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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第百七話 幕引きの裏に踊る影

翌日の昼頃、アランはエルデカ王国立聖装士学園の校門前にいた。

数時間前にリフレイム皇国の転移魔法士の力で、アリシアと共にエルデカ王国の王城に戻ってきたところだ。

アリシアは他にやる事があったので、王城に残っている。アランだけ先に学園に帰ってきたという状況だ。なおリオたちは夕方頃に帰ってくる予定である。


(うーん……取り敢えず学園長室行くか)


帰国したとなれば、まずは自分と最も親密な者に無事を知らせなければならない。アランは早速、学園長室にいるであろうシリノアに会いに行った。

学園は今日まで休暇期間なので、学園内に生徒はあまりいなかった。図書館や演習場には人気(ひとけ)があるが、その他の場所は大体静まり返っている。


(休暇中でも頑張ってるなんて、勤勉な奴らだな。そろそろ『定期合宿』とか『第二回序列戦』もあるし、そのために頑張ってんのか)


などと考えながら歩いていた時だ。


「……ん?あれ、パイセンじゃない?パイセンじゃん。パイセンだよあれ」


後ろから声が聞こえた。振り向くと、見知った一年生の後輩トリオがいた。


「お前らもここにいたのか。元気してたか?」


「はい。お久しぶりです、アラン先輩。私たちはいつも通りですよ」


休暇中でも礼儀正しい振る舞いを見せる金の長髪をした赤眼の少女、リデラ・アルケミス。


「ただ……その、エレカがですね……」


困ったような顔をしながら、リデラは隣にいる友人を見る。


「師匠……助けてくださいっす……私、この休暇中ずっと補習させられてて……全く休暇を楽しめてないっす」


青緑の髪をポニーテールで束ねている少女、エレカ・ヴァルパレス。彼女は休暇中だと言うのに、ひどく疲れ切っていた。


「私も昨日、実家から学園に帰ったので、なるべくエレカの勉強を手伝ったのですが、あまり進捗が良くなくてですね……」


「どうしてっすか……どうして私は勉強ができないんすか……」


「それはもう頑張ってどうにかするしかないと思うぞ」


エレカはとにかく勉強が出来ない。剣術は一年生の中でもトップレベルだが、学力はその真逆を行く。恐らく剣術に才能を全振りしてしまったのだろうとアランは考えている。


「……で、お前は休暇中何してたんだ?ナタリア」


もう一人、ヘアゴムで結んだ白髪を両肩にかけ、その他を肩の辺りで切り揃えている少女がいる。

ナタリア・ヘンリエッテ、彼女は二人と比べて元気に満ちている。


「私はいつも通りだよ。何度か遺跡とかに行って魔法生物を乱獲してただけ」


「マジで何やってんだお前は」


そんな気はしていたが、やはりナタリアは休暇中も戦いに(いそ)しんでいた。


「パイセンなら私の気持ちも分かるでしょ?戦うのってすごーくストレス解消になるんだよ。自分の出来る事とかアイデアを好きなだけぶつけられるのって最高だと思わない?」


「思わねぇよ全く」


「おっかしいなー。パイセンは絶対こっち側なのに」


「何を根拠にそんな推測に至ったんだよ」


──戦闘など面倒以外の何ものでも無いだろうに、価値観は十人十色という事か。俺にはナタリアの考えはさっぱり分からない。


「ちなみに先輩はこの休暇中何を?リオ先輩たちが『アランが失踪した!』って慌ててましたけど」


「あーそれはな……」


アランは大まかに休暇中の出来事を話した。

王命でリフレイム皇国に行くことになり、そこで厄介な事件を解決したこと。そして魔装士やリヴァイアサンと戦ったこと。

話を聞くにつれて、後輩たちの表情が哀れみの感情を見せていった。


「なんと言うか……お疲れ様です、先輩」


「ホントに疲れたよ。マジでリヴァイアサンが復活した時は終わったと思った。王族にストライキしてやりたい気分だ」


「やっぱりリヴァイアサン強かった?」


「強かったなんてモンじゃない。俺やアリシアより遥かに強い。無策で戦えば俺たち全員一分も保たずに死んでたさ。今回、勝てたのは本当に奇跡中の奇跡だよ。もう当分は戦闘とは無縁でいたいな」


