第百話 頂点者の舞台
「アラッチ……生きてたんだ」
再起したアランを見て、シエルは安堵すると同時に驚愕していた。
アランの力量が爆発的に上昇した。先程までのアランの比ではない。おそらくこれがアランの本当の最終奥義なのだろう。シエルは感覚的に理解した。
『──シエル、聞こえるか』
「ッ!?」
その時、シエルの脳内にアランの声がした。魔法で念話とは如何なる理屈か。シエルですら瞬時に理解できなかった。
『ひとまず聞こえてる前提で話すぞ。今俺が使っている魔法は俺の最終奥義。発動中は俺が扱える全ての魔法がフルオートで発動して俺の理想を擬似的に具現化する。言わずもがな強力だが、体の負荷と消費魔力量が多い。持続時間は八分程度だ。封印まで保つ事はない』
そこでシエルはアランの言いたい事を理解する。同じく聖装能力で思考を伝達し、念話を図った。
『なるほど。私が後方支援のバフや回復の効果配分を操作して、アラッチが戦い続けられるようサポートすれば良いんだぁね』
『そうだ。正直に言うと、この魔法はまだ未完成だ。魔法の制御で俺は手一杯になるだろう。周りを気にすることは出来ない。だから周りの指揮とサポートを全面的にお前に頼みたい。もちろんリヴァイアサンの解析と抑制もだ』
出来るか?とアランが問う。シエルは笑って答えた。
『モチのロン。全力でぶちかましてよ』
念話はそれで終わった。現状、アランの再起により場が良い方向に乱れている。リヴァイアサンはアランに対してかなり警戒しているようだ。
好都合。これならシエルもアシストに専念できる。今度はこの場の全員に念話を繋いだ。
『全員、アラン・アートノルトに合わせて攻撃して。ダメージにならなくていい。ちょっとでも気を逸らせたら十分だから。私とアラン・アートノルトでリヴァイアサンを移動させる。アリシア・エルデカとグレイ・フォーリダントは可能ならリヴァイアサンを移動させるまで《真髄解放》は温存しておいて。移動させた後に畳み掛けたいから』
封印魔法の再起動と補強が始まってから、既に五分ほどが経った。完全に再起動と補強を終えるまで残り五分。
あまり早く移動させるとリヴァイアサンが封印魔法に気付いて暴れる可能性がある。なるべく時間ギリギリでリヴァイアサンの体の中心部分を封印魔法から百メートル以内の地点に移動させ、その後の封印するために必要な十分を全員の総攻撃で耐える。
おそらくこれが唯一の勝ち筋。だがこの規模の戦いに付いて行くには、シエルも出し惜しみは出来ない。
「仕方ない、久々にやるかぁ」
シエルの聖装具たちが強く煌めく。
限界以上の出力上昇。迸る魔力に呼応し、彼女の周囲を蒼雷と光が駆け巡る。
異界にて生まれた超技術。その本質は全てを解き明かし、適応と進化を続ける無限の可能性の体現。だからこそ彼女は『超越の機巧者』なのだ。
「《制限完全解除》───《真髄解放》!!」
***
「さぁ、ここからは全力でやってやるよ。リヴァイアサン」
滞空しながらアランは目の前の怪物と睨み合う。
《その名は完全無欠の絶対王者》はまだ未完成の最終奥義。アランの手が回らない部分も出てくるだろう。
そこはシエルたちが補ってくれる。アランは仲間を信じ、ただ目の前の怪物を退けることだけを考えた。
「───ッ」
深く息を吸い、イメージする。自分の理想、その理想の体現に関わる魔法、法則、物質など。ただ想像するだけでなく、理想に関わる全ての要素を考え出し、緻密に理想を織り上げる。
そして、
「─貫け─」
理想の出力。理想を体現するべく自動発動された魔法がリヴァイアサンを襲う。
次の瞬間にはリヴァイアサンに大きな負傷があった。体の所々が抉れている。リヴァイアサンは苦悶の声を上げながら血を流していた。
(流石に理想通りとは行かないか)
もっと深手を負わせたつもりだったが、結果は理想に届かなかった。
単純にリヴァイアサンの防御力が高過ぎる。アランの理想通りのダメージを与えるのは難しいだろう。
だが効いている以上、この力がリヴァイアサンに対して有効な手段であることは確かだ。
「─捻れろ!─」
リヴァイアサンの巨体が不可視の力に圧迫される。体が無理矢理動かされ、次第に雑巾のように捻れていく。
