表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
40/77

第三十八話 最悪のミス

「……?」


グレイの加勢に向かおうとしていたアランは、突然足を止めた。そしてグレイたちの向こう側、教会へと続く一本道を見つめた。

何か気配を感じたのだ。改めて魔力探知をしてみれば、向こうから五人分の魔力反応がすぐそこまで迫ってきているのが分かる。


「誰だ……?」


夜闇の中だから姿ははっきりとは見えないが、五人の人影が見える。

すぐに彼らはこの場にたどり着いた。五人とも紺色のローブを羽織っていた。胸元には模様が刻まれた金色のバッチが付いている。


「──ッ!?」


その姿をアランは知っていた。同時にアランは己のミスを悟った。


(しまった……そういえば警備隊が来る時間だった!)


彼らはロマーシュアの警備隊員だ。夜の十一時には教会にいるアランに捜査状況の定期報告をしに来ることになっていた。

そして今の時刻は十一時。ここで起きていることを知らない彼らはいつも通り、定期報告のために教会に来ていたのだ。

一気に血の気が引く。最悪の未来を幻視した頃には、アラン以外の者たちも警備隊員の存在に気づいていた。

グレイも警備隊員を見て顔色を変えている。グレイは彼らが警備隊員であることを知らない。だがこれから何が起こるかは理解できた。


「来るなぁぁぁ!!」


そう叫びながら、アランはすぐに警備隊員たちの元に向かう。グレイもヴィルたちを止めにかかった。


だが、間に合わない。

誰よりも早く動いたのはバルドラート。今存在する身体中の切り傷に加え、さらに自身の体を何度か突き刺す。既に瀕死の領域だ。

その上でバルドラートは唱える。


「《鏡転する現実ミラーシブルシチュエーション》」


直後だった。バルドラートが負っていた傷が全て消えた。同時に警備隊員の一人が突然苦悶の声を上げて倒れ伏した。

彼の全身は切り裂かれ、刺された跡があった。傷口からは大量に血を流している。無論それらはバルドラートに負傷を移されたことで生じたものだ。

このまま放置すれば十数秒後には彼は死ぬだろう。アランたちに彼を見捨てることは出来なかった。


「クソッ!!」


倒れた警備隊員の元に駆けつけたアランはその場で屈む。


「落ち着いて、すぐに治療します!焦らず呼吸してください!」


右手の掌を警備隊員に当てる。すぐに治療魔法を行使した。

他人の身体を治療するのと、自分の身体を治療するのとでは、まったく話が変わってくる。

自分の身体であれば治療はまだ簡単だ。どこをどう負傷していて、どう治せば良いのかを感覚で理解できるから。

だが他人の身体はそうはいかない。まず身体の状態を魔法で調べ、それから必要な処置を施していく。

感覚で理解できない上に他人の身体だから無茶もできない故に、他人を治療するには自分を治療する時間の倍はかかる。それが瀕死の重傷であれば(なお)のこと。

こればかりはアランであっても、どうしようもなかった。


そしてその隙をヴィルたちが逃すはずが無い。


「これで最後だ……《鏡身無尽投影(ミラージュアバタース)》!」


残った魔力を振り絞り、バルドラートは唱える。

現れたのは十人の分身。彼らは容赦なく警備隊員たちに向けて攻撃を仕掛けた。

アランは今は手が離せない。防げるのはグレイだけだ。


「グレイ!」


「分かってる!」


すぐにグレイが動き、分身の攻撃を防ぐ。光線、弾幕、剣撃、その全てを片っ端から防ぎ続ける。

だがその向こうに見えたのだ。分身のバルドラートたちを囮に、ヴィルたちが走り去ろうとする姿が。

追いかけようとするが、バルドラートたちの攻撃は止まない。

グレイだからこそ当たり前のように弾けているが、彼らの攻撃はどれも高威力だ。分身とはいえ魔装士、全てが本体のバルドラートと同等の実力を持っている。聖装士ですらない並の警備隊員がどうにか出来たものではない。

高威力な技で一気に分身を破壊する選択肢もあった。だがそれだけの力を解放すれば後ろで治療しているアランの邪魔になる。故に出力は抑えるしかなった。


「アラン!《封印領域解放(インペリアルオーダー)》を使え!」


「無理だ!今手を離したらこの人が死ぬ!」


「チッ……クソッタレ……!」


攻撃を防ぐが、その時には既にヴィルたちの姿は視界から消えていた。数秒後に分身たちの姿が(かす)み、消滅する。

本体のバルドラートが離れたことで魔力供給が途絶えたのだろう。それはつまり、ヴィルたちがそれだけ遠くに逃げたことを意味していた。


「俺は奴らを探しに行く。お前はその人を治療していろ!」


言って、グレイはその場から離れた。教会の裏手に広がる森に入ってヴィルたちを探すが、やはり見つからない。

あらかじめ逃亡手段を用意していたのだろう。どれだけ探しても姿どころか魔力の気配すら感じられなかった。

完全に逃してしまったようだ。


「…………仕方ないか」


諦めたグレイは森を抜け出し、アランの元に戻った。


だが───


「……あのクソ野郎め」


道中で呟いたその一言は、果たして誰に向けたものだったのか。




***




グレイが戻った頃には、アランは警備隊員の治療を終えていた。


「グレイ、アイツらは?」


「悪い、逃した。姿どころか魔力の気配すら見つからなかった」


「謝ることじゃねぇよ。俺の注意不足だ。俺が警備隊が来ることを覚えてたら……」


魔力の痕跡すら無いとなれば、もう彼らを追うことはできない、

『リヴァイアサンの断片』は奪われてしまった。これで依頼は失敗だ。


(無理矢理受けさせられた依頼とは言え……これは(こた)えるな)