「え〜その話聞くと羨ましくなっちゃうなぁ。私もリヴァイアサンと戦ってみたかったかも」


「羨むだけにしておけ。《真髄解放》すら使えない奴が『十二死天の大厄災』と戦えば、間違いなく瞬きする間もなく死ぬぞ」


「は〜い。分かったよう」


若干ナタリアが不貞腐れていた。この話を聞いた後でも、リヴァイアサンと戦いたいと思える精神だけは、流石と言うべきか。


「師匠はこれからどうするつもりなんすか?」


「学園長室に行く。ちょっと学園長に用事があるから」


「そうでしたか。すみません、用事があるところを邪魔してしまって……」


「いいよいいよ。あ、それとリフレイムでお土産買ってきたんだ」


アランは『虚空の手』から、菓子が詰められた箱を三つ取り出した。リフレイム皇国から帰る前に買ったものだ。


「リフレイムで人気の菓子らしい。時間ある時に食べてくれ」


「はい、ありがとうございます」


「マジ感謝っす師匠!」


「それじゃ、ありがたく貰っとこっかなー」


リデラたちに箱を渡すと、アランは背を向ける。


「んじゃ、俺はそろそろ行くよ」


「残り短い休暇ですけど、先輩もしっかり休んでくださいね」


「ああ、お前らもなー」


アランはその場を後にする。そのまま学園長室に向かった。

部屋の前に着くと扉をノックする。室内から「入っていいぞ」という声が聞こえたので、扉を開いた。



***



「よく無事で帰ってきたなアラン」


入室して早々、部屋奥の大机の椅子に座るシリノアが声をかけてきた。


「全くだ。アンタが助勢してくれたら、どれだけ楽だったか」


「そう言うな。今回の件は良い経験になっただろう?」


「結果論じゃねぇか。確かに得られたものは多かったけどよ」


ぼやきながらアランは学園長室の中央にあるソファーに座る。シリノアはその様子を見て思う事があった。

外見には表れていないが、十歳の時からアランの面倒を見てきたシリノアには分かる。

アランがどこか吹っ切れたような雰囲気をしていた。リフレイム皇国で何か良い事があったのだろうと考えた。


「どうだった?私以外の格上と戦って何を感じた」


「絶望しか感じなかったよ。大量に後方支援と戦力を投入して、その上で全員が全力を出してやっと勝率が1%あるか無いか。マジでやってられねぇ……てか、どうせアンタ見てただろ、俺たちがリヴァイアサンと戦ってたところ」


「もちろんここから観戦していたさ。なかなかに手に汗握る戦いだった。見てて面白かったぞ」


「はぁ……この大聖者は……」


アランたちが何度も死にかけながら必死に戦い続ける様を、シリノアは娯楽感覚で見ていたらしい。

子が子なら親も親ということだろう。アランと同じくシリノアもズレた価値観を持っていた。


「素直な感想を述べるなら、正直驚いたとも。まさかお前たちがリヴァイアサンに勝ってしまうとは思わなかった。リヴァイアサンは私から見ても怪物だ。お前たちではどう足掻いても勝てないと思っていたのだがな」


「アンタでもそう感じるのか。師匠は『十二死天』と戦ったことあるんじゃなかったのか?」


「あるぞ。腐屍(ふし)龍ナグルファル、呪羅龍アジ・ダハーカ、凍冥龍エリュズニル……三体とも凄まじい力を持っていた。少なくともお前たち学園最高戦力者よりはずっと強い。だがリヴァイアサンは格が違ったな……となると、あの噂は本当だったのか」


「噂?そんなのあるのか?」


「ああ。『十二死天の大厄災』はどの個体も例外なく規格外の力を持つが、その中でも別格と言われている個体がいる。禁忌龍パンドラ、終末龍アポカリプス、そしてお前たちが封印した海帝龍リヴァイアサンだ」


「へぇ〜」


アランは初めて聞く噂だが、実際に『十二死天の大厄災』と戦った経験のあるシリノアが言うからには、本当なのだろう。


「実際にお前たちの戦いを見て分かった。リヴァイアサンは私が戦った三体とは格が違う。自身の領域に於いて、リヴァイアサンは森羅万象を自在に操ることができる。そして操作した内容は継続される。もはや神話の時代に存在した神の領域だな。加えて自身の能力を空間に適用させる事で、あらゆる場所を自身の領域に変えている。正直、能力だけなら私の聖装能力の上位互換だ」


「え、それヤバくね?」


「凄まじくヤバいぞ」


「俺たち、思ってるより凄いことした?」


「そうだな。リヴァイアサンに勝ったことは素直に誇っていいだろう」


戦いに関しては基本的に厳しいシリノアが、ここまで褒めるのは珍しいことだ。自分の功績の偉大さをアランは実感した。


「だが満足はするなよ?お前も今回の件で分かっただろう。お前はまだ課題が山積みだ。今のままでは私どころか、アリシア・エルデカにすら勝てないぞ」


「分かってるよ。早く《その名は完全無欠(アルティメットオー)の絶対王者(バードーズ)》を完成させないと……」


──そうだ。リヴァイアサンに勝って終わりではない。俺の目標は世界最強である師匠に相応しい弟子になることだ。

現状に満足してはいけない。魔法の技術を上げるのは当たり前だが、そろそろ自身の聖装具に向き合わなければならない。


今回の戦いで実感したが、やはり魔法だけでは不十分なところがある。《その名は完全無欠(アルティメットオー)の絶対王者(バードーズ)》は超強力だが、反動が凄まじい。『崩剣・神斬(カミキリ)』は使用に多大なリスクを伴う。他の改良魔法や《原始回帰(ピリオド)》、《魔人飾彩(ヘルガンテ)》も調子が良い時でなければマトモに使えない。

