フォカロル)がいた。振り上げた大剣をアランの心臓目掛けて振り下ろす。

だが、


「───《正義の天譴(アストレア)》!!」


そこへ太陽の如く輝く炎が疾る。魔鎧騎士(フォカロル)の大剣が別の何かに弾き返されただけでなく、追撃に放たれた蹴り技により魔鎧騎士(フォカロル)が吹き飛んだ。

海面を何度か転がった(のち)魔鎧騎士(フォカロル)は体勢を立て直す。魔鎧騎士(フォカロル)の視界にはアランに加えてもう一人、茶髪の少年が大剣を肩に担いでいた。


「リヴァイアサンとの戦闘中だと言うのに、それ以外のモノに殺されかけていたとは。目の当てられない失態だな、アラン」


「グレイ……まさかお前に助けられる日が来るとはな。一生の恥だな」


「ならそのまま地中か海底にでも埋まっていろ。そして二度と出てくるな」


「阿呆が、それは俺のセリフだ堅物脳筋野郎が」


グレイ・フォーリダント、リヴァイアサンによって遠方に転移させられていた彼はこの場まで戻っていた。アランは怨念を込めた軽口を叩きながら傷を治す。


「現状はどうなっている?」


「リヴァイアサンは封印することに決めた。それで戦っていたら俺たちも転移させられ、俺にはこのガラクタを当てられた」


魔鎧騎士(フォカロル)が動く。足を前に出そうとするが、いつの間にか移動していたグレイがそこに足を着ける。

移動先を封じられた事による一瞬の硬直。そこへ大剣の薙ぎ払いが炸裂する。同じく魔鎧騎士(フォカロル)は大剣で受け止めるが、グレイに力負けして吹き飛ばされた。

さらに吹き飛んだ先にアランが対空していた。飛んできた魔鎧騎士(フォカロル)を回し蹴りで撃ち落とす。そして落ちてきた魔鎧騎士(フォカロル)にグレイが再び攻撃を刺す。また魔鎧騎士(フォカロル)が吹き飛ばされた。


「お前に頼るのは心底業腹(ごうはら)だが手を貸せ。一分以内にコイツを殺す」


『虚空の手』から新たに剣を取り出すアランに、グレイは失笑混じりに言う。


「一分だと?笑わせる。三十秒で十分だ」



***



悲鳴が飛び交う海の中。アリシアは凶器と化した亡霊たちの猛攻を結界に受けていた。

結界の修復速度より破損速度の方が早い。先程まで絶叫していた者たちも既に理性を失い、ただ苦痛に叫んでいる。


「……ッ」


アリシアは双剣を握るが、その手が動くことはない。窮地に立たされて尚、彼女の決心は固まらずにいた。

長年抱えてきた信条や価値観を急激に、それも悪い方向に変化させるのは簡単な事ではない。アリシアのような人間なら尚更。

まさに板挟みの状況、既にアリシア一人ではどうしようもなかった。


(私は……どうすれば……!)


自然の中で理不尽に死した者にさらなる苦痛を与えなければならない。故に求められるのは罪無き死者をさらなる絶望の底に落とす覚悟。

歯を食いしばって考え続ける。実際には数十秒だが、体感では数分に及ぶ思考。

彼女の思考に活路を与えたのは僅かな衝撃だった。


────ッ!!!


くぐもった爆音が聞こえてくる。同時に魔力の波動も伝ってきた。海上でリヴァイアサンと戦っている者たちの気配だ。


「ッ!!」


瞬間、改めてアリシアは気付かされた。

これは彼女だけの戦いではない。アランやシエル、グレイ、リフレイムの聖装士、後方支援を担っている者、そしてリヴァイアサンの封印を任された者たちまで。リフレイム皇国と多くの民の未来のために、今この瞬間に全身全霊を尽くしている者たちがいる。

アリシアはこの戦いの主戦力の一人。戦線を離脱すれば埋めようのない被害が出る。

主戦力としての責任、そして今も仲間が命を懸けている事実。それを自覚して尚、こんな場所で悩んでいる暇はない。


(決断の時、ですね……)


元より優先順位は明白だ。死した者に懺悔したところで戦況は好転しない。リヴァイアサンに勝ち、今を生きる者たちを守りたいのなら、今すぐ仲間の(もと)へ戻らなければならない。そこにどんな犠牲を伴ったとしてもだ。

ならば、自身のすべき事は決まっている。


「許しは乞いません。どうか私を恨んでください。私は貴方たちの全ての悪意を受け止めます」


輝く双剣を掲げる。暗い地獄の中に優しい光が瞬いた。その光は彼女の祈り、純真なる決意と覚悟の表れだ。


今でも手は震えている。おそらく今後一生、この選択に悔いを残すだろう。

それでも彼女は進むと決めた。今を生きる者の、この瞬間に全力を尽くしている者たちの一助となるために、アリシア・エルデカは亡霊を再び絶望に落とすのだ。


「ラファエル、ガブリエル、ミカエル、ザドキエル、カマエル、セラフィエル……どうか、私に力を」


『『『『『『───ッ』』』』』』


六体の天使たちも手に光を宿す。彼らも明確な自我を持つ神話の時代からの使徒。アリシアの思いを誰よりも深く理解していた。


アリシアの聖装具──《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》の聖装能力には一つ欠点がある。彼女が起こすあらゆる事象は、すべて『祈り』が起点となること。

祈りに込められた思いが不十分であったり、迷いがあった場合、聖装能力は反応しない。もちろん《至高七天(セブンスヘブン)》で呼び出した天使たちも同じだ。仮にアリシアが迷いながら亡霊たちを殺そうとしても、《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》は彼女を認めず力を与えなかったはずだ。

神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》の持ち主は、神話の時代を生きた神の力の代行者。故にそれ相応の高潔な精神と気高い覚悟が求められる。

おそらくアリシアでなければこの力は使いこなせなかった。とても戦闘者には相応しく無いほど律儀で、誠実で、心優しく、重い覚悟を背負っている彼女でなければ。


「……行きますッ!」


少女は駆ける。仲間のために、明日のために、苦しみに嘆く者のために。たとえ己の信念に命を焼かれようと、彼女は光を掲げ続ける。

それがアリシア・エルデカという人間の生き様なのだから。

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