これなら防御力は関係ない。アランはそのままリヴァイアサンの体を捻り切ろうとするが、リヴァイアサンはそれを許さない。
「オォォォォォォォォガァァァァァァッ!!」
吠えた瞬間、莫大な衝撃波が全方向に放たれる。アランの魔法を弾き飛ばすつもりだ。
アランも即座に対抗する。瞬間的にイメージした『この衝撃波を掻き消す』という理想。それを出力し、リヴァイアサンの衝撃波を相殺する。
だがその時にはリヴァイアサンの束縛が解けていた。
(クソッ……二つの理想を同時に実現させるのは無理か)
今の完成度では一度に具現化できる理想は一つまでだ。リヴァイアサンの衝撃波を相殺した時点で束縛が解けていたのだ。
つまり攻撃と防御の両立はできない。アランは常に偏った戦い方が求められる。
「グゥゥゥゥガァァァァァァァァァッ!!!」
今度はリヴァイアサンが攻撃に出た。口、海面、暗雲、各方向から巨大な砲撃を大量に放つ。
上下と正面は逃げ場が一切ない。後退するか、防御するか、突っ込むかの三択だ。
「任せたぞ、シエル!」
アランは前に出た。光線の中心へ一切躊躇することなく突貫する。
リヴァイアサンは勝ったと思った。実際、リヴァイアサンの攻撃力はアランの防御力を超えている。正面突破など本来なら不可能だった。
だからこそ違和感を感じた。光線の中にあるアランの気配がいつまで経っても衰えないことに。この攻撃の中で生きているばかりか、アランは光線を突っ切っている。
「─消えろぉぉぉぉぉぉッ!!─」
砲撃が掻き消される。リヴァイアサンの目に映ったアランは傷一つすら負っていない。
彼を半透明の球体のようなものが覆っていた。これが彼を守護していたのだろう。アランはそのままリヴァイアサンの頭部へ直進する。
「オォォォォォァァァァァァァッ!!」
リヴァイアサンも巨体を大きく動かし、アランに突進してきた。
この戦いでは初めて見るリヴァイアサンの大胆な移動。動き出した時点で既に音速を超えている。この質量と速度で激突されようものなら、間違いなく肉体は跡形も残さず砕け散る。
アランはそれを分かって尚、躱そうとしない。リヴァイアサンの眼前で拳を振りかぶる。
彼我の距離は二十メートルもない。このままではアランが拳を振り下ろすより早くリヴァイアサンがアランに激突するだろう。
だが結果は違った。リヴァイアサンの動きが突然止まったのだ。何かに押さえ付けられたように、その場に固まっている。
状況が逆転する。本来、間に合わなかったはずのアランの打撃がリヴァイアサンの額に放たれる。
「─爆ぜろォッ!!─」
拳が触れた瞬間、リヴァイアサンの体内に大量の魔法が流れ込んだ。衝撃や感電、風化、燃焼、凍結、打ち込まれたアランの理想がリヴァイアサンの体内で暴れている。
リヴァイアサンの体が何度か大きく揺れた。口からは血が漏れている。
何が起こったのか。なぜ突然動けなくなったのか。揺れる視界の中、リヴァイアサンは確かに見た。アランの後方に浮かぶ一人の少女を。
装いは機械的な白黒のドレス姿に、ピンクの短髪には花の結晶のような髪飾りが付いている。頭上にあった銀の輪は形状変化と拡大から三重の虹色の輪に変化し、背部の電子的な翼は四対に増えた。
加えて彼女の周囲には彼女の上半身ほどの大きさの黒い機械的な右手と左手が三つずつ、そして足元には四本の十字の剣のようなものが旋回していた。それぞれの武具の周囲に幾重にも魔法陣が展開されている。
「実は私、アシストが一番得意なんだぁよね。マジでアシストは自信あるよぉ」
これがシエル・グレイシアの《真髄解放》。彼女の聖装能力は解析と適応を得意とする。
単騎でも十分に戦えるが、本来の得意分野は仲間の援護。解析して得た情報で仲間を助けつつ敵を弱らせる。その点においてはエルデカ王国でシエルの右に出る者はいない。
「─ぶっ飛べッ!─」
リヴァイアサンが体勢を崩したところへ、アランが攻撃を刺す。リヴァイアサンを正面から襲う衝撃波や、体を押し付ける圧迫感。強引にリヴァイアサンを後退させていた。
だが移動距離は本当に僅かなものだ。これでは遅すぎる。
(もっとだ!物理的なものだけじゃない!空間を操作しろ!)