アランは額を抑えながら、ここ数日で一番重たい息を吐く。

この失敗が後にどんな被害を招くのか。嫌な事ばかり考えながら、しかしこのまま何もしないわけにはいかない。

追跡は不可能でも、まだやるべきことは残っている。アランはグレイと共にその場の状況収拾に務めることにした。



***



状況収拾にはかなりの時間を要した。

夜通して作業して、気づいた時には昼の十二時。身体は疲弊し切っていた。


「眠っっっっむ、マジでただの学生がやる仕事量じゃねぇだろ………グレイ、お前はどうだ?」


教会内の長椅子に座りながら、アランは隣に座るグレイに問いかける。教会内は夜にヴィルとグレイが戦ったことで荒れていた。


「眠くないわけがないだろう。俺も寝ていないからな」


「そもそもお前いつ学園に帰ってきたんだ?確か別の依頼で学園外に出てたんだろ?」


「昨日の夜だ。学園に戻ってきて諸々を済ませて、ようやく自室で一休み出来るかというところに突然学園長が現れてここに飛ばされた」


「あ〜」


さすがにそれには同情した。


「災難だったな、お前も」


「お前の方こそ随分切羽詰まってるそうじゃないか。明後日、お前の序列戦があるらしいな。しかも対戦相手はあのロベリア・クロムウェルなんだろう?」


「よく知ってんな。どこで聞いたんだよそれ」


「アリシア様から聞いた。依頼の結果報告をしに行った時についでに聞かされたんだ。お前、今回は聖装具を使う気はあるのか?」


「無い」


「だろうな。魔装士どもに逃げられかけた状況ですら使わなかったのだから、序列戦などで使うはずが無いか」


「仕方ないじゃん。事情があるんだから」


「ならその事情くらいは周りに話せ。仮にも学年次席だろう、信用に関わるぞ」


「いいよ別に。外部での評価なんて興味ないし。学園内で上手くいってるなら気にすることは無いさ。友達もいるからな。()()()()()()()


「……なるほど、どうやら体力が有り余っているみたいだな。どうだ、少し外に出て運動するか?教会の裏手の森の中なんてちょうど良いんじゃないか?」


「確かにあそこならお前が失態を晒しても誰かに見つかることは無いからな。喧嘩の場所としては悪くない」


「失態だと?お前まさか俺を出し抜けるとでも思っているのか?」


「ははははっ!面白いことを言うな!脳筋堅物ぼっち委員長様が誰に勝つって?」


互いに立ち上がり、睨み合う。

つい先程まで仕事に追われて疲弊していたかと思えばすぐにこれだ。

アランはグレイに対してもはや無意識レベルで悪口が出る。そしてグレイは条件反射レベルでアランに対して拳が出る。

彼らはまさに犬猿の仲、混ぜるな危険、一緒にいれば喧嘩せずにはいられないのだ。


もちろん彼らは理由無くしてこのような険悪な仲になったわけではない。

きっかけは約一年前、学園に入学してから二ヶ月近く経った頃のことだ。やや複雑な経緯の末に、彼らは一度大喧嘩をしたことがあるのだ。それもただの口論ではない。グレイは聖装具を使い、アランも魔法をフル使用して、お互いに殺し合うくらいの勢いで戦った。

彼らは共に『学園最高戦力者』。当時はまだその肩書きは無かったが、互いに強者であることは変わらない。彼らの喧嘩はしっかりと周囲に被害を出した。


最終的には彼らの喧嘩は学園長であるシリノアが止めたが、その時には学園の敷地の四割ほどが破壊されていた。

一応生徒たちは避難していたので、喧嘩の巻き添いを喰らった者はいなかった。とはいえ、これだけの事をして許されるはずもなく、しっかりと彼らは停学処分を受けた。

どちらかと言えば加害者側だったグレイは三週間、全体的に被害者だったアランは二週間、その他この喧嘩の原因になっていた生徒も揃って停学処分を受けたのだった。


ちなみにこの時の学園の破損については、学年実力序列第四位ことシエル・グレイシアが一晩で完全修復させたという伝説がある。

あと実はこの喧嘩がアランがアシュリーと友達になったきっかけだったりするのだが、その話はまた後の機会に。


***


「……はぁ」


ため息を吐いてグレイは長椅子に座る。同時にアランも座った。

急に馬鹿馬鹿しくなった。そもそもこれ以上喧嘩する体力も残っていない。

もうしばらく休んだら学園に戻らなくてはいけない。アランはさらにその後アリシアに依頼の結果報告をする必要もある。


「これ、帰りはどうなるんだ?学園長が俺たちを回収しに来てくれるのか?」


「特にそのような話は聞いていない。自力で帰ってこいということだろう」


「どこまでも鬼畜だな……仕方ない、頑張って帰るか」


ここから王都の学園まで魔法による空中移動を使って片道三〜四時間ほど。

その後街で昼食を摂った二人は一時間ほど休んでから、なんとか学園まで帰るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