どれも欠点が目立ってしまう。大きなデメリットを抱えずに強大な力を扱いたければ、聖装具が手っ取り早い。《真髄解放》まで会得できれば、低いリスクと負荷でさらなる強さを得られるはずだ。


「ところでアラン、お前要件はどうした?」


「要件?」


「言わなくても分かる。お前、何か私に伝えたい事があるのだろう?」


「気付いてたか。じゃあ早速話そう」


それから暫く、アランは要件を話した。

内容は軽くいものではない。今回の一件を通して立てた予想、それは当初のアランの想定より深刻なものだった。


「……まぁ話はこんな所だ。なるべく俺も根回しはする。アンタにはあまり必要ない事だと思うが、それでも今の内容をなるべく意識するようにして欲しい」


「分かった。注意しておこう」


「そっか。じゃあ俺帰って寝るから。あとこれ土産のお菓子。また後で食べてくれ」


アランは土産の箱を学園長室に残して、部屋を出た。

流石に眠たい。休暇中の大仕事の反動が来ている。

迅速に休息を取るべく、アランは学生寮の自室に向かった。




***




「はぁ……まさかそこまで事態が進んでいたか。少し奴らを舐めていたな」


アランが去った後、シリノアは先程、言われた事を思い返してため息を吐いていた。


 


『───まず今回の事件についてアンタはどこまで知ってる』


『例の魔装士集団が主犯だった事と、奴らの最終的な目標が魔装士への差別解消だという事は知っているが』


『そこまで分かってるなら十分だ。アンタに知って欲しいのは魔装士どもが今回の騒動を起こした理由だ。俺はリヴァイアサンの断片と本体を利用する事が目的だと思っていたが、それは既に終わっていた。つまり事件の目的は別にあったわけだ』


『別の目的か…………まさか、そういう事か?』


『ああ、奴らの目的は俺たち学園最高戦力者を殺す事だ。刑務所の脱獄と国王殺害予告、この二つが揃えば大事になる。リフレイムは総力を挙げて解決に臨むだろう。だが結果は失敗、自国では解決できなくなった。海礼祭も迫っている以上、皇国が他国の優秀な奴に頼って迅速に解決しようとするのは必然だ』


『そこで選ばれたのがお前とアリシアか。エルデカ王国はリフレイム皇国の隣国。近くに世界屈指の強者がいる上に、海礼祭という他国の人間を呼ぶ理由もある。事件解決の人材としては最上だな』


『オルレアもこの事件で学園最高戦力者を皇国に招けると考えたんだろうな。だから異常に高い戦力を用意したんだ。俺たちを必ず殺せるように……』


『だが重要なのはそこでは無いんだろう?問題は何故お前たちを殺そうとしたかだ。まぁここまで聞けば大体予想は付くが』


『奴らが俺たちの命を狙った理由は単純だ。奴らの計画の最大の障害である()()()()()()()()だよ。なにせアンタは最強だ。アンタが世界の情勢に関心が無くとも、十分に警戒対象になる。排除したいと考えるのは当然だ』


『ただ私の近くにはお前たち学園最高戦力者がいる。学生とは言え、お前たちも世界屈指の強者だ。私ほどでは無くとも、奴らからすれば十分厄介な障害になる。その障害を少しでも減らすための事件だったわけか』


『最終的には俺たち全員生き残ったが、誰が死んでもおかしくない戦いだった。むしろ全滅してるのが普通の結果だ。俺たちとリヴァイアサンではそれだけの差があったからな。俺たちは超絶ハイパーアルティメット運良く勝てただけに過ぎない。本当なら奴らの計画通りに事が進んでただろうな』


『だが、そうなると次がある。再びお前たち、もしくは私を殺すために魔装士たちが仕掛けてくるという訳か』


『だな。と言っても、それなりに猶予はある。リヴァイアサンを倒した事で、奴らも今まで以上に俺たちを警戒するだろう。次こそ俺たちを殺せるよう、(しばら)くは戦力の準備に努めるはずだ』