「シエル!」
「分かってるよぅ!」
干渉範囲の拡張。後方にいるシエルに呼びかけつつ、空間そのものに魔法を作用させる。
リヴァイアサンの周辺の空間の景色が大きく歪み始めた。リヴァイアサンが主権を持つこの空間に強引に改変を加え、リヴァイアサンごと空間座標を置き換えようとしている。
当然、容易なことではない。リヴァイアサンの干渉力は絶大だ。真っ向勝負ではまず勝ち目はない。
故にシエルが全力で空間に綻びを入れ、アランがそこから空間を捻じ曲げる。それもリヴァイアサンに対応する暇を与えないほどの早業で。
────ッ!!
突然、空間がパキンッと割れるような音がした。
空間構造の改変が成し遂げられる。その時にはリヴァイアサンがさらに後方に移動していた。
移動距離は五十メートルほど。成果としては悪くないが、
「はぁ……はぁ……!」
アランは肩で息をする。今の空間干渉を含め、この一連の攻撃でかなり体に負荷がかかっていた。
魔力と回復は十分に供給されているが、この力に肉体が耐えられていない。定期的にクールダウンを挟む必要がある。恐らくあと三十秒近くは動けない。
リヴァイアサンはその隙を見抜く。アランが動けない内に反撃を仕掛けようとした。
だが、そこへ数多の攻撃が襲い来る。グレイやアリシア、リフレイムの聖装士たちがアランの隙を補うように攻撃し、全力でリヴァイアサンの邪魔をしていた。
ダメージは無いが、リヴァイアサンの動きを封じることは出来ている。リヴァイアサンとしては驚くべきことだった。
なぜ自分が格下の攻撃で怯んでいるのか。ただアリシアたちの攻撃力が上がっているのではない。むしろ自分の力が落ちているような感覚がした。
「海の中にある命を生贄にした自己強化かぁ。急に強くなったからビックリしちゃったけぇど、単純な仕組みで助かったよぉ。これくらいなぁら、むしろ私が逆に利用できちゃうねぇ」
先程、リヴァイアサンが急激に強化された理屈をシエルは早々に見抜いていた。
今も海中から昇り、リヴァイアサンに集約されている赤い霧。これは海の中にある命を生贄にし、魔力に変換した姿だ。
要は単なる魔力の塊。もちろん変換された魔力を取り込めるのはリヴァイアサンだけだ。他の誰にもこの魔力は扱えない。この供給を絶たない限り、リヴァイアサンは無限に強化と回復を繰り返すだろう。
しかし供給を絶つのは難しい。なにせ海の中には無数の命がある。何より海は広大だ。リヴァイアサンの干渉範囲にある命を全て殺し尽くすのはほぼ不可能と言える。
そこでシエルは発想を変えた。供給は絶てないが、供給される魔力に少しだけ改変を加えることなら出来る。シエルはリヴァイアサンが吸収する前に、浮上した魔力にリヴァイアサンにとって毒となる要素を混ぜ、リヴァイアサンに取り込ませることで少しずつ弱らせていた。
いくら勘の良いリヴァイアサンとは言え、簡単に見抜けるものではない。たとえ見抜かれたとしても、それはそれで魔力の供給を絶たせることが出来る。どちらに転んでも状況が好転する妙案だった。
「ゴォォォォォォガァァァァァァァァッ!!」
リヴァイアサンがさらに出力を上げる。少しずつ弱体化しているが、それでもリヴァイアサンの力は彼らの遥か格上だ。リヴァイアサンから連続で全方位へ放たれる衝撃波が、アリシアたちを強引に引き離した。
衝撃波に直撃したアリシアたちの負傷も軽くない。ただでさえ空間全域に今も不可視必中の概念攻撃が作用している。リヴァイアサンの概念攻撃はこの場の全員に共有されたシエルやアリシアの概念防御があっても防ぎ切れる次元をとうに超えていた。
加えて圧倒的物理的威力を誇る砲撃や衝撃波の数々。何度も肉が抉れ、骨が折れている。内臓が損傷している者も少なくない。
後方支援の回復はあるが、それだけでは治療は追いつかない。彼らもかなりギリギリの状況だった。彼らだけでは一分も保たないだろう。
だからこそ、
「次は俺の番だッ!!リヴァイアサン!」
彼らの方針は決まっていた。アランが戦っている間に他の者が傷を治し、また他の者が戦っている間にアランは魔法の負荷を回復させる。交替して戦線を維持する戦法だ。
回復したアランがリヴァイアサンの頭上に瞬間移動する。リヴァイアサンの頭部を思い切り殴った。先程と同じく、打撃に合わせて伝った魔法がリヴァイアサンの体内で暴れている。
さらに続けて手を翳す。今度はリヴァイアサンの全身が斬られた。不可視の斬撃が全身を絶えず襲っている。
(今の内に!)