『つまり私たちにも襲撃に備える余裕がある。今の内に状況を整えろという事か──』




───話した内容はこんなものだ。魔装士たちは本気で世界を変革しようとしている。そのために障害は徹底的に排除するつもりだ。

シリノアはその障害に含まれる。だから身の安全を意識して欲しいとアランは言っていたのだ。


(私の死か……そんな事を考える日が来るとはな)


大聖者になり、世界最強の聖装士と呼ばれるようになってから、自分の死を考える事など無かった。

シリノアの命を狙える者などこの世にいない。圧倒的過ぎる彼女の実力に敵う者がいるとすれば、彼女と同じ大聖者くらいだ。だが現存している大聖者がシリノアのみである現状において、シリノアに勝てる者など世界中のどこにも存在しない。


故にシリノアは自分の安全を考えた事など無い。だがアランがあそこまで言ったのだ。多少は警戒しておいた方が良い。


「…………」


まさか魔装士たちも無策でシリノアに挑もうとはしないだろう。シリノアすらも殺せるほどの秘策と戦力を用意しているに違いない。

最強であるシリノアが勝てない敵を対処できる者はいない。無論、学園最高戦力者や他国の強者では不十分だ。


幸いにも猶予はある。戦力の増強を(はか)りたいが、シリノアに匹敵する実力者など簡単に育てられるはずがない。

学園最高戦力者たちなら、いづれ大聖者に匹敵する聖装士に至るかもしれないが、彼らのポテンシャルを完全に開花させるには少なくとも十数年はかかる。流石にそこまで猶予は無いだろう。


(手っ取り早く戦力を揃える方法……か)


目を瞑り、思案を巡らせる。


方法が無いわけではない。たった一人だけ、この条件を満たせる者が存在する。

それは自分が一番良く知っている人物であり、自分が最も大切にしている人物。

断言していい。上手くいけば、彼なら短期間で自分に匹敵する強者になれる。それだけのポテンシャルが彼にはある。

だがこの計画に伴うリスクは計り知れない。何よりソレは彼に『最も過酷な試練』を与えることになる。

彼を大切に思う者としては、最も取りたくない手段だが。


「…………時が来た、という事か」


シリノアは一人決断する。

それはこの世界全てに影響を与えるであろう決断であり、一人の少年の運命を大きく変える決断。

それはすなわち────。






「アランの……いや、■■■■の真の力を封印から解放する時が……」






《第三章・完》






数日後、学園から遠く離れたある場所にて。


「おいお前ら、また『依頼』が来たぞ」


薄暗い部屋の中へ、一人の男が入ってきた。

部屋には既に四人の男が待機していた。入ってきた男は持って来た資料を見せながら話を続ける。


「いつも通りどこからの依頼かは分からねぇが、随分太っ腹な客だ。かなりの報酬を提示してきた。そしてその内容もまた面白いものと来た」


「ほう、それは良い。内容はどんなものだ?」


待機していた一人の問いに、彼は笑みを浮かべて答える。


「……お前らも知ってるあの名門、エルデカ王国立聖装士学園の生徒(ガキ)ども抹殺しろとの事だ」


それは新たな戦いの始まり。アランたちの知らない場所で、密かに命を狙う刃は研がれていた。

・あとがき


こんにちわ、綿砂雪です。

ようやく終わった第三章。当初は30〜40話で終わる予定だったので、受験があるとは言え3月までには終わるかなと思っていたのですが、気付けば6月。この作品を作り始めてから(2025年6月2日)一年が経ってました。余裕で3ヶ月オーバーです。


ちなみにこの作品、去年の5月末に受けた模試の最中に唐突に思い付いた『聖装具』という単語から勢いのまま3日くらいで作ったものなので、シリーズを始めた頃はストーリーなんてほとんど考えていませんでした。なんなら当初は短編扱いにして序章だけで終わらせようかとも思ってました。

今では最終話までの大まかな展開は思い付いていますが、ここまで続けられるとは思いませんでした。見切り発車でも意外と続くものですね。


こんな始まり方なのでストーリーも文も稚拙である上、執筆しながら次回の内容を考えている状態です。プロットなんて超大雑把にしか考えてません。

なので度々過去の内容を改稿しつつ、読みやすいよう改善しています。そのたびに細かな点で内容が変わったりしてますが、話の大筋や設定はあまり変わっていないので、今後の内容を理解する上で支障が出ることは無いと思います。と言うか出ない無いように努めます。


次回から第四章になります。思い付き次第で番外編の『えくすとらでいず』も投稿しますので、興味がありましたら、そちらも覗いてみてください。

長くなりましたが、今後ともアランと愉快な仲間たちが紡ぐ物語をどうぞ、よろしくお願いします。

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