再びリヴァイアサンを転移させようとした。だがその時、リヴァイアサンの視線がアランに向けられる。
「グオォォォォォォォォォォォッ!!!」
口元に魔力が集約されていく。この至近距離で砲撃を放つつもりだ。
ただの砲撃なら回避すれば終わりだった。だがリヴァイアサンなら空間構造を操り、砲撃の軌道やアランの移動を制御することも容易いだろう。回避は困難だ。砲撃を打ち消すにしても、この距離では時間が足りない。
故にアランは迎撃に考えを移す。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
数多の魔法を集約した超高密度の魔弾をリヴァイアサンの砲撃にぶつける。
激突の瞬間、凄まじい衝撃波が巻き起こった。同時に相殺しきれなかった力が周囲に放出される。飛来してきた光線の断片にアランは体の所々を貫かれた。リヴァイアサンも鱗が剥げ、少し体が抉れている。アランの方が多めに反動を受けていた。
これでも両者にとっては瞬時に治せる範囲の負傷だ。互いに傷を治しながら、次の攻撃に移行する。
リヴァイアサンが衝撃波を放つ。アランは衝撃波を受け止めて衝撃波に干渉する。攻撃のベクトルを反転させることで衝撃波をリヴァイアサンに返した。
だがリヴァイアサンは自身の技で傷を負うことはない。反射された攻撃を何事もなかったかのように受け流す。されど今の衝撃でリヴァイアサンの視界が少しだけ阻まれた。
アランは瞬間移動を繰り返しながら、リヴァイアサンの体の各所に移動しては打撃と魔法を叩き込む。
如何にリヴァイアサンが強大であろうと、生物であることに変わりはない。アランたちと同様に臓器、血液、神経や細胞がある。故に体内からの攻撃は有効だった。リヴァイアサンが確実に怯んでいた。
瞬間移動を繰り返すアランを捕捉するのは難しい。リヴァイアサンはアランに対抗するべく、長大な体を渦状に巻く。
リヴァイアサンの移動速度はアランの最高速度とほぼ同等だ。動くだけで衝撃波が拡散する。さらにリヴァイアサンは体表に暴風や雷撃、そして高速回転する水流を纏っていた。徹底的に守りを固めている。
アランは右拳を叩き込むが、やむなく弾き返された。それどころか右手の指が全て消し飛んだ。
「チッ……!」
欠けた指と『虚空の手』を瞬時に修復する。ここまで素早く移動されていては動きを止めることも、ダメージを入れることも難しい。何よりこのまま移動を許せば先程の転移が無駄になる。
まずリヴァイアサンの速度を落とす必要がある。そうすればリヴァイアサンを停滞させやすくなる。
『俺が無理矢理リヴァイアサンの速度を落とす。あとは頼むぞ』
『おけおけ、任せてよ』
シエルに念話で意図を伝える。彼女ならこれで十分理解してくれるはずだ。
アランはリヴァイアサンの正面に移動する。正面なら高速移動に伴う防御力の上昇の影響は受けにくい。右手に魔力と理想を集中させ、超高火力の一撃を具現化する。
リヴァイアサンもアランを睨み、超高速で突撃してきた。
真っ向勝負のぶつかり合い。まず前提としてアランに勝ち目はない。如何にアランが強化され、リヴァイアサンが弱体化しようと、単純なステータスでアランがリヴァイアサンに追い付くことは絶対に無い。
だから少しでも動きを止められたらそれで良い。アランは全力でリヴァイアサンに殴りかかるが、
「なッ!?」
次の瞬間、リヴァイアサンの頭部が目の前から消える。
リヴァイアサンの体の先頭部分が不自然に消滅していた。まるで穴に体を隠したように見えなくなっている。
瞬時に理解した。リヴァイアサンは自分とリヴァイアサンの間にある空間を別の空間に繋げて移動していると。
そしてその接続点は、
「ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
後ろだ。アランの真後ろからリヴァイアサンが大口を開けてアランに襲いかかっていた。
避けられる距離ではない。打撃が届くより先に喰われる。他の理想をぶつけても相手はこの速度だ、弾かれて終わりだろう。
だが瞬間移動なら間に合うだろうか。そう考えたが何故か空間の座標情報が上手く掌握できない。リヴァイアサンが何か細工したようだ。
つまり必中、すなわち死。一か八かに賭けて、アランはリヴァイアサンの口内に魔法をぶつけようとした。
だが、
「《断罪之鉄槌》ッ!!」
彼我の間に劫火が割り込む。アランが喰われる寸前でリヴァイアサンの前に現れたグレイが、リヴァイアサンの頭部に大剣を振り下ろした。
「ぐっぬぅぅッ!!」
グレイは渾身の力でリヴァイアサンを止めようとするが、圧倒的に力不足だった。
グレイの自己強化に限界はない。しかし能力の強化向上には時間がかかる。彼の強化速度がリヴァイアサンの攻撃に追いついていなかった。むしろ大剣から伝った衝撃で逆にグレイが重傷を負っていた。
グレイが出来た事といえば、僅かにリヴァイアサンを減速させたくらいだ。
───だが、それはアランが反撃するには十分な時間だった。
「─潰れろォッ!!─」
アランはリヴァイアサンの頭上に移動し、理想を集約した右拳を放つ。
狙ったのはリヴァイアサンの右目。リヴァイアサンが纏う暴風などを強引に突破し、拳を眼球に叩き付けた。
「オォォォォォガァァァァァァァァッ!!」
右目が陥没した。眼球の裂け目から血が溢れている。
リヴァイアサンは苦痛に暴れていた。空間の接続点の向こう側に後退し、元の状態に戻っている。リヴァイアサンの速度を大きく落とすことには成功した。
「《天帝七聖宝・天鎖縛権之印》!!」
その隙に動いたのはアリシアと天使たちだった。聖装能力によりリヴァイアサンの周囲の空間から飛び出した大量の光の鎖がリヴァイアサンに絡み付く。
途端にリヴァイアサンの行動や能力が少しだけ抑制された。鎖の抑制は十秒も保たないだろうが、これでリヴァイアサンの動きは少しだけ封じた。
「シエル!」
「ほい来た!」
再びシエルがリヴァイアサンの空間に綻びを作り、アランが空間座標に干渉する。リヴァイアサンの転移を試みた。
しかし二度も同じ転移を許すリヴァイアサンではない。今度は即座に二人の空間干渉に対抗してきた。二人の干渉力を上回る力で空間を固定し、干渉を防いでいる。
「クッソ!座標に干渉できない……!」
「ホンットめんどくさいなぁ!なんで無駄に頭良いだよぅ!」
出力を上げても変わらない。それ以上にリヴァイアサンの力が強すぎる。彼らだけでは転移は不可能なのは間違いない。
だからこそ、
「彼らに続け!リヴァイアサンの気を逸らすんだ!」
リフレイムの聖装士たちが前に出た。アランと交代して回復に努めていたリフレイムの聖装士たちが、渾身の攻撃を何度もリヴァイアサンの全身に見舞った。
やはりダメージにはならないが、攻撃の衝撃でリヴァイアサンの集中を削げた。転移させるなら今しか無い。
「「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」
大きく歪む空間の中、何かが砕ける音と共に光が瞬く。
次の瞬間には世界が大きく変化していた。目の前にあった巨体が消えいてる。今度はリヴァイアサンは百メートル以上後方に転移させられていた。
そして同時に、
─────ッ!!
音を立てて震撼する海底の地面から光が放たれた。
光が海面に円形の魔法陣を映す。円の内側には紋様が幾重にも重ねられていた。
これはリヴァイアサンを封印していた魔法陣だ。それが出現したということは、封印術式の補強と再起動が完了したということ。
「やっと、十分経ったか……」
全員が安堵の息を吐く。だがすぐに気を引き締めした。
ここからが重要だ。リヴァイアサンの体の中心部分は今の転移で封印魔法の範囲内に入っている。今から十分間、アランたちはリヴァイアサンを封印魔法の範囲内に留めなければならない。
もし一度でも範囲外にリヴァイアサンが出れば封印はやり直しだ。その時、アランたちの余力は確実に尽きている。それは敗北と同義だ。
チャンスは一度きり。正真正銘、最後の攻防。
リフレイム皇国の行く末を決める、決着の十分間が始まった